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『ん〜〜…まだ、このキーになると難しそうだな…』

 

 ベージュの襟付きシャツにライトブラウンのロングパンツ姿の白髪しらがサトルは、心の中でそう呟くと鍵盤からそっと手を離した。途端に先ほどまで聞こえていた、やや苦しそうな歌声がピタッと消えた。サトルが座るクラビノーバから少し離れたところに置かれたマイクの前に立つ妙齢の女性が、

 

「あら、先生、やっぱり…ダメ…?」


 と、申し訳なさそうな表情を浮かべながらサトルに話しかける。

 

「いえいえいえ!全然ダメなんかじゃないですよ〜」

 

 サトルは努めて明るい声と笑顔をフル活用しながら、女性に現在の練習方向と今起きている状態、そして、ここから進めていく事をゆっくりと、改めて説明していく。

 

「……なので、今のキーだとまだ、三澤さんの出したい強い声での高音を出すには、奥歯の力みが勝ってしまうので、もう少しキーを下げて、歌いながら徐々に拡げるクセをつけていきましょう!大丈夫!意識はしてくださっているので、だんだんと良くなってますよ!」


 良くなってますよ!の言葉で、三澤と呼ばれた女性の表情が一気に明るくなり、


「まぁ!ホントですか!良かった。はい、それでお願いします!」


 と、声まで元気になった途端、すぐに眉をひそめて、


「先生…?三澤さんじゃなくて、ひろみって呼んでくださいって何度も言ってるのに!もう!」


 と、いたずらっ子の少女のような声で呟く。途端にサトルは顔を少し赤らめて、


「えっ…?あ〜…そ、そうでしたね!ははは…いやぁ、なんだかお名前で呼ぶのは照れるなぁって思ってたので、なかなか定着しないなぁ…ははは」

 

 講師歴もそろそろ10年を越えようかというサトルだが、女性からの微妙なアプローチへの対応やかわし方はいつまで経っても上手くならない。サトルの好意の有無とは関係なく、単純に照れて顔が赤くなってしまうのである。


「お願いしますよ!ふふふ…」

 

 その様子もまた可愛いと言わんばかりの三澤の視線を躱しながらサトルは再開を告げた。


「さ、さぁ、じゃあ続きをやりましょうか!」


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