7
休みの今日、ステファンは家事に打ち込んでおり、念入りに掃除をしていた。終えた頃には汗だくで、道具を片づけると、すぐさまバスルームに飛び込んだ。
夏など早く終わってしまえばいい。そんなことを心で呟きながら、不快感を頭から一気に流していく。
ところが、熱さがなかなか拭えず、河に飛び込みたくなった。湯から水に変えても、冷たさを全く感じない。水のタンクが温められているのかと、疑いが過ぎる。
一息つくのは、そこの確認を終えてからになりそうだと、シャワーを止めた。少し開けておいた窓からの風が、こんなに快適だと思ったことはない。身体がそこを求めて、扉から出る足が速くなる。その時、ついバランスを崩し、シャワー室の入り口を掴んだ。視界が大きく歪んだかと思えば、瞬く間に元に戻った。
ステファンは熱中症を疑った。しかし突発的であり、違和感しかなかった。そうして考えている内に、暫く発症していなかった不可解な症状かと察すると、不安が込み上げた。それは忘れた頃に顔を出し、精神を乱そうとしてくる。
そして決まって、襲撃された当時を思い出してしまう。これは、何かが無理矢理そうさせるようで、胸に熱いものが渦巻いていく。苛立ちとも呼べる熱は、全身を巡るようだ。
冷却が必要だが、今はひとまず窓を全開にし、清々しい外気を胸いっぱいに吸った。体内を換気するように、何度も深呼吸した。だが、症状はなかなか変わらず、とうとう肩での呼吸になってしまう。
また吐くのだろうか。それが過るや否や、洗面台のスマートフォンを取り、撮影画面に変えた次の瞬間――
「はっ……はあっ!?」
スマートフォンを落とすと、シャワー室に激しく背中をぶつけ、周囲を隈なく見回す。開いた撮影画面は、偶然、カメラが内側の設定になっていた。そこに映った顔は、明らかに、自分ではなかった。
ところが、銀の毛を生やした何かなど、どこにも居ない。
苛立ちが拳に変わると、シャワー室の壁を打った。検査結果や幻覚の疑いに嫌気がさす。そしてふと、妻を空港まで迎えに行った晩のことが蘇り、顔を覆った。
幻覚どころか、幻聴までしていた。このままでは、家族皆で安心して暮らすなんて、できやしない。込み上げる焦りと恐怖に、身体が縮んでしまう。
壁に腰を預けたまま、膝に両手を預けた。足から崩れそうになるのを支えていると、自分の腕に更なる異変を見て、息が詰まった。
こんなに肉体的だっただろうか。硬くなった両腕にじっと目を這わせていると、あらぬ情報が次々と飛び込んできた。
「どうなってる……」
もはや、急に衰える病の一種だ。体毛が白く、否、銀色に染まり、陽光を受けて鋭く光っていた。撫でると固く、まるで別人の身体のようで、骨の髄から震え上がる。
すると視界が、じわじわと、あの灰色の世界に変わりはじめた。どこを向いても、見えるもの全てが緩やかに伸び、残像を残し、遅れてピントが合う。
事態を受け入れられず、ただただ首を左右させてしまう。だが、そこら中の体毛を見れば見るほど、銀に瞬き、これが冗談ではないと見せつけてくる。
顔から頭部に触れ、湯気に曇る鏡に、恐る恐る近づいた。確かめたくなどない。なのに、身体が求めてしまう。
鏡に触れ、手を斜めに滑らせた瞬間、声を上げた。それに獣の威嚇が重なると、腰を抜かし、堪らず口を塞いだ。自分の喉を伝って出たと認識できてしまうと、視線が宙を泳ぐ。元の声を、探そうとしていた。
『何だ、俺と同じになっていくのか』
不意に飛び込んだ、聞き覚えのある低い声に、ステファンは窓を振り見た。音もなく現れたコヨーテに声が出かかるも、獣の唸りにしかならなかった。
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