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ステファンは、妻の発言に目を見開いたまま、立ち上がれずにいた。まるで、こちらの胸の内が見えているのかと、首を傾げてしまう。
「どれだけ医学を学んでも、女性のセンスは皆目分からない。宇宙だな」
すると妻は、それを面白がった
「いい話があるって、顔に書いてある。オペ、やらせてもらえるの?」
妻はすっかり的を射てしまい、ステファンは拍子抜けしてしまう。
「また助手からだけど。君のお陰。ああ、後……」
ステファンは妻に歩み寄ると、いるであろう誰かを想いながら、彼女の腹部にそっと触れた。
「支度するから、休んでろよ」
「ありがとう。お湯だけ沸かす。気の早い友達に貰ってた、ダンディブレンドを試すわ」
何のことかと、ステファンは、妻がキッチンに向かうところを追いかけた。
妻はストックを開けると、あるパッケージをちらつかせる。みるからにコーヒーの絵が載っており、ステファンは首を横に振った。
「妊婦卒業までは、カフェインとハーブは駄目だぞ」
「あら知らないのね、ドクター。それとも厳しいだけ? これは授乳中でも飲めるもので、鉄分とミネラルが豊富なの」
そう説明する妻の横から、ステファンはそれを手に取ると、裏面を読んだ。そこには、タンポポの根を焙煎して作られた、カフェインを含まないコーヒーだと書かれていた。てっきり、そんなブランド名をした商品かと思ったが、成分表を見ていく内に、表情が緩んだ。
ホリーはカップを2つ出すと、夫からコーヒーを受け取りながら、一緒にどうかと誘った。
ところが、ステファンが返事をしようと妻に振り返った頃には、既に粉末が入れられ、彼女は無邪気に沸騰完了の合図を待っていた。
それから3日が経ち、妻の体調はよくなっていた。仕事のギアが入ることで、アドレナリンが漲っているのだろうと、ステファンは自然と感じ取る。今日は妻にとってタイトなスケジュールだが、共に家で過ごそうという、互いの気持ちのためだった。
「お腹空くだろうけど、我慢してね」
妻は搭乗ゲートの近くで立ち止まると、頬にキスをしてきた。
「これも未来のため。喜んで耐えるよ。言っても、いつもより少し遅いだけで、時間はほぼ変わらない」
身体に気遣ったメニューを並べて待っていると、ステファンは妻を抱き締め返した。
彼女は気さくに別れを告げると、手を振りながら、ゲートの奥へあっさりと姿を消す。このような見送りも、今や何度目か分からない。仕事で国境を越えることもしばしばだった妻だが、そんな旅も、一時お預けになる。ステファンは、新たな始まりを感じた拍子に、顔が緩んだ。
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