表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
*完結* Dearest  作者: terra.
Tight Bud ~若き蕾~
2/133

Prologue



開花するずっと手前の、硬く閉じた蕾の状態。

新しい可能性や、期待・希望という意味がありますが、その受け取り方は様々。


大海の冒険者~不死の伝説~ Prologue

第三話「しかし 豹変は止まなかった」(5)






「環境問題って言うけど、本当? 今までそれで生活が困った事なんてある?」



 その声は、何かを大きく揺るがせた。




 これまでの長い長い過去を振り返ってみても、大気がぬるくなる時代はあった。多種多様な生命が集まる奇跡の星――地球は、暖と冷を交互に満たすことを繰り返してきている。

 現在が、巨大な氷をも溶かされようとする時ならば、それはいずれ、寒冷化する時が訪れるだけのことであり、ただの自然現象にすぎない。

 時を経て見えやすくなった根拠に、人は首を竦め、これまで通り、己の欲を満たして生きた。どこまでも満たし、変わらず求め、欲しがり続けた。




 その姿に空虚感を覚え、苛まれたのは――人の目に留まることのない、独りの者。






 朧月夜。


 遺されし者は、身体から根を伸ばし、暗い地中や海中に這わせると、至るところを縫い進んでいた。

 土に触れれば、仕掛けられていた爆弾に腕を飛ばされた。地面が次々と飛散し、壊された。生物の身体は、それに焼かれ続けた。血潮や悲鳴の雨が、酷く臭かった。



 それでもその者は、失くした腕を再生させながら、憩いの場を探し求めた。幸と不幸が偏り、笑顔よりも不満や怒号が突き抜ける世界の中で、心おきなく過ごせる場所はどこか。



 美しい白色と砂色をしていた身体は、傷や汚れに塗れていった。(ようや)く甦った腕は、元とは違う腐った根になってしまった。そして、全身から炎のように影が立ち込めては――悪魔(サタン)の姿になり果ててしまった。






 遺されし者は、ある砂浜に飛び出すと、赤にしか映らなくなった視界の先に、不愛想な月を見た。


 歪になってしまった身体は(かゆ)く、重く、痛く、腹立たしい。このままでは、世界は何も美しくなく、楽しくもないと、歯を鳴らした。

 もっと開放的で、澄んだ空気があるところはどこか。もっと生きた土があるところはどこか。


 美しさを持続させようとしてきた努力は、共に自然として在り続けようという願いは、薙ぎ払われてしまった。

 守り続けていても、守られる事はないということなのだろうかと、焦燥に身が震える。




 眼が、赤く灯った。

 生命を守る神であるなど馬鹿馬鹿しいと、これまでの己に笑いが込み上げてくる。そして気付けば、悪魔(サタン)の笑みを浮かべながら、腐敗した両腕を広げていた。



 その場に歪みが生じると、陽炎が渦を巻きながら放たれた。空間を歪ませながら、それは蛇の形を成すと、呪いを秘めたような赤い眼を光らせる。

 蛇達は、地面を我武者羅に這い進んでは、人の世界へ分散し、消え去った。



 遺されし者は、苦しみをさらすべく、低く声をこぼした。


「喰えばいい……喰って、広めればいい……血を変えてやりゃあいい……遺伝子を変えてやれ……そうされてきた様に……」






 月が、陽炎の蛇達を見下ろしている。

 蛇達は芝生に踏み込むと、無人の公園の遊具を這い進み、更に先へ広がる森の遊歩道に入った。

 目まぐるしい速さで、舗装された道から外れていくと――雲間から射した月明かりを受け、鋭い銀の光を放った。



 蛇達は緩やかに膨らみ、被毛を生やすと、眩い銀のコヨーテに変わった。そして、あらわになった銀の眼光を、目先の黄褐色のコヨーテに向け、威嚇する。牙から銀の雫が滴ると、相手は激しい吠え声を上げた。



 黄褐色のコヨーテは、迫りくる異質なコヨーテに驚き、堪らず身を翻す。だが、遅かった。

 銀のコヨーテは、瞳から全身にかけて、鮮やかな銀の光の筋を走らせると、突進にかかる。風を切るよりも速く相手の首を取り、その息を止めた――かと思いきや、相手は激痛と猛烈な熱さに唸りだした。


 黄褐色のコヨーテは、何かが体内を巡り、焼かれるような感覚に悲鳴を上げる。そのまま、同じ銀の被毛に豹変しては、胴震いで光を瞬かせると、月に向かって吠えた。






 銀のコヨーテ達は、瞬く間に生物の豹変を広めていく。

 暗い森が、彼等の銀の残像で明滅すると、他の動物達が避難をはかった。その悲鳴や草の摩擦を聞きつけた銀のコヨーテ達は、片っ端から彼等に喰らいつく。浅く入る牙からその体内に、呪いを流し続けた。



 動物達は、熱鉄のような銀の液に蝕まれ、身を(よじ)らせる。そして森中が、幾多もの銀の眼光に満ちていった。

 皆、狂気の悲鳴を上げながら駆けずり回り、或いは、激しく空を舞った。飛び火するように山を越え、地域を越えた。多方面にまで続く呪いの連鎖はやがて、鹿や熊をも豹変させていく。



『こいつぁ、馬鹿げた人間に訪れた、抗えん運命だ……』


 岩の上に佇む、1頭の銀のコヨーテが、低い威嚇を言葉に変えた。地を這うような重い(わら)いをこぼしては、舌なめずりをし、眩い被毛を逆立てる。そして、雲に潜む月に遠吠えを放つと、淡い銀の瞬きを散らしながら、煙の如く姿を消した。









Instagram・Threds・Xにて公開済み作品宣伝中

インスタではプライベート投稿もしています

インスタサブアカウントでは

短編限定の「インスタ小説」も実施中


その他作品も含め 気が向きましたら是非



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