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12.二度目のプロポーズ

「~~っ、勘弁してくださいよ」

「ほらっ! いいからっ!!」


ミラがユーリの手を取る。

無理矢理に花を握らせようとしているけれど、彼も頑として応じようとしない。


本当に大人になったのね。

あの頃の自分を恥じる……いえ、眩しいと感じる程度には。

折を見て聞いてみたい。

この十年の歩みを。

何を思い、何を感じてきたのか。


「もう! 男、見せなさいよ!!」

()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ほらっ! エレノア様も、してほしいって!」

「えっ? ええ……。ええ、そうね」


あの日、わたくしは嘘をついた。

夢を見つつも諦めていたからだ。

でも、今ならちゃんと応えることが出来る。

本当の気持ちを伝えることが出来るから。


「お願い出来るかしら?」

「ぐっ……」


ユーリはまさに孤立無援の状態に。

観念したのか重たい溜息をついた。


「分かりました。ただ、花だけは別のものに――」

「いえ。どうかこのままで」

「……っ、お言葉ですが、これは()()で――」

「「ユーリ」」


レイとミラが同時に圧をかけた。

程度は違えど共に笑顔だ。

ユーリは苛立たし気に牙を剥いたけど、劣勢であるためか迫力はいまいちだ。

例えるのなら犬……いえ、猫のようね。


「覚えてろよ」


ユーリはどんよりとした表情でハルジオンを受け取った。

そうしてそのまま片膝をついて礼をする。


これは戦士の職を奉じる方が、忠誠や愛を誓う際に取るポーズだ。

そう。貴方は夢を叶えたのね。

幼い頃から抱いてきた戦士になるという夢を。


栗色の瞳がわたくしを捉えた。

真剣だ。一切浮ついていない。

十年もの間ずっと抱き続けてきた思い。

武骨で、真っ直ぐで……それでいて必死で。


やはり、根っこの部分は変わっていないのね。

土塗れの手でプロポーズをしてきた、そんな幼い日のユーリの姿を思い返して、ふっと笑みを零す。


「愛しています」


そっと野花を差し出してきた。

白くて小さなその花は、変わらず甘く香ばしい香りを漂わせている。

わたくしにとっては、貴方を思わせる希望の香りだ。


「俺と結婚してください」

『オレと結婚してくれ!!!』


過去と現在のユーリの姿が重なり合う。

わたくしはこの光景を深く胸に刻んだ。

死した後も、決して忘れることのないように。


「ありがとう、ユーリ。とっても嬉しいわ」


あの日と同じ言葉、同じ気持ちだ。

本心だった。だけど、この後……わたくしは嘘をついた。

夢は夢のままで。そう自分に言い聞かせて。

でも、もう諦めなくていい。

叶えるのよ。ユーリと共に。


ユーリの手に自分の手を重ねる。

わたくしのものよりも一回り以上大きなその手は、さらりとしていて汗一つかいていなかった。

ふふっ、頼もしいわね。


「ユーリ。わたくしも、貴方を愛しています。どうか、わたくしの夫になってください」

「喜んで」


ユーリは即答した。

待ちきれないと言わんばかりに。


「未来永劫、貴方だけを愛します。絶対に、何があっても」


彼が笑う。

挑発的でもあり、悪戯っぽくもあるあの目で。


「……っ」


胸が熱くなって、思わずふいっと目を逸らしてしまった。

わたくしはどうにも彼のこの目に弱いらしい。

勘のいい彼のこと、きっと直ぐに気付く。

尻に敷かれる日もそう遠くはないでしょう。


「ふごっ!?」

「っ!?」


不意にユーリの手が離れた。

彼の手はそのままベッドの上へ。

顔も深く、それはもう深く埋まっている。


「ユーリ!! このっ!! かっこいいぞぉ!!!!!」


犯人はミラだった。

ユーリの背をバシバシと叩いている。まるで容赦がない。


「やれば出来るじゃん! もぉ~~!!!」

「痛゛っ!? ~~っ、止めろって!!!」


ミラはまるで聞く耳を持たない。

二人がじゃれ合う姿は、宛ら姉弟のようだった。

微笑ましい限りね。ずっと見ていられる。

心を和ませつつハルジオンに顔を寄せた。直後――。


「っ!」


不意に視界が揺れた。

それと同時に倦怠感が押し寄せてくる。

どうやらはしゃぎ過ぎてしまったようね。


わたくしは苦笑一つに、盛り上がる三人に目を向ける。

糧になりたい。

ユーリ、レイ、ミラ、他の皆にとって、何か前進に繋がるような別れにしなくては。

そのためにもまずは……と、大小様々な計画を立てていく。


「……っ」


終わりに向かいつつある命を、肌で感じながら。




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