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死神の約束  作者: 烏蛙
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死神の約束【2】

 カラは小春の病室に入る。いつもの事なのに少しドキドキする。一度深呼吸をし、ゆっくりと小春の元へ向かう。

 小春は先ほどまで泣いていたのだろう。目元が赤く腫れていた。


 カラは何も無かったように言った。


「すまん、遅くなった」


 小春は驚いて顔を上げた。


「何があったか聞かないの?」


 カラは言った。


「聞いて欲しいか?」


「っ!」


「少なくとも俺には聞いて欲しい顔には見えない。でも、聞いて欲しくなったらいつでも話を聞く」


 カラは優しくそう言った。


「やっぱりカラは優しいね」


「そうかよ」


 小春は言った。カラには聞こえないくらいの小さな声で。


「ありがとう」


「すまん、なんか言ったか?」


「いいやぁ?」


「何笑ってんだ」


「ふふ、何でもない」


「そうかよ」


 カラは小春の笑顔を見て思った。


『小春はあの時のことを少しだけ覚えているのだろう。もし、俺があの時の死神だと気付かれたらあいつは俺を嫌いになるんだろうな。だって俺は小春の親を見殺しにしたから……』


『む? カラがなんか考え込んでる。そりゃこんないかにもさっきまで泣いてましたみたいな顔見たらそうなるか』


「ねぇカラ。お散歩行きたい! 一緒に中庭行こ?」


「んぇ?」


「だーかーらー! お散歩! 一緒に行こ?」


「聞こえてないわけでわ無かったんだが。というか、もう夕方だぞ? 何で急に」


「そういう気分なの! 早く行こ?」


「……まぁ良いか」


 小春は立ち上がるとカラの横に立ち、共に歩き始めた。




 中庭に着くと小春は花壇に駆け寄ってしゃがんだ。そこにはシロツメクサが咲いていた。

 小春は静かに話し始めた。


「私のお母さんとお父さん、私が5歳くらいの時に交通事故で死んじゃったの。だから、あまりお母さんのことも、お父さんのことも覚えてないの。でも、お母さん、シロツメクサを見ると私にいつも言うの、シロツメクサの花言葉は約束なの、だから貴方には約束を守れる人になって欲しいって。私の名前もシロツメクサが春から咲き始めるからって付けたんだって。だから私、約束を守れる人になりたい。だからいつも必ず守れるような約束しかしてこなかった。でも……ねぇカラ私と約束して欲しいの」


「……何だ?」


「守らなくても良いの、別にカラには何の利益もないから……」


「言ってみろ」


「せっかちだなぁ。…………いつも、どんな時でも私の事一番知ってて、私の一番近くにいるのはカラでいて欲しい。……お願いできる?」


 カラは小春の顔を見た。小春は笑って言った。


「ははっ……困るよね。こんなこと急に言われたら。何でもない。無かったことにして。ほら! 病室、戻ろ?」


 そう言って小春は早足で歩き出した。カラの隣を通る時、小春は今にも泣きそうな顔だった。

 カラは小春の手を取った。


「約束、する。守れるように努力する。というか、俺もそうであって欲しいと思っていた。俺が断るなんて決めつけんな。俺はその約束を無かったことにはしないし、したくない……!」


