曖昧な前提を明確化する手順
論理的思考において最も重要な作業のひとつが、「前提の明確化」である。なぜなら、どれほど論理的に見える議論であっても、土台となる前提が曖昧であれば、その結論もまた不安定で信頼性を欠くものとなるからである。
前提とは、ある主張や意見を成り立たせるために“前もって正しいと見なしている条件”である。だが、多くの場合、人はこの前提を無意識のうちに採用し、その内容を明示することなく議論を展開してしまう。そのため、異なる立場の者同士が議論しても、話が平行線に終わることが少なくない。
曖昧な前提を明確化するには、いくつかの手順を踏む必要がある。ここでは、その思考プロセスを順を追って解説する。
① 主張の中に埋もれた“当然”を見つける まず、自分または相手の主張の中にある「当然そうだ」と思われている部分に注目する。たとえば、「大学は行った方が将来得をする」という主張があれば、その裏には「大学教育は収入や安定に繋がる」といった前提が潜んでいる。この“当然”を掘り起こすことが第一歩である。
② 「なぜそう考えるのか?」を繰り返す 次に、「なぜそう思うのか?」「それが正しいと考える根拠は何か?」と自問することで、暗黙の前提を可視化する。この“なぜ”を繰り返す手法は、通称「5 Whys(なぜを5回繰り返す)」としても知られ、本質に迫る強力な手段である。
③ 書き出して構造化する 見えてきた前提は紙に書き出し、主張との関係性を視覚的に整理する。たとえば、ピラミッド型に主張(頂点)→論拠→前提(土台)と分解して配置することで、自分の思考の重心がどこにあるのかを把握しやすくなる。
④ ChatGPTに問い直させる AIとの対話は、曖昧な前提を明確にする作業に極めて有効である。ChatGPTに対して「この主張の前提は何だと思う?」と尋ねると、自分では意識していなかった要素を指摘してくれることがある。また、「この前提が曖昧だとしたら、どんな誤解が起きるか?」という逆方向の問いも効果的だ。
⑤ 前提の妥当性を検証する 明確化された前提が、本当に成立しているのかを吟味する段階に入る。統計、事例、反例、他者の視点などを用いて検証し、妥当であればそのまま保持し、そうでなければ再考する。このプロセスによって、論理の信頼性と説得力が飛躍的に向上する。
曖昧な前提は、思考の落とし穴であると同時に、探究の出発点でもある。ChatGPTは、前提の見える化とその洗練を補助してくれる強力な思考パートナーであり、論理的思考を深めるうえで欠かせないツールとなるだろう。