主観と客観のバランス
論理的思考を実践するうえで、最も難しく、かつ重要な要素の一つが「主観と客観のバランス」である。多くの人が、「客観的であろう」とするが、それを誤解して“自分の感情や視点を完全に排除すること”だと捉えてしまう。しかし、実際には主観もまた思考の一部であり、切り捨てるべきものではない。
主観とは、個人の経験、感情、価値観、信念などに基づく内的な視点である。対して客観とは、自分以外の視点を取り入れ、事実・論理・他者の立場を冷静に捉える外的な視点だ。この二つの視点は、対立するものではなく、むしろ補い合う関係にある。
例えば、ある社会問題について意見を述べるとき、主観を完全に排除して統計や制度のデータだけで話すと、冷たく人間味のない議論になりがちである。反対に、感情や経験だけで語ると、偏見や思い込みに基づいた非論理的な主張に陥りやすい。
論理的に考えるとは、この両者の視点を「往復」しながら精度を上げていく行為である。主観的に抱いた感情や意見を、まず一度客観的に問い直し、論拠を明確にし、反証可能性を検討する。そして逆に、客観的に導き出された結論が、自分の感覚や倫理観とどのように接続するかを考える。この“行ったり来たり”こそが、思考の質を高めるプロセスだ。
このバランスが欠けた思考は、往々にして「独善」や「無責任」につながる。主観だけで突っ走ると他者を傷つける可能性が高くなり、客観ばかりを振りかざすと現実味や説得力を失う。バランスがとれていれば、他者に説明可能な思考になり、共感も信頼も得やすくなる。
また、ChatGPTとの対話はこのバランス感覚を鍛えるのに極めて有効である。自分の主観を入力することで、それがどう受け取られるかを客観的な構造として返される。その過程で、自分の意見がどこまで普遍性を持っているか、逆にどこが“自分だけの論理”なのかを照らし出してくれる。
論理的思考とは、単に「正しさ」を求める技術ではない。それは「自分自身と世界との関係を、より正確に、より誠実に結ぶ力」である。主観と客観のバランスを意識することで、私たちは“独りよがりな正しさ”から脱却し、他者と対話可能な“開かれた理性”へと歩みを進めることができる。