 小春は驚いたように目を見開いてから笑った。そして今度は聞こえる声で言った。


「ありがとう」




 あれから、カラは前以上に小春の元へ通った。

 カラが来てからだんだんと明るくなっていく小春を見て、看護師たちは死神の悪口を言うことが少なくなっていった。


 ある日のことだ。


 いつも通りカラは小春と病室で雑談をしていると、開けっぱなしにされてた病室の窓に紙を咥えた一羽の烏が止まった。

 カラは一瞬顔をしかめると窓に歩み寄り烏から紙を受け取った。その紙を広げるなりまた顔をしかめて小春に言った。


「仕事が入った。近くで天使が暴れてるらしい」


 小春は聞いた。


「狩人はいないの? カラが行かないとダメなの?」


「天使が群れて暴れてる。狩人が何人もやられているらしい。それに、司令は断れない」


「……」


「なぁに心配してんだ。死ぬと決まっているわけでも無い。さっと終わらせて帰ってくるさ」


 カラはニッと笑って、小春の頭を撫でた。


「早く帰ってきてね」


あぁ……行ってきます」


 そう言うと、カラの足元から飛び出した烏の中にカラは消えていった。




 カラは現場に着くと表情を凍らせた。目の前には沢山の狩人たちの亡骸があった。


「後でちゃんと看取ってやるから」


 カラは深呼吸をし、ふと表情を消した。そして小さく唱えた。


「भगवान का आशीर्वाद」


 その瞬間、カラの手に烏が止まった。烏はグシャッと音を立てて潰れると黒い液体になり持ち手が生き物の骨になっている黒い大鎌とドクロのマスクになった。


 カラは鎌を構えて天使の間合に飛び込んだ。

 カラが鎌を振ると天使は「ギャァ!」と耳を劈くような悲鳴と共に真黒な血しぶきをあげる。天使は掴んでいた男を手放してのたうちまわる。


 先程まで天使に掴まれていた男がカラに向かって叫んだ。


「もっと早くこいよ! お前らは俺たちを守るために存在してんだからよぉ!」


 カラは何も言わずに男を一瞥してからのたうちまわる天使に近づいた。カラは深く息を吸うと静かに鎌を振り下ろした。


「ギャア‼︎‼︎」


 天使は短い悲鳴をあげ、あたりに黒い血を撒き散らしながら消えた。

 男はヒッと声を漏らしその場から逃げていった。カラは男にも、消えた天使にも目もくれず無表情のまま、また近くにいた天使に飛び掛かった。




 あれから、どのくらいの天使を倒したのだろう。天使と戦っている間に目に入るのは仲間の死神たちの亡骸だ。


 もうここにはカラ以外の死神はいない。天使は死神の魂は食わないため亡骸は消えない。

 一通り目につく限りの天使を借り尽くした。


 カラはマスクをとると「ふぅ」と短く息をついた。辺りを見渡すと天使の黒い血と死神たちの亡骸が辺りに散らばっていた。


 すると、近くで赤子の鳴き声がする。鳴き声のする方を見るとカラの表情は凍った。

 先ほど借り尽くしたはずなのに天使が大勢、赤子を抱いた女を囲っている。


 天使は繰り返す。何一つ感情の込められてない機械のような声で。


「お供えしなきゃ。お供えしなきゃ。大天使様。大天使様。今、あなたの元に穢れのない魂を」


 女は赤子を抱きながらカラに助けを求める。


「助けて! お願い! お願いします! なんでもするからぁ! お願い……! この子だけでも……」


 女の必死な姿は7年前の小春を抱える母親の姿に重なった。カラは天使の群れに飛び込むと鎌を振るった。

 ザシュッとキレのいい音が鳴ると天使が数体、黒い血を撒き散らして消える。


 カラは背中を母子に向けるようにして戦う。

 すると、数体の天使がカラの鎌を掴んだ。カラは薙ぎ払おうとするが、天使はものすごい力で反発する。


 その時。


 カラの腹に刃物が突き刺さる。驚いて振り向くと。先ほどの母の口から天使が這い出てきた。女の身体は液体のようにドロリととけた。

 天使はカラの腹に刺さった刃物をぐるっと回してから引き抜き、今度は胸に刺した。


 カラはよろけて倒れた。天使はカラから鎌を奪いカラの腹に突き刺す。ぐちゃっと内臓が潰れる音がする。天使のうちの一体が鋭い牙を晒しながら大きく口を開き勢いよくカラの喉元を噛んだ。


 カラは血を吐いて気絶した。最後に聞こえてきたのは天使達のケタケタという奇妙な笑い声だった。




 カラと別れた後、小春は急激に不安になった。小春もテレビで見たり、カラに聞いたりするので天使がどれだけ恐ろしいかくらいは知っている。

 いつだろうか、カラに、カラについて聞いた。カラは言った。小春は自分に言い聞かせた。


『カラは狩人として働いてたこともあるんだし、大丈夫。大丈夫……きっと。それに! 死ぬって決まってるわけじゃないってって言ったし! 大丈夫! 大……丈夫…………だもん……』


 小春はいつの間にか走っていた。病院を飛び出し、走る。自分でもどこに走っているのか分からなかった。


 気づけば周りには誰もいなくて、ただ辺り一面に死神達の死体と黒い液体が飛び散っていた。小春はその光景があまりにも悍ましくて嗚咽が溢れた。




 少し経つと息が整い始める。すると近くで微かな呼吸音が聞こえた。今にも消えてしまいそうな微かな音が。

 小春は音が聞こえる方に行くと目を見開いた。


 そこには……


「カ……ラ?」


 そこには血だらけのカラがいた。


「嘘……嘘! 嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘‼︎ うそ……嘘だ。嘘だ! な……んで? カラ? やだやだやだやだ! やだ!! カラ! 息して! やだ! 死んじゃやだ! なんで? 何でなの? カラぁ…………お願いだからぁ! やだよ……死なないでよぉ……! まだいっぱいお話ししたいのに…………誰か、誰か居ないの?! 助けてよぉ。お母さん……お父さん……! やめてよ……神様……カラまで私から奪うの? 私、本当になんもなくなっちゃうよぉ…………」


