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花の萎れはじめです。前章に引き続き、変容の意味も含まれますが、ここでは「手放し」とし、これまで自分を縛り付けていた固執した考え・古い考えを手放すとします。
COYOTE Hunters Moon[14][15]
Epilogue
2人の失踪が報じられて2年――狩猟の満月が浮かぶ10月。
ライブの進行中、時はやっと風向きを変えた。
会場が別の騒ぎに埋もれはじめると、パフォーマンスは打ち切られた。会場の仕切りの一角に、警官とパトカーが集まる様子を、観客は僅かであれ、映像に押さえようとする。
警官の案内が立ちはだかり、観客は半ば強引に、会場の外へ誘導されていく。彼等の言葉1つひとつを、家族やメンバーは拾い上げる余裕などなかった。
“アクセル・グレイ、保護”
1本の無線が、彼の戻りを心待ちにしていた皆に響き渡った。
“失踪中のアクセル・グレイが先ほど、チャリティーコンサート会場付近で保護されました。彼自身、あのシルバーの姿をしておらず、容態は安定している模様です。
再会できた家族や友人はもちろん、この日のために貢献してきた多くの協力者による力が、今夜、漸く形になりました。しかしまだ、彼が共に行動していたとされるステファン・ラッセルの行方は追えていません――”
離れた集会用テント内でステージを観ていたホリーは、石のようになりながら、モニターを眺めていた。そこには、次の任務に向けて足早に移動する警官達と、アクセルの僅かな影、彼の関係者達が見える。
「貴方も場所を変えましょう。これからまた、新しい手掛かりが見つかるはずだから」
傍にいた警官が、震えを堪えるホリーの肩を取り、促した。
ライブの日は、いつもこのようにパフォーマンスを見守ってきた。いつも安全を第一に考慮してくれたメンバー達のお陰で、夫を探す意欲を今日まで保つことができた。
だが少しだけ、身体のどこかが小さくひび割れ、欠片が落ちるような感覚に、胸が疼いた。大きな切り札になってくれたアクセルが発見された――その喜びは、まるで自分のことのようだった。でも、それを叩き壊そうとする何かが、全身を巡りはじめた。
夫はどうしたのか――そう過ってしまうのを、何度も呑み込んだ。
綿密に安全を考慮しながら、警察を中心に、協力者の1人ひとりが捜索に徹した故の結果だ。そして、事の発端はやはり、自分達夫婦であり、そこに巻き込まれたアクセルが、1日でも早く見つかるようにと願ってきた。失踪者が出た順に発見されるのではない。そんなことはずっと前から百も承知している――はずだった。
「奥さん」
警官の2度目の呼びかけに、ホリーは胸を擦りながら涙を呑む。そして、顔が見えない程度に肩越しに振り返ると、どうにか、重い頬を引き上げた。
「少し後でいいわ……大切な時間だから……」
――私はまた、きっと、自分を見失ってしまうだろうから
ホリーは、腹の息子を意識しながら、そっとマタニティチェアに背を預けた。
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