嘘から出た実
地元には、私が幼い頃に開通した道がある。わざわざその道を覚えているのは、そこが家のすぐ近くであり、林を切り開いてできたその道はこれまでとは全く違う景色を見せてくれて、今では以前の状態を思い出せないほどに、変わってしまった。だが……その道はある個所だけ避けるかのように曲がっていた。何の変哲もない木にが1本、囲いに覆われている。なぜ撤去しなかったのか。私は知っている。あそこには……死体が埋まっているのだ。
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工事が予定され、見納めにと祖父と散歩していた時。祖父がぽつりぽつりと語ってくれた。
「あそこにはな、死体が埋まってるんだ」
ある木を指さして祖父は言う。
「どうして知ってるの?」
「儂も親から聞いたんだ。あそこには死体が埋まっているから近づいたらダメだと」
「誰が埋めたの?」
「さぁなぁ。本当に埋まっているのかも、誰が言い出したのかも分からない。だが……あの木で遊んだらだめだぞ。枝の一本でも折ったら祟りに会うからな」
「祟り?」
「儂の友人も、木を傷つけた日の夜、全身が赤く腫れて死んだ」
祖父は本気で信じているようだ。私は半信半疑だったけど、祖父の様子に尋常ならざるものを感じ。
「だから、工事もやめた方がいいと何度も言ったんだがな。結局……」
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そして、工事のために木を撤去しようとすると……必ず不幸や事故が起き、結局撤去はせずに木を避けるように道は作られた。祖父の話は本当だったのだ。しかし、さらに真実は違っており、それを知ったのは、ある工事関係者に話を聞いてからだった。
「あの木の下に死体なんて埋まってないですよ」
そう言ったのは、工事を担当していた責任者だった。偶然、関係者と知り合う機会があったので、話を聞いてみたいと思い、紹介してもらったのだ。
「え、そうなんですか?」
「木は一度撤去されました。その時、すでに事故が起きていたので調べた結果、あの木が原因かもしれないとなり、戻したんです。だから、一度木の下を掘り返してるんですよ」
「死体は深く埋まっているとかじゃなくてですか?」
「そこまで行くと分からないですが……死体を埋めるのに林の中で重機を使うとは思えないですし、人の手で掘るなら深く掘るのは難しいと思いますけどね」
「じゃあ死体は始めからなかった?」
「いや……ありましたよ。ただ、その木の下ではなかったんです」
「え?」
「その木の近くから、死体は出てきました。白骨死体が何人分も」
「ち、近く?」
「ええ。ただ、それを撤去する時は何も起きませんでした。供養はしましたけどね」
どういうことだろう。つまり、死体が祟りを起こすのではなく、木が祟りを起こすという事なのだろうか。いや、それだと祖父の話がおかしくなる。あの木の下には死体があるから、木を傷つけると祟りが起きるという話だった。
「もういいですか? やっぱり、あまり思い出したくないので」
工事中にも何人も事故が起きて亡くなったそうだ。それを目の当たりにしているのだから、思い出したくないのは当然だろう。私はお礼を言って、一人先ほどの話を考える。
「……始めから死体は木の下にはなかった。けど、祟りは木を傷つけたら起こる……」
木が間違えて恐れられ、結果本当に祟りを起こすようになったのだろうか。人の思い込みは時に想定以上の力を起こすことがある。これはその典型で、少しずつ人々からの怖れが集まり、このような祟りを起こす木に変貌した、噓から出た実。まさにその典型ではないだろうか。真実は分からないけど……今でもあの道で木に傷をつけた人は不幸に見舞われるため、現在は囲いで覆われ、誰も触れないようになっている。
完