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私は私ですので

今日は2話投稿です!


私が時間を巻き戻って2日目の朝は、寝ている間に過ぎ去ってしまっていた。

気がつけばお昼過ぎで、メイドのミリーによると何回起こしても目を覚まさなかったので、お父様がそっとしておきなさいと声かけしてくださったとのことだった。


晴れて私は新しい自分の人生を歩み出したと言うのに、まさかこんな怠惰なスタートになるとは…。

でも何年ぶりかに熟睡出来た気がすることを思えば、これもまた新たな私への第一歩なのかもしれない。

人は変化に弱い生き物だ。

体が休息を求めていたのかもしれない、なんて前向きに受け止めることにした。



さて、身支度を調えた私は早速自分のやりたいリストを作る。

まずは、本を読むこと。

元々本を読むことが好きだったのに、日々の忙しさに追われているうちに離れてしまっていた。


第二に、魔法をもっと沢山覚えたいということ。

魔法は生活力の基盤にもなってくるだろう。


沢山の魔法を覚えると、沢山の就職先が開ける。

自分で出来ることが増えるということは、それだけで気持ちがわくわくしてくるというものだ。

実は、得意なのは植物系の魔法ばっかりで、植物に関わらない魔法はてんで出来ない、というのが現状だ。


植物系の派生で使える魔法といえば、催眠系と微量の水魔法くらい。


第三に、多くの人と出会いたいということ。

思えば、ずっと家で過してばかりだった。

前世は結婚するまでずっと実家で暮らしていたし、結婚してからの仕事も必要最低限の仕事の交流以外はほとんど全く交友関係はなかった。


そう、友達がいなかったのだ。

今弟が行っているような学園生活の時はそれなりに友達もいたし、特にいじめられるようなこともなかったのだけれど…。

貴族社会独特の、周りの見え透いたコネ作りの為のやりとりと、マウントを取り合うようなやりとりが嫌になってしまって、自然と避けていた。


だというのに、ちょっと仮面を被っただけのマウント男に嫁いでしまったのは、ひとえに私の人間関係の経験の少なさが影響しているだろう。ゆくゆくは結婚していくことを踏まえるならば、私はもっと沢山の人と出逢い、話し、知っていかなければならない。


よし!とおおよその方針が決まったことに安堵する。

ミリーが入れてくれた紅茶を飲み、懐かしいな、とほっとする。

お父様も植物の魔法が得意で、我が家には温室がある。


お母様はお香や香水を作るのが上手で、お父様の育てたお花の香りをまとったお母様は、いつもお茶会で一目置かれていた。

私はその横でただにこにこ笑っているだけだったけれど…もっと毅然とした貴族の令嬢になろうと思う。


得意を活かした自分が活躍している姿を想像すると、自分の道が切り開かれていくような気がした。



ーーーーー


手始めに、私はお母様にお茶会の極意を教えて貰うことにした。

お母様は私が貴族社会に興味を示したことに喜び、色々と手配をしてくれた。


さっそく来週のお茶会で、私は母の主催するお茶会の、準主催的立ち位置で参加することになった。

今までは主催のお母様の横にいるだけだったので、正直緊張で胃が痛くなりそうだ。



「ジャスミン、貴女はまず自分の外見的魅力を理解するべきよ」

「魅力…?でも私は地味な顔立ちだし、そんなに魅力的な方ではないと思うわ」


お母様は華やかな顔立ちをしているが、私は父に似たのかその他大勢に埋もれてしまいそうな顔をしている。

貴族社会では外見が重視されることは理解しているものの、私はどうしても魅力的にはなれなかった。

前世で夫に浮気されるくらいだし…


「そうねえ…確かに地味な方ではあるわ。でも、それはかえって魅力になるの」

「それは…どういう…」


お母様は私を鏡の前に座らせる。

「いい?この貴族社会で、確かに華やかなことは有利に働くわ。でも、警戒心を与えない優しい顔立ち、というのもまた、この貴族社会で有利に働くものよ。そしてそれが爽やかな余裕になるの」


