第5話:ブラックTと転生勇者
その15:寝起きの悪い奴
三人(正確にはカジュちゃん一人)が手下のヘビを倒し終えた時…
悪の化身・ブラックTは…
…爆睡していた(それでいいのか??)
「起きんかいっ」
ドカッ!
モチ&イオ同時に蹴りを入れた。
床へ転がり落ちたブラックT、相変わらず熟睡。
気持ち良さそうな寝顔である。
「…こんなの倒す為に、吹雪ん中に放り出されたり、S谷先生の補習受けたり、F島先生の鍋で火傷しかけたり、Y根さんの氷作ったり、M本先生にしごかれたり、U川先生に訳分らん武器もらったり、リユさんに怪しげな防具もらったりしたのか?」
これまでの苦労を思い出し、殺意が芽生えるモチ&イオ。
「くらえ自爆呪文!」
ちゅど~んっ!
自爆するモチ。
ブラックTは無傷で熟睡。
「…お前が死んでどうすんだよ」
ツッコミ入れて蘇生呪文をかけるイオ。
「F島先生のコンロには使えない雷系呪文っ!」
そしてイオが攻撃に出ると…
「チャッカマンが無くてもこれで安心炎系呪文っ!」
…復活したモチも加勢する。
「Y根さんをより不機嫌にした水系呪文っ!」
「製氷係のオジサンも覚えた氷系呪文っ!」
…そしてふと、顔を見合わせるモチ&イオ。
「モチ、水の呪文ってドラクエにあったっけ?」
「無い。だから適当に名前つけた」
…それでいいのか?w
「もぉっ、二人とも真面目にやってよっ!」
背後でプリプリ怒るカジュちゃん。
「…いや真面目に呪文唱えてるんだけど…」
ポリポリ頭をかく二人。
雷やら炎やら水やら氷やらで衣服や髪がボロボロになっても、ブラックTは全く起きる気配無し。
「ここまで熟睡されると何か腹立つわね。ユズ、やっちゃいなさい」
肩にいるインコに命じるカジュちゃん。
ユズはブラックTの顔面まで飛んでゆくと、その鼻先にガブリと噛み付いた。
「痛ぇっ」
途端に飛び起きるブラックT。
「…あんだけ強力な魔法くらっても寝てたクセに、インコに噛まれたくらいで起きるあいつって一体…」
呆れて脱力するモチ&イオなのでした…
その16:勘違いな奴
ようやく起きたブラックT。
「誰だ貴様等?」
目の前の三人を見て、眠そうな顔で言う。
「俺たちを探しに来たくせに、誰だはねぇだろ」
蹴りを入れるモチ。
「ああ貴様等が魔王を倒した双子の生まれ変わりか。ふはははははは!」
不気味な笑い声を上げて、ブラックTが指差したのはカジュちゃんとユズ。
『…違うっちゅ~ねん』
ツッコミと蹴りを同時に入れるモチ&イオ。
「何だ貴様等、足癖が悪いな。…むっ、その顔…貴様等、憎き双子だなっ」
今頃気付くブラックT。
『顔知ってんなら間違えんなよ』
同時に二人の蹴りが入る。
「くくくっ、遂に見つけたぞ。貴様等に復讐すると誓ってから一〇〇〇年間、夜も眠れなかった我が憎しみを思い知るがいい…」
バサァッと黒いマントを翻し、邪悪な笑みを浮かべるブラックT。
「…さっきまで熟睡してたくせに」
呆れ顔でモチが言う。
「目を閉じていただけだ」
言い返すブラックT。
「嘘つけ、イビキかいてたくせに」
「イビキなどかいておらん」
「かいてたよっ」
「かいとらんっ」
「寝てた!」
「寝とらん!」
…不毛な言い争いがしばし続いた後…
「ふっ、無駄話もここまでだ。我が手下どもよ、こやつらを始末しろ」
ブラックTは命じた。
………が。
手下のヘビはみんな、カジュちゃんのハンマー攻撃でくたばり済み
「…ぬうっ、いつの間に…!」
歯軋りするブラックT。
『…ってか、やっぱり寝てたろ』
モチ&イオ、同時にボソリと呟いた。
「我が手下を倒すとはな…」
それをシカトしてブラックTは言う。
「さすがは勇者の生まれ変わりだ。誉めてやるぞ」
(ヘビを倒したのは俺たちじゃないんだけど…)
二人は心の中で呟いて、背後にいるカジュちゃんをチラリと見た。
チラ見されてもすました顔で、ユズとたわむれるカジュちゃんなのでした…