これも運命ですので
久々に更新してみました…!読んでいただけると幸いです!
ファッジ様とフォークロイ公爵に送ってもらった後別邸から本邸に戻ると、マーグレイブ家は大変な騒ぎになっていた。まず、マール男爵令嬢から言いがかりをつけられたことをお母様が聞き、憤慨したその直後にアージリー家との恋情が関係していると知り、不安のあまり寝込んでしまった。
お父様はいつものごとく穏やかな様子だったので、私はお父様にフォークロイ公爵とのやり取りについて話すことにした。
「ーーーお父様、そういう事情になりまして、秘書官として来週のはじめから寮に入ってまいりますわ」
さすがのお父様もことの顛末を聞いて、目を若干見開きはしていたものの、数秒固まった後にはいつものにこやかな表情に戻っていた。
「フォークロイ公爵なら、悪いようにはしないと思うから良いけれど、危険があると判断したならすぐに辞退して戻ってくるんだよ」
そう言って、いそいそとお母様の介護をしつつ、送り出してくれた。
思えば今日は、前世であのアージリー伯爵家に嫁いだ日だ。家を出ることは決まっていたのかもしれない。
「まるで運命ね……運命といえば…アージリー卿のあの言葉……」
間違いなく、アージリー卿は前世の記憶がある。運命共同体だなんだと言っていた気もするが、結局のところ自分の思い通りになる女性をそばに置いておきたいだけなのだ。あらかじめマール男爵令嬢にも色を使って、あえて私に敵対するように仕向けていたのかもしれない。
対貴族特殊公安部の他の隊員に事情聴取をされていたと思うので、これ以上下手な手出しはしてこないと思うが…。
「もぉ~!!なんで、あのクズ男も記憶あるのよ!!」
思わず自室のベッドに枕を投げる。
この部屋ともまたしばらくお別れかと思うと、寂しいものだ。
「…でも、秘書官、かあ…」
今まで正当に勤務をして、評価されたことなどなかった。
だからこそ、今回思いがけず自分の行動が評価されたことがうれしくて、頑張りたいと思っている。
「お嬢様…」
メイドのミリーが声をかけてくれる。少し寂しそうな顔をしていて、前世でもそうだったな、と思う。
「大丈夫よ、今回は。それに研修が落ち着いてたら週に1回帰ってくるから!」
「今回は…?どうか、どうか無理はしないでくださいね。お嬢様が明るくなったのは嬉しいのですが、頑張りすぎも体に毒ですよ」
「本当に、そうよね…。ありがとう、健康第一でやっていくわ」
「はい!またお土産話教えてくださいね」
そうして荷物をまとめた私は、王都へと向かうのであった。
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(ユリウス・フォークロイ視点)
「隊長!どうしてマーグレイブ辺境伯令嬢を隊員にひきこんだんですか!?」
マーグレイブ令嬢を送り届けた後、ユリウスは馬車の中でジルに詰められていた。
「なんでも何もないだろう。先ほどマーグレイブ令嬢に説明した通り、有能であったからだ」
「だからと言って、カチカチの保守派の家の人間を隊員にすることで、いらぬ疑いをかけられるということは隊長も分かっているでしょう!?」
「ああ…そういえば王政廃止派の連中が騒いでいたな。ふん、それがどうした」
不遜なユリウスの態度に、ジルはますます落ち着かず騒ぎ始める。
「またそうやってごまかして!僕を起用した時は保守派の人間から散々言われたんでしょう!?伝統ある貴族社会を壊したいのか云々って!!どうするんですか!?保守にも廃止派にも睨まれたら動けませんよ!!」
しかしユリウスは動じずに、足を組んで落ち着きはらっている。
「だからこそだろう」
「は…?」
「有能な平民を入れて保守派が波立った時には、随分と王政廃止派の粗が見えたものだ。賄賂を渡そうとしてくるもの、自分の娘を婚約者にあてがおうとする者、怪しげな舞踏会に招待してくるもの、などな。今回マーグレイブ令嬢を起用したことで、今度は保守派の粗が見えてくるだろうさ」
「な、なるほど…」
