さっそく隊員ですので
定期更新再開する方針です。頻度はちょっと様子見ながらで…すみません(´;ω;`)
「改めまして、ジャスミン・マーグレイブと申します。本日から隊員として研修に務めさせていただきます、よろしくお願いいたします」
私が貴族よろしく優雅な礼をすると、ジルは少し焦ったようなしぐさを見せる。もしかするとこうした礼には慣れていないのかもしれない。
「そう固くるしくなくていい」
フォークロイ公爵がそう言ってくださったので、私も少しほっとする。元々目上の立場の人であるので、緊張しない、ということは難しかったのだ。
「では、さっそく研修に移りましょうか!」
執務室を出て、私たちは別の部屋に移動した。どうしても二人きりになってしまうので、ジル様が私が緊張しないように気を使ってくれているのも感じ、「はい!」と私も返事をした。
隊員と紹介されたのはジル様とフォークロイ公爵しかおらず、他の隊員さんはいないようだった。そもそも何人くらい隊員がいるのだろう、と疑問に思う。
「あ、僕と隊長しかいないのが気になりますか?」
「え!あ、は、はい…!」
見透かされてドキっとする。フォークロイ公爵と事情聴取で話した時も感じたが、この二人は時折心を読んでいるかのように言い当ててくる。
「研修もかねてお教えしますね。この公安部はもともと、王命により発足されました。1年前にできたばかりで、もともと名前が知られていないのもありますが、積極的に誰が所属していて、どのくらいの規模で、それからどういった活動をしているのか、というのは公表していないのです」
「なるほど…研修期間だから私にもまだ誰が所属しているのかは教えられない、ということですか?」
「惜しい。研修期間だから、というわけではなく、隊長以外は誰も、この組織の全体像を知りません。もちろん、班に分かれて行動することがあるので、そういった時には互いの情報を明かすことがありますが…。貴族や商人の方々は基本的に顔も名前も隠して行動されています。
例えば、この間のマール男爵令嬢の件で隊長が公安部に所属していることが知られましたが、緘口令は敷いているのですよ」
「え…でも……」
フォークロイ公爵を敵視しているアージリー卿が、敵の弱点ともなる情報を黙っていてくれるとは思えないのだけど…。
「まあもし勝手に話されても、今回提示している情報は隊長がそういう機関に所属している、というだけなので、そこまで問題はなくむしろ話が漏れたところから膿を出すことができるので…という算段です」
丁寧なジル様の説明にようやく合点がいく。情報漏洩したら、そこからつつく、という戦略をとっているらしい。
「……ということなので、マーグレイブご令嬢も基本的には所属していることは口外しないようにしてください。ご両親にはすでにその旨をお伝え済で、表向きはまだ辺境伯家にお住まいということになっています」
「分かりました」
「では続いて、仕事の内容をお伝えしますね。我々の重たる仕事は貴族社会の軋轢を整えることです。派閥争いの過激化を防ぎ、不正を調査し正します。特に貴族は基本的に魔力量が多いので、大規模な事件に発展しやすいことが最近問題となっておりまして…。王がこうやって治安維持のための組織を作るくらいには、何やらきな臭い動きがあるようです。
僕たちの組織は王が作ったものですが、だからと言って王政廃止派に厳しく、保守に偏っているわけではありません。あくまでも独立した中立な組織となっています。……もし王が不正を働いていたら、それを正すための実権が隊長には与えられているのですよ」
その神妙な様子に、思わず私もごくりと頷く。
「ま、そんなことにはなりませんよ。現王は庶民から見ても善政ですしね」
「そうですわよね…」
「で、あなたはゆくゆくは秘書官になっていただくのですが、まずは仕事の全体像を把握していただきたく…実施研修、行きましょうか!」
「……はい?」
ーーーーーーーー
ジル様に庶民の格好の変装をして連れてこられたのは、王都の食事どころであった。
お店は昼食時で騒がしく、カウンター席に横並びで案内をされた。
