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COYOTE New[19]
ホリーは、夫の声に顔を照らされるようで、瞳が揺れる。
「それ、最高!」
どこかの縺れが解けた気がして、ホリーは夫に飛びついた。無邪気な行動にポットが倒れかけ、ステファンは咄嗟にそれを支える。
「でも、それは本人次第。俺達はただ、どんな時でも味方でいてやるだけさ」
ステファンは言いながら、妻の頬を弄ると、紅茶を注いでいく。そして、暫し風の音を聞いたところで、もう一度妻を見た。
その笑みは、先ほどよりも控え目になっていた。何がそうさせているのかをどことなく察した時、ステファンは妻の髪を撫でる。そしてだんだん、妻が元の笑顔を取り戻すと、すぐさま口を挟んだ。
「君が思ってしまうことは、何もおかしくない」
内面での焦りに、ステファンは、斜面を滑りかける感覚に陥った。妻が見せる感情は、この瞬間、静かに、しかし大きな目の動きを見せた。
「貴方に、心配をかけないかと思って……」
仕事の時とは打って変わり、妻は込み入った話題になると、慎重になり過ぎてしまう。多くのセンスを働かせ過ぎる部分もまた、ステファンはよく見てきた。
「これまで君を心配しなかったことなんてない。そしてそれは、これからも有りえないよ」
敢えて軽い口調で言うと、ステファンは紅茶を少し含んだ。妻が振り向いた気配がしても、絶景から目を離せずにいた。
ずっと昔のことだが、彼女の知り合いに、難産ゆえに母を亡くした人がいる。その話を耳にして以来、今でも胸に傷のように残っていた。
そのことをじっと空に見つめては、ステファンは、しびれた空気を切った。
「俺は君無しではやっていけない。もし、その時が来てしまったとすれば、俺は迷わず君を助ける」
速い雲の影が、その場を暗くさせる。鮮やかな紅茶の表面に浮かぶ自分の顔が、その影に溶けていくのを眺めては、ステファンは続けた。
「後に同じ子が生まれてくることが無いのと一緒で、君が生まれてくることもまた、ないからだ。俺はそんなに早く、君に動植物に……別の魂に変わって欲しくなんかない」
冷たいだろうかと、最後に呟くように訊ねては、ほんの僅かに妻を見た。彼女は何も言わず、表情も変えないまま、言葉を咀嚼しているようだった。
ホリーは夫の、敢えて言葉にされていない気持ちを、何度も心でなぞった。溌溂とした自分から、急に怯えてしまう自分まで、彼は全て受け入れてくれる。
「新しいことをするにも、困難をクリアするにも、そこにいつも君がいてくれないと……」
そしてそれは、自然界でも同じではないだろうか。ステファンはそう言って、真正面から妻に微笑んだ。
ホリーは、半ば熱くなりかけた目を風にさらすように、大きく顔を上げる。そのまま目を閉じると、ふと、声も無く笑った。自分もまた守られているのだと、実感しながら。
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