ジルはユリウスの説明でようやく納得し、窓の外を眺めることにした。
「でも、それって…ちょっとマーグレイブ令嬢を利用しているみたいで、外聞が悪いですねえ」
そして、ぼそっと呟く。これは一人ごとのようなものではあるが、ユリウスへの戒めでもあるのだろう。ジルは感情的にさえならなければ、物事を俯瞰してみることのできる賢明な男だ。
「………。お前も利用されている側だろうが」
ユリウスはそのことには言い返さず、ジルに矛先を向けることにした。
「僕は利用されていません!自分の意思でいるんです!大体あなたはそうやって誤解を生みだして物事をややこしくして……」
そうして再び沸騰したジルの小言を聞き流しながら、馬車に揺られていくのであった。
ーーー夜、ユリウスはある夢を見る。
王都の牢屋の中に、一人の女がいる。その女の顔は見えないか、起きても覚えていない。
月明かりに照らされた部屋で、長く美しいプラチナブロンドの髪がまるで発光しているように見える。
私はその美しい女が、いったい何の罪を重ねたのだろう、とぼんやりと考えていた。
だが、その夢の中の私はその罪を知っているらしく、一言二言会話をしていた。
女は細くやせ細り、不健康そうな様子に心が痛む。
王都の牢屋では食事を出すことが原則であるはずなのに、この牢屋では出ていないのだろうか。
その女は泣いているようにも見えた。
何がそんなに悲しいのか。
すると、牢屋の奥の方が騒がしくなる。脱獄者がいたのだ。
夢の中の私も何かしらの役職についているのだろう、その脱獄者を捉えるべく、迫ってくる男の声に耳を澄ませて待っていた。
骨の2、3本はいくか、あるいは重傷を負うことを覚悟するその様子から、傷害事件の犯人か何かだろう。
どうして脱獄したのか、そしてどうしてあそこまで興奮しているのか。
何者かの関与と、薬物の使用が疑われるが、夢の私もおそらくそのことには気が付いているだろう。
脱獄犯と、何者かの関与…そういったことに注意が向いていた結果、私は全く牢屋の中の女に注意が向いていなかった。
唐突に自身の剣が抜かれ、女が横をすり抜けながら、一言呟く。
目の前に広がったのは、女の背中と、薔薇の花のような赤い水滴。
女は、脱獄犯を無力化したうえでその場に倒れる。
手がとっさに伸びて、思わず抱き留める。女の体はあまりにも軽く、息ももう長くはもたないことが明らかであった。
どうしてこんなことを、どうして自分なんかを庇って、どうしてこんなにも軽いのか、どうして…解き放たれたような顔をしているのか
そうした疑問が、思わず口にでていたのかもしれない。
女は焦点の合わない瞳を私に向けたあと、ふっと微笑んでから息絶えた。
「…っ!!」
勢いよく起き上がったユリウスは、自分がベッドの中にいるのを確認し、はあ、と息をはく。
「またあの夢か…」
何度も何度も幼いころから繰り返しみた夢だが、その夢の詳細は起きるをぼんやりとして思い出すことができない。
ただ己の無力感と、外から見る夢の中の自分への怒りが強くなっていくだけだ。ぼんやりと眺めているだけの自分に腹が立つ。どうして牢の中に注意を向けていないのか。何をみすみす脱獄させているのか。
初めて王都の牢屋に見学に行ったときには愕然としたものだ。これはあの夢の場所そのものではないか、と。
私は私の愚かさに辟易としていた。だからこそ文武を鍛え、王に公安部の隊長を任されるまでになったのだ。
だが、たかだが夢の内容にいつまでも苛立ってはいられない。空が白み始めていることを確認し、ユリウスは水を飲んでそのまま起きていることにした。頭の中に、ふと昨日会った令嬢の姿が思い浮かぶ。舞踏会の会場で見せた魔法の鮮やかさとはうってかわって、しどろもどろに答える聴取の様子がおかしくて、気がついた時には隊員に誘っていたのだ。
もちろん、ジルに説明した派閥争いに利用するという考えも頭になかったわけではないが…。
ユリウスは自分が気がついていないうちに、上機嫌になっていることに気が付いていなかった。
ありがとうございました<(_ _)>




