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社交界ですので

少し間が空きましたが、読んでいただけると幸いです


舞踏会までの準備期間に、私はまず新しいドレスを用意した。

お母様に舞踏会に参加することを伝えたら、伯爵家のことについて何とかしてくるようにと言われ、代わりにドレスのデザインを一緒に考えてくれた。


舞踏会で私がやるべきことは、まず印象が薄く滅多に現われないよく分からない令嬢、というイメージの払拭。

これは舞踏会に参加するだけでも大分と改善されるし、恐らく流行と違うドレスを着ているだけで目立つだろう。


その目立った状態を良い方向にもっていくために、私は再び笑顔の練習と参加する貴族の方々の情報をインプットすることにした。

親しげに話しかけつつ、あなたのお家を知っていますよ、と言われたら悪い気はしないだろう。


次にするべきは、噂の根拠を否定すること。

アージリー家と婚約をしなかったのは男遊びをしたいからではなく、他の理由があったのだと印象づけたい。

でも結婚適齢期の女性貴族が結婚しない理由なんて、そう簡単には思い浮かばず…。


エノーラといることで、少なくとも男遊びのためではない、とアピールが出来れば良いのだけれど。

まるで友人を利用しているようで内心罰が悪いが…


まあエノーラとしても滅多に現われない辺境伯と仲が良い侯爵令嬢として舞踏会に存在することで、新しい婚約者候補を有利に探そうという狙いはあるはずだから、お互いに織り込み済だ。


貴族である以上避けられないことであるし、コネ作りも大切だと今なら分かる。

そしてその貴族的背景をお互いに暗黙の了解として織り込み済であるからこそ、友人として信頼もできるのだと今身をもって体験している。


…とりあえず、舞踏会に行ってみないと分からないものもある。

「憂鬱だけれど…エノーラと仲良くなれたように、得るものもあるかもしれない。頑張ろう!」




ーーーーーー


準備をしたいと言っても、心の持ちようと知識の詰め込み以外には特に出来ることもなく。

あっという間に舞踏会当日となった。


王都は少しだけ遠いので、前日には王都の辺境伯別邸に移り、万全の準備を整えての参加である。

会場には多くのきらびやかな人々が集まり、目がチカチカしてしまう。


「やっぱり…こういう場は苦手だわ」

しかしそうも言ってられない。

出来る限り姿勢をよくして、私なりの柔らかな雰囲気の勝負服を爽やかに着こなして入場する。


現王がご挨拶にこられるまではまだ時間があり、それまでは各々食事を楽しんだり、世間話をしたりと自由に過している。

すると、さっそくきこえてきたのは例の噂と…私の服装についてだった。


「まあ、あちらのご令嬢は…どちらの方かしら」

「あまり見ない顔だが…あの顔立ちと髪色は、辺境伯のご令嬢じゃないか?」

「マーグレイブ夫人は本日は欠席ですのね、残念…」


「マーグレイブ家のご令嬢といえば、男あさりをしているとか、わがままな気性だとか、色々噂になっているが…」

「まあ、でも…優しそうな雰囲気ですわよ」

「流行のものではいらっしゃいませんが、とてもそのような気性だとは思えませんが…」


「騙されてはなりませんよ!きっと、あの大人しそうな顔で裏ではわがまま放題なのですわ!」

「そうよねえ、ろくにマナーも覚えていないと聴きますし、ダンスをしているところだってほとんどお見かけしていないわ」


「まあ…確かに…そうねえ」

「あのアージリー伯爵家が言っていたのだから、信頼出来る情報なのかも?」

「まさか、清純そうな女の子じゃないか!私の娘くらいの歳だぞ」

「さてさて、どうなのやら…」


ひそひそひそひそと、小声のつもりなのだろうがあちこちで話題になっているせいで大まかの会話が聞こえてくる。

憂鬱だが、こんな時ほど胸を張れとお母様は言っていた。

ちなみにお父様は好きにしたら良いの一言だけで、後は温和に微笑んでいた。

両親に迷惑はかけられない。

このままでは家の風格まで落ちてしまう。


私が会場の中央の方まで移動していると、エノーラと合流することができた。

「ジャスミン、来てくれたのね!まあ…!今日のドレスも似合っているわ。レモンイエローとレースのドレスは初めて見たけど、デザイン自体は素朴なのにジャスミンが着るとこんなに清楚で似合うものなのね」

