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保護施設に移って数日後。失踪した2人の手掛かりが掴めない傍ら、ホリーはアクセルの家族と連絡が取れ、すぐに会う約束をした。
彼の家族は、ホリーの状況に声を失ってしまう。中でも長女は、施設のロビーに駆け込むなり、ホリーに飛びついた。
「会いたかったですっ……」
「キャシー、ごめんなさいね……」
泣いて離れない彼女は、昨年、臨時講義に感銘を受けていた生徒だった。
夫を早く見つけられていたら――キリのない思考の渦に埋もれそうになるところを、どうにか掻き分け、ここまできた。
「是非、息子さんを探すお手伝いをさせて下さい」
ホリーは、後から来たキャシーの両親の手を取った。
「旦那さんのことがあるというのに……うちの子は無茶なことをしてますよ……貴方に苦労を塗り重ねてるようで、言葉が見つからない……」
アクセルの父は、ホリーの手を強く握り返すと、互いに1日でも早い家族の再会ができるよう励ました。
ホリーは頬を拭うと、力を取り戻しつつある身体を凛と保ち、改めて家族と向き合う。
「どうか、気を悪くなさらずに聞いて頂きたいのです。息子さんは……アクセルは、懸命な人です。それはキャシーを見てもよく分かります。彼は、私や知人では辿り着けなかったところに行き着いた。あの騒動での彼の発言は有益です。彼が言い残していったものに向き合うために、私達は、一度自分の中にある枠を外す必要がある」
この時、ホリーの横顔を見ていたキャシーは、胸を打たれていた。講師は窶れていながら、変わらず、あの教壇で見た凛々しい表情をしていた。
「ねぇ、妊婦さんなんだから立ち話はよそうよ」
不意に飛び込んだ冷静な声は、細々としていた。ホリーは腹に手を添えると、共に立っていたもう1人の少女に微笑みかける。アクセルの母は、次女のソニアを紹介した。
ホリーは、兄が帰らなくて気が休まらないでいる彼女を、優しく抱き寄せる。ソニアは、ホリーの腹を気遣うと、自然とそこを撫でていた。メディアや姉の話でしか聞いたことのないホリーに、少し緊張しながらも、長い期間妊娠しているという事実に驚きを隠せなかった。
「……男の子なんだよね? お腹の中で歳をとってるの?」
ずっと想像していたことを、ソニアはつい口走ってしまう。それは束の間の和みであり、ホリーは新鮮で堪らず、嬉しくなった。今日まで、そんな愛らしい真っ直ぐな質問をされたことなど、一度もなかった。
「身体はそのまま、頭脳だけはきっと、ここにいる年数分あるんじゃないかしら」
それには、ソニアの母が真っ先に耳を疑った。ホリーは久しぶりに笑うと、胸が自然と高鳴っていく。
「この子はスマートよ。こんな狭い処でずっと我慢しながら、父親の帰りを待ってる。私の動きを妨げようとしないで、ついて来てくれる。悲しい時は、蹴って励ましてくれる。心強いわ」
ソニアは、勇ましい様子で息子を語るホリーの言葉を噛み締め、大きく頷いた。
「凄いわ。でも、お腹にずっといる選択をしてるところは、無茶だと思う。私のお兄ちゃんに、ちょっと似てるかも。男の子って、何だか強引なところがあるよね」
ソニアは悪戯に歯を見せた。それでも、泣き腫らした目は誤魔化せてなどいなかった。
その後、ホリーの声は再び、2人の失踪者情報と共に広がっていった。捜索を始めた最初の頃の意欲を取り戻し、施設で安定した生活を送りながら、夫とアクセルの足取りを探るべく、ウェブや記事に噛りついていた。そして、警察や家族の反対を押し切り、夫と選んだあの家に戻る決断をした。
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