お母様は、私に2種類の化粧をしてみせる。1つ目は今貴族社会で流行している濃い口紅と、はっきりとした色のアイシャドウだ。

だが、私は化粧をすると老けて見えるし、気持ち悪い感じになる。

だからいつも、ミリーに化粧は必要最低限で良い、と伝えていたのだ。


「それで、こっちが私のおすすめ」

お母様は私の化粧を落とし、淡い色の化粧を施した。

鏡に映った私は、すっぴんの時よりも綺麗に見え、化粧は浮いて見えなかった。


「…でも、お母様。これだと流行に遅れている田舎娘に見られてしまうわ」

私が思ったままを伝えると、お母様は困ったように眉を寄せた。


「……私が若い頃は、淡い色合いが流行だったの。でも私には淡い化粧は似合わなかったわ。本当に野暮ったい顔立ちになったものよ。本当は今みたいに華やかな化粧をしたかった。でも、流行に遅れるということは貴族社会の中でつまはじきにされるようなもの…だと思っていたの」


お母様ほどの心配性の人間が、流行に乗り遅れるということは恐ろしいことだっただろう。

私は黙って頷く。


「でも、ある日貴女のお父様…ランドルと出会って、彼が私の常識を変えてくれたわ」

両親は仲が良いとは思っていたけれど、恋愛結婚とは知らなかった。


何でも、王家主催の舞踏会でお母様は、周囲のご令嬢から見目の悪さを嘲笑され、「顔を洗ってきたら?」と水を掛けられたところだったという。そこに登場したのがお父様。お父様は辺境伯の嫡男として爵位を継いだばかりだった。舞踏会に婚約者を探しにきていたらしく、ご令嬢同士のマウントの取り合いに辟易していた時に、水をかけられたご令嬢を見つけた。


「いい加減にしないか」と、普段温厚なお父様が怒ったことで周りは静まりかえり、お父様はお母様の手を引いて中庭にでたらしい。

またおっとりとした様子に戻ったお父様は、植物の魔法で真っ赤な薔薇を作り出し、お母様の髪に添えたのだ。


「君は本来、これくらい鮮やかで美しい人だよ」


お母様はその一瞬で恋に落ちたらしい。

それ以来、自分の魅力をフルに活かすような服装なメイクをしていたところ、誰にも馬鹿にされなくなり、むしろ流行の最先端をいくとして、今の濃い化粧の流行を作り出したのだという。


お母様はお父様と結婚してから、薔薇と筆頭に植物が大好きになり、香水づくりに邁進していたところそれも流行になったのだとか。

うっとりとしながら語るお母様の様子に、私は心底うらやましくなった。


「…という訳で、私は流行に関しては不安を取り払うことにしたの」

母はにっこりと笑い、その表情には普段見せない人としての強さが感じられた。


「分かったわ、お母様の言うとおりにしてみる」

私がそう言うと、お母様は頷き、「じゃあドレスも流行よりも似合う物を優先させるわね」と笑った。



結果として、私の服装は今までの傾倒からはがらりと変わった。

今流行のスレンダーな体のラインが出るドレスではなく、上半身はややふっくらとした形のもので、スカートもタイトなものではなくふんわりと裾が拡がるものにした。フリルは大きなものではなく小さく小ぶりなものに抑えられ、宝石もゴテゴテさせず控えめに。髪もくるくると巻いた豪華なものではなく、ゆるくふんわりと巻いたスタイルにした。


お母様は満足そうに頷き、私も正直このスタイルが今までの人生で一番似合っていると思えた。

「お母様…凄いわ」

「伊達に流行の最先端を担っている訳ではないのよ。…あと、笑顔の練習も始めましょう。後、お茶会の挨拶と、参加するご令嬢方の好む趣味やお茶菓子の把握と…お父様が懇意にしたい貴族の下調べと…」


どうやら私は、お母様を甘く見ていたようだった。

あんなに心配性で頼りなかったお母様が、お茶会…貴族社会に関しては非常にスパルタだ。


…でも確かに、これが彼女の主な役割であり、本来貴族の夫人が行うべき仕事でもあるのだろう。

私も時折お茶会を開いたりはしていたが、さすがに流行を操作したり、趣味やお茶菓子の把握まではしていなかった。


無難に好まれるお茶菓子、関係が切れない程度の顔合わせの行事として今や浸透しているお茶会を、最大限に有効活用しようとしている姿は、過去に貴族社会から嘲笑されたというお母様の体験が影響しているのかもしれないが。


内心思っていたよりもきつい、という弱音を吐きながらも、私はお母様の教育に振り落とされないようしがみついていくのだった。





























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