論理的思考は、感情を排除することではない
多くの人は「論理的に考える」と聞くと、冷たく機械的な思考を想像しがちである。まるで感情を完全に排除し、数式のように割り切った判断を下す姿勢こそが“論理的”だと思っている節がある。しかし、それは誤解である。論理的思考とは、感情を無視することでも、抑圧することでもない。
論理的思考とは、「感情に支配されない状態」で感情を扱う技術である。人間は感情の生き物であり、完全に感情を排除することは不可能であるし、またそれが望ましいとも限らない。重要なのは、感情に基づく判断をする場合でも、その感情の由来や影響を理解した上で、自覚的に判断を下すことである。
例えば、「この人を助けたい」という感情が湧いたとする。この時、論理的思考はその感情を否定せず、むしろそれを起点として「どのように助ければ最も効果的か」「自分にできることは何か」「その結果、他者や自分にどのような影響があるか」を丁寧に分析する。
つまり、論理的思考は感情を“素材”として使う。素材を使う以上、その性質を理解し、適切に扱わなければならない。感情を否定して切り捨ててしまえば、判断は人間味を失い、共感も得られなくなる。一方で、感情に溺れてしまえば、論理は歪み、後悔する選択につながりやすい。
論理的思考とは、感情と理性のバランスを取る行為である。感情を認識し、それを論理というツールで整理し、他者と共有できる言葉に変換する。この姿勢こそが、現代社会における思考の成熟した形であり、AIとの対話にも活かせる重要なスキルなのである。