 小春は縋り付くように泣いた。とても哀しくて、寂しくて、これほどまでに本気で怒ったのは初めてだった。


「ねぇ。お嬢さん」


 後ろから急に声をかけられ恐る恐る振り向くとそこには黒いローブを羽織った翠色の長髪の男が笑顔でこちらを覗いている。


「だ、れ?」


「そんなに警戒しないでおくれよ。僕はお嬢さんとそこの虫の息になっている僕の親友を助けたいだけだからねぇ。クックック」


 不適な笑みを浮かべた男は綺麗な翡翠の瞳をこちらに向ける。カラとは違うのに何処か寂しげなところが似ていて安心感がある。


「貴方も死神なの?」


「あぁ。そうだとも」


「カラと私を助けるって……どうやって?」


「僕は生前は医者でねぇ。なぁに、心配することはない。普通に働いていたさぁ彼の傷を見せてみなぁ」


 男が髪を耳にかける。とても綺麗な髪だった。

 不適な笑みのまま傷口を覗くと「クックック」と笑い声を上げた。


「なぁるほど、なるほどぉ。こりゃぁ、珍しい。天使に噛まれてるなぁ」


「カラ、治る? 元気になる?」


 男は少し考えてから言った。


「あぁ。この僕が必ず治してみせるさぁ。しっかしまた、大きな借りが出来たなぁ。こいつが起きてからが楽しみだぁ。クックッ」


 言い終わると男は処置を始めた。手つきはとても丁寧で美しかった。小春はその手つきをじっと見つめていた。


 処置が終わると男は言った。


「まだ、応急処置だぁ。ここでは設備が無さすぎるからねぇ。さぁて、お嬢さん少し手伝って貰えるかい?」


 小春が小さく頷くと男は小春の頭を撫でてまた「クックック」と笑った。

 男は近くに倒れている死神達の死体に近づくと一人ひとりから歯を取り始めた。


「な、なにしてるの……?」


 恐る恐る聞くと男は答えた。


「犬歯をとってるのさぁ。この子達が今まで仕事をしていたことを僕らだけでも覚えていたいからねぇ。僕はそっち側をやるからぁ、お嬢さんはあっち側をやっておくれぇ」


 そう言うと小春に小さなカプセルを沢山渡してその中に入れるよう指示した。

 小春は一人ひとりに手を合わせてから丁寧に犬歯を取った。




「よし。こっちはこの人でお終いかな。早くカラのとこに戻らないと」


 小春は採集が終わるとカラの元に走った。

 そこにはすでにあの男がいてカラは静かに寝ていた。


「おやぁ。僕が思っていたより早く終わったねぇ。それじゃあ片付けるかぁ」


 男が懐から出した瓶の蓋を開けると周りにあった死体が吸い込まれた。男が蓋をした時には周りは何事もなかったかのように綺麗だった。

 驚いていると、男の表情が急に暗くなり静かに言った。


「おやぁ。仕事はまだ終わらないみたいだぁ」


 男はそう言いながら空を見上げた。そこには十数体の天使がいた。


「えぇ~」といかにもいやそうな顔をしてから、男は深く息うと呟いた。


「इस दुनिया को शुद्ध करें」


 すると、男の口から黒い霧が出てきた。霧が男を覆うと霧の中がキラッと光った。その瞬間、霧は真っ二つに裂かれて大きな銀色に光るメスを持った男が現れた。


 天使は次々に襲いかかってくる。男はあっという間に大きなメスで天使を一掃した。


「やだねぇ。汚れたじゃないかぁ。それにしても、なんでこんなに群れているんだぁ?ほぉんとぉ、めんどくさいねぇ」


 男の顔は笑顔のままだったがその笑みからは怒りが溢れていた。男は「はぁ~」とため息をついてからカラを指差して言った。


「落ち着いたし、今のうちにコレ運んじゃおっかぁ」


 男の持っていたメスはカラスの姿になり飛んでいった。男は軽々とカラを持ちあげ歩き出す。

 小春はその後を慌ててついて行った。

こんにちは! または、こんばんは! 烏蛙です! 空行ってこれであってるんでしょうか? 一応文章の書き方的な物を読みましたが頭が悪くてどうにも理解が追いつきません、、、。死神の約束【2】です。1の続きからですね。さぁてこれから二人はどうなっていくのか、二人の前に現れた男は何者なのか、、、。是非、次回も読んでくださると嬉しいです!ではさようならぁ。

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