「そんなに褒められたら何だか恥ずかしいけど、ありがとう。エノーラも今日は小さなフリルの沢山入った可愛いデザインにしたのね、とっても素敵よ」

「あら…本当ね、少し恥ずかしくなっちゃう」


すっかり親友のように褒め合う私達は、お互いの健闘をたたえ合う剣士のようだ。

周りの貴族達は私たちのやりとりや、仲の良さに驚いた様子だ。


先ほどよりも肯定的な言葉やあたたかな視線が増えているのは、きっと気のせいではない。

一方で、悪意の視線もさらに鋭くなったように感じる。


私達が目立っているのが気に入らないのか、それとも本当に噂を信じていて疎ましがられているのか。

真相は分からないけれど、序盤にしては味方が増えた方だと思われる。


しばらくして、王がご挨拶の為に壇上に現われた。

若くして王になったかの方は、貴族の勢力争いに巻込まれながらも徐々に強固な覇権を作り上げ、安定した統治をする名君として親しまれている。


まだ50代とは思えないほどに貫禄のあるお姿には、今までの苦労が反映されているようだ。

挨拶が終わると、正式に舞踏会が始まった。


魔法で花火が上げられ、きらびやかな演出のあと、演奏が始まる。


1曲目は第一王子ロレアル・カンパネラ様が踊られた。お相手は婚約者のダリア・ステライト様だ。

お二人とも華やかな容姿をされており、まだ10代の学生である。

今日は祝日扱いで学園もお休みの日だったので、こうして参加されているようだ。


初々しい二人が仲睦まじく踊られる様子を見ていると、恋って良いなあ、と思える。

エノーラは目をキラキラさせて、「私もああなりたいものですわ…!」と羨望のまなざしを送っていた。


エノーラだけではなく、他の若い男女も同じようなリアクションをしている。

良いなあ…。


2人のダンスが終わり、自由に踊ったり、食べたり話したりする時間になった。

「ジャスミン、私、ちょっとお誘われ待ちしてくるわ!」

すっかりさっきの2人の当てられたのだろう、エノーラは未婚の女性がよく誘われ待ちをしている中央のテーブルに向かっていった。

以前の暗い顔が嘘のように、わくわくしているような顔を見ていると、本来は恋多き性格なのかもしれないな、と思ったりもする。


「さて、どうしようかな…」

今回は踊ることが目的ではないし、壁の花になりつつ適度に人と交流していこうかしら。


そう思い、移動をしていると、「ちょっと、よろしくて?」と声をかけられた。

何人かの同い年か少し下くらいの女性たちが私を取り囲む。


「ええと…どちら様でしょうか」

あまり見かけたことのない人達だ。

交流のなさから考えるに、恐らく伯爵家以下の下級貴族だろう。

勢いあまって話しかけに来たといったような、苛立った雰囲気がすぐに分かる。


本来下級の貴族が辺境伯家の私に話しかけることは失礼に当たるが、何の用かを知りたかったのであえて指摘はしなかった。

それが相手に舐められる要因だったのかもしれない。


「申し遅れましたわ。私、マール・フォトナルト男爵家のものですの。

あなた、アージリー伯爵家の婚約を断ったというのは、本当ですの?」


やはり知らない下級貴族だったが、随分偉そうだ。

自分の方が正しいと信じ切っている、前世のリリーのような性格をしている。


派手な化粧をしているが、彼女の強い瞳には合っている。

今の流行に乗った、魅力的な女性。

でも、今の私はもうあまり怖さを感じていない。


無作法者に答える必要もないが、せっかくだからこの機会を利用しよう。


「ええ、そうですが。どうしてそのような質問を?」


問いに答えたのは、周囲の女だった。

「よくもまあ…!貴女のような自分勝手な女性に、彼女の初恋の君が振られるなんてありえませんわ!」

「そうよ!アージリー郷の名誉を傷つけて、のうのうと舞踏会に参加されるなんて思わなかったわ!」


……何を言っているのかさっぱり分からないが、どうやらアージリー様にこのマール男爵令嬢が恋をしているようだ。

婚約を申し込んだが断られたのか、それとも遊ばれていたのか、事情は分からないがアージリー様のことだ。

どうせ甘い言葉でも囁いていたんだろう。


「名誉を傷つけたと言いますが、具体的に私が何をしたと言うのです?」

できるだけ笑顔のまま、社交的な雰囲気を崩さないように気をつける。


まだこの騒動に気がついているのは周りの数少ない人だけだろうが、私の印象がここで変わってしまいかねない。

だが、この余裕の態度が癪に障ったのだろう。


ますます男爵令嬢とその取り巻きはヒートアップしていく。

声も大きくなっていき、言葉も汚くなっていく。


ああ…嫌なことを思い出す。

馬鹿みたいに騒ぐ元夫と、気に入らないことがあると嫌みを言ってくる愛人。


あの頃は少しの恐怖と諦め、回避することだけに専念していた。

本当はそうやって過した方が楽ではある。

楽ではあるけど、楽しくない。

楽ではあるけど、辛くて暗い。


だから今頑張らねば。

ゆっくり深呼吸をして心を落ち着かせていると、怒りの頂点に達したらしいマールがついに実力行使に出始めた。


「馬鹿にしてますの!?人の気持ちをなんだと思っているのかしら…!!このあばすれが…!!!」

一言も発していないのに馬鹿にもなにもないが、彼女の中では自分が被害者らしい。


彼女の手にパリパリと電気の魔力が溜められていく。

誰にも気づかれないように体に電気を流して、私を気絶させてやろうという魂胆なのだろう。


「…愚かな子」

「黙りなさい!」


マールは私の手首を掴み、恐らく彼女にとって最大電力を流した。





















雨も楽しんで過ごしていきたい今日この頃ですね

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