友人なので
現実がやや忙しくなってきました…!こつこつ書いていきたいです
お茶会が終わって一週間も経たないうちに、エノーラ様からお手紙が届いた。
内容はお茶会での私の言葉への感謝と、また会いたいというものだった。
今までお茶会に参加したことはあれど、こういった手紙を貰うことはなかった私は嬉しく思い、早速会うことにした。
返事はすぐに届き、今度はエノーラ様のお屋敷で、個人的なティータイムにお邪魔することになった。
「ジャスミン様、本日は起こしいただきまして大変嬉しく思いますわ」
親しげ挨拶に私の方も気持ちが緩む。
「こちらこそ、エノーラ様とまたお会いできるなんて光栄です」
「もしよろしければ、エノーラ、とお呼びください」
「ありがとうございます。では、私の方もジャスミンとお呼びください」
私がそう返すと、ふふふ、とお互いに笑みがこぼれる。
「ジャスミン、今日の衣装も素敵だわ。柔らかな雰囲気がとても似合ってる」
「ありがとう。エノーラもいつもよりアクセサリーの系統が違っているみたい。かわいらしいわ」
内心慣れないながらもエノーラと呼んでみると、何だか昔からの友人のような気持ちになってくる。
思えば、元夫でさえ呼び捨てにしたことはなかった気がする。
誰かと打ち解けていく感じ、心がくすぐられているように自然と嬉しくなる。
「気づいてくれたのね!実は、前のお茶会で見たジャスミンの姿が本当に綺麗で、私も自分に似合うものを探してみたくなったの」
「前の大きなゴールドアクセサリーも勿論綺麗だったけど、今の真珠のようなかわいらしいアクセサリーの方が、エノーラの華やかさが際だって見えるわ」
「ふふふ、私もそう思ってた」
エノーラは豪華で華美なものよりは、かわいらしくまとめている方が似合うようだ。
私と違ってフリルも似合うし、エノーラが私と全く同じ変え方ではないのも、誰かのまねではなく自分自身に焦点が当たっている感じがして良い。
「それに…婚約者に言われた言葉も、まだ少し傷として残ってはいるけれど、忘れていこうって思えたの」
「まあ!そうなの?」
「面白くないって酷い言葉だわ。本当に私自身に魅力がないみたいに思えてしまうし、みじめな気持ちになるの。…でも、ちょっとだけ、今までの自分じゃない自分の姿を見ると、変わっていけるんだって勇気が出たわ。ジャスミンのおかげね」
少し涙を目に浮かべながらもはにかむ彼女はとても健気で献身的に見える女性だ。
こんなかわいらしい女性を面白くないと切り捨てるとは、どんな人間だろう。
「私じゃ無くて、エノーラの力よ。私だったら今頃、婚約を破棄されたショックから家に引きこもっているわ」
「ジャスミンが?想像もつかないわ」
エノーラは笑ってくれるが、前世の自分なら確実に引きこもってうじうじしていたことが想像できる。
そして数年が経って、親に勧められた縁談で見知らぬ誰かと結ばれていただろう。
そう思うと、彼女は強い。
「エノーラの元婚約者は今どうしているの?言いたくなかったら大丈夫だけれど…」
「聴いてくれる?実はね…」
エノーラの婚約者は、幼なじみだったらしい。
学園を卒業後は騎士団に入団し、優秀な方で将来は王太子の側近となるだろうと期待されていた。
婚約は幼少期の親同士の口約束が学園時代に現実になった形で、お互いの家にとっても利のあるものとしてすんなり決まったらしい。
本人同士も学園を卒業するまでは頻繁に遊びに行ったり、手紙でやりとりをしていて、良好な関係だった。
だが、数年後に結婚するだろうと決まり始めたタイミングで、彼の方が会いたがらなくなり、手紙を送らなくなっていった。
理由を聴いても「別にない」と答えるばかり。
結婚が重荷になっているのかもしれないと思い始め、エノーラは彼を励ますように手紙を渡し続けた。
その状態が半年続いた結果、突然「婚約を破棄したい」と連絡が入る。
向こうの親も知らなかったようで家はてんやわんやの大騒ぎ。
やっと直接会うことが出来たが彼の決意は固く、エノーラの気持ちもその頃にはもうほとんど冷めていたが、もしかしたらただの気の迷いで、という思いも捨てきれずにいた。
「馬鹿な話よね。それで結局私は理由を問い続けたの。どうしてって。そうしないと何だか訳も分からないまま私の半生が消えてしまう気がして。そしたら、彼は苛立ったように言ったわ。お前は一緒にいても面白くない、でも彼女は違う。いつもきらきらしていて、俺の予想の遙か上をいくんだって。言葉も…出なくて…私は、もういいやって思ったの。
…それで婚約は破棄されて、家同士も険悪になったわ。彼の家は子爵家で、サジタリー家に入ることで身分を上げて箔をつけることが向こうの狙いだったから…。彼の新しい恋人は男爵家で、小さな領地の子らしいの。出世は遠のくけれど…それでも良いんだって両親を説得しているらしいって共通の知人が言ってたわ」
「そう…」
話し終えると、エノーラは気を取り直すように顔を上げた。