ジル様の格好は先ほどまでいた王宮でのモーニングコートとは違い、ラフな格好をしている。薄い黄緑の瞳と、亜麻色の髪がそのカジュアルな格好に映えており、何だか姿勢や雰囲気も柔らかくなったように感じた。
「僕はビーンズチキンとレモネードで。あなたはどうする?」
「あ、ええと…ハーブティーと…これはお魚でしょうか…?」
「ああ、青魚の塩焼きだよ。ここは海も近いからね」
「ではそれで」
ジル様は慣れた様子で注文をする。普通にご飯を食べてしまってよいのだろうか…と私が戸惑っていると、頭の中に声が響いた。
「あ、あー、聴こえる?」
「!?」
驚きのあまり左右を見渡すも、その声の主がジル様であることにすぐに気が付いた。だが、当のファッジ様ご本人はにこにことこちらを見ているだけで、口を開いてはいない。
『これ、僕の家系に伝わる伝言魔法なんです。僕は魔力が少ないのであまり積極的に使いたくはないんですが、こういう時は重宝しています』
「そ、そうなのですね…」
「うん、そうなんだよね」
思わず普通に返事をしてしまうと、ジル様も同様に口に出して話してくださる。しかし、すぐに伝言魔法に切りかえた。
『マーグレイブご令嬢に伝え忘れていたことがありまして。こういった場で貴族の言葉遣いをしてしまうと怪しまれるので、僕のように少し崩して話してみてください。それから、ファッジ様ではなく、ジルで大丈夫です。敬称もいりません』
「え、ええと…ジル?」
「うん、そういう感じ」
『マーグレイブご令嬢は身元が分かると大変なので、何か偽名を使いましょうか。何が良いですか?』
「では…あ、じゃ、じゃあジェミーで」
「分かった、改めてジェミー、よろしくね」
「ええ、よろしく…」
頭の中に響く声と、直接口から発せられるジルの声。
交互に聴くと頭の中が混乱しそうだ。
店員が料理を運んできて、私たちは料理を食べ始める。
「このレモネード美味しいよ。ジェミーのお魚もおいしそうだね」
なんてにこにこ言いながら、同時にジルは魔法でも話しかけてくる。
『そのまま僕の会話に相槌を打ちながら聴いてください。僕たちのカウンターの後ろのテーブル席の男。彼は違法な魔法薬を貴族に売りさばいている貿易商人です。彼はこのレストランの裏の道を根城にしていて、貴族が身を隠してこっそり買いに来ているとのことです』
「僕は最近散歩が趣味になってきたんだ、おじいさんみたいな趣味だと思うだろう?それがさあ……」
「うん、うん」
『これから彼を尾行します。商人を現行犯で捕まえるよりも、買いにきた貴族の側を捕まえて、どこまで違法な薬が広がっているのかを明らかにする方針です』
「で、しかも近所のおばさんがね……」
「そうなんだ~」
『彼はいつも13時頃にこの店を出ます。それを貴族との合図にしているそうです。…もう間もなくですね、出ましょう』
「おなかいっぱい!ここのお店はいつも賑やかだけど美味しいね、あ、お会計僕がしてくるからジェミーは店の前で待ってて!」
「分かった、ありがとうジル」
指示された通りにお店の前で待っていると、先ほどの商人が出てきた。すっと横を通り抜けてお店の横の裏路地へと入っていく。その路地をちらりと見ると、この明るいお店に隠れるような薄暗い道であった。
「ジェミーお待たせ」
すぐにジルが合流する。穏やかに話しているように見えて、その視線は鋭かった。
すると、大通りを歩いていた背の高い男性がすっと裏路地へと向かう。私の真横を通った時、香水の香りを感じた。
「まあ、いい匂いがするわね。お花みたい」
そうジルに伝えると、ジルは一瞬驚いた顔をした後に、すぐに頷く。
「僕にはわからなかった、お花が好きなんだねジェミー」
「最近は私たちにも手が届く香水だってあるのよ」
「へえ、物知りだなあ」
そういった会話をしながら、ジルが魔法で話す。
『できるだけ背後から無力化するつもりですが、もし戦闘になったら離れてください。研修初日から戦わせるつもりはありません』
言うが早いか、路地裏へと足音を消しながら移動するジルの後に続くのであった。
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