4
「どうにかしろっ!」
傷口に浸透していく銀の液を、確かに見た。その記憶に、更なる怒りが沸き起こる。
細かい臨床検査をしても、どんなに多くの医師の見解を集めても、特定できなかった。実際に起きている症状を、目にした現象を、誰にも見せられずに今日まできた。期待を裏切る検査の日々がフラッシュバックするにつれ、息が荒くなり、気づけばまた――コヨーテの首を掴んでいた。
「改良の意味をまるで分かってねぇようだな……碌な口利けねぇその身体、俺がよく視てやるっ!」
ステファンは怒鳴ると同時に、空いた手で更にコヨーテを掴むところ――空振りした。目の前では、茂みが風を受けているだけだった。
コヨーテを探そうと車から出ても、どこにもいない。それどころか、何事もなかったかのように、景色は元通り色づいている。過ぎ去る車両なども、通常速度に戻っていた。
慌ててルーフから顔を覗かせた時、通りすがりの夫人が驚いて立ち止まった。暫し目が合ったが、彼女は逃げるように立ち去ってしまう。ステファンは、まるで自分だけが置き去りにされているように思え、再び車内に逃げ込んだ。
一体何を見せられ、何を聞かされているのかと、ハンドルに頭を預ける。考えれば考えるほど、おかしくなりそうだった。その時、ふと、嘔吐したことを思い出し、茂みの麓を覗った。
そこにある光景に瞼を失くし、唇が震える。顔から血の気が引き、押し寄せる寒気は、蒸し暑い時期など忘れさせた。暗がりであるにも関わらず、そこに広がる吐瀉物は、まるで金属的な色をし――水銀が溶け込んでいるかのように、光の筋がうねっていた。
ステファンは、偶然積んでいたプラスチックバッグを掴むと、吐瀉物を乱暴に搔き集めた。これだけでも十分な収穫だろうと、妻の目に触れないよう、ショルダーバッグに仕舞う。
頭の中で繰り返される“改良”という言葉を、首で振り払った。自分が見たいのは、こんな馬鹿馬鹿しい幻覚ではないと、額を何度もハンドルにぶつけた。そして、心で叫び続けた。欲しいのは普通の生活であり、新しい家族と過ごすための時間だと。なのに、どうしても妻が遠ざかっていく。暗い車内が、ますます闇に満ちていく。目まぐるしく変わる体温に振り回されるせいで、意識が乱れてしまう。
「獣……改良……姿……お遊び……」
どんなに幸福な未来を想像しても、それらは勝手に口からこぼれ出た。
「自然が……見てる……?」
擦れた呟きは、車内の闇に、そっと消えていった。
Instagram・Threds・Xにて公開済み作品宣伝中
インスタではプライベート投稿もしています
インスタサブアカウントでは
短編限定の「インスタ小説」も実施中
その他作品も含め 気が向きましたら是非