「でも、そうまで彼を魅了することが出来たその女性は、一体何者なんだろうって思ったりもするの。私みたいに大勢の場で萎縮してしまうのではなくて、きっときらきら中央で輝ける子なのかもしれないわ」
少し無理をした笑顔を見ると、切ない気持ちになる。
前世で愛人として現われたリリー、彼女もきっと中央で輝くタイプの子だった。
学も教養もないけれど、マナーだって無茶苦茶だったけれど。
そうやって人を引きつける自信を、彼女は持っていた。
「…何となく、憧れてしまう気持ちも、嫉妬してしまう気持ちも分かるわ」
「ジャスミンも同じ気持ちを?」
「エノーラの悲しみは貴女にしか分からないけれど、それでも…。あんな風になれたらうまくいったのかなって思ってしまうのよね。でも…きっと私はああはなれないし、ならなくても良いのかもしれない、とは思っているの。私は今はまだ、自分のやりたいことを探している段階だけれど、きっと私にしかできないことがあると思ってるから」
「ジャスミン…」
「なんて、言ってみたりして」
「ふふふ、何だか凄く大人な表情をするのに、ぱっと私と同じ目線に戻ってくるから戸惑ってしまうわ」
「そ、そんなことないわよ」
「そうよね…これから、よね」
私の勝手な言い分にエノーラは傷ついていないだろうか。
心配したのもつかの間、エノーラは紅茶を一口飲んで、ふうっとため息をつく。
「何だかすっきりしたわ。話を聴いて貰うって良いものね。それに、同じ気持ちになってくれる人がいるっていうのも、とっても良いものだわ!」
そう言って微笑むエノーラの表情に影はなく、「良かった」という私の言葉を嬉しそうに受け止めてくれた。
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スコーンやお茶を楽しんでしばらくして、あのクズーもとい、アイク・アージリーの話題になった。
「結局まだ、アージリー郷はジャスミンの悪評をばらまき続けているみたいなの。お茶会に参加したご令嬢達や私もできる限り否定してはいるから、信じている人は半分半分といったところだけれど…。どうしても伯爵家の貿易相手や滅多にお目にかかれない高位の貴族の方々には否定をしにいくことも難しくて…ごめんなさい」
「そんな!否定してくれているだけで充分よ!たった数日でそこまで広まってしまっているの?」
「そうなの…このままじゃどんどん悪評ばかりが膨れ上がってしまうわ」
さすがにアージリー伯爵家はお母様が心配していただけあって、厄介な相手のようだ。
「本来、伯爵家がマーグレイブ辺境伯の名誉を汚すような発言をすること事態、大変無礼なことなのだけれど…アージリー伯爵家は独自の貿易ルートがあって、異国の王族との繋がりや現王のお気に入りの品物を献上していたりするから…あまり表だって指摘もできなくて」
「婚約をお断りしたのは事実だし、あまり表に出ないから裏で何をしているのか分からないって言われても、嘘だと断定もできないものね…」
相変わらず悪知恵ばかり回すのは得意なようだ。
どうしたものかと考えていると、エノーラが恐る恐るといった表情になる。
「…それでね、ジャスミン。今度王都で舞踏会があるの」
「ああ、そういえば家にも案内が来てたわね。現王の統治30周年記念のパーティーだったかしら」
「ええ、そこにアージリー伯爵家も招待されていて…結構大きなパーティーだから、きっとアージリー郷も嬉々として噂を流すわ」
正直、この間のお茶会で大勢の場は向いていないと分かったところだったので、あまり参加したくはなかったのだけれど…。
お母様はお父様のお仕事に付き添って出ないと言っていたから、行くとしたら私がマーグレイブ家の代表になってしまう。
両親のいないなかでの大きな舞踏会は、前世では絶対に行かなかったし、ハードルが高い。
舞踏会は祝いの席なので、特に両親がいなくて成人した子息令嬢のみが参加してもなんら問題はない。
ただ単に気持ちの問題なのは分かっているが…。
「ジャスミン、どうする?」
「うーん……嫌、だけれど…行くしかないようね」
私が苦渋の決断をすると、エノーラはその答えを内心期待していたようだ。
「じゃあ、私も参加するから良かったらそこでも会いましょ!新しい自分に似合うドレスを用意していくわ!」
「ええ?もうそこまでふっきれたの?」
「友達と一緒に舞踏会に行くの、初めてなのよ!一番綺麗な自分でいたいじゃない!」
言われてみれば私もいつも家族とばかりいたから、友人と参加するのは初めてだ。
「なるほど…確かに一番綺麗な自分でいたいわね」
「でしょう?一人で新しいことをするのは怖いけれど、ジャスミンがついているなら何だか頑張れる気がするの」
「私も、エノーラがいるならちょっと頑張ろうって思えたから、お互いさまね」
舞踏会は2週間後に開かれ、その間にもアージリー様がくだらない噂を広めていると思うとやきもきするが、舞踏会で何かしら身の潔白を証明することができるよう、頑張ろう。
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