あなたを必要としている異世界があります!
前職を辞めてから1年ほど経っていた。俺はその期間特に新しい仕事を探すわけでなく、ただ毎日を過ごしていた。親の目を気にしてハローワークに行ったりはしていたが、正直このままで良いと思っている。
今日もハローワークに行かなければならない。親と約束してしまったからだ。足が重い。一生懸命仕事を探すわけではなくその振りをしに行くのが面倒だからだ。
「そちらのボタンを押してお待ちください!」
整理券が出てきた。受付のいつものおばさんだ。俺は待合席で待っているとすぐに声を掛けられた。
「23番の方、こちらにお越しください!」
いつもは仕切られているカウンターのような席に通されていたが、受付のおばさんは個室に案内した。
従業員用の扉を開け、さらに扉を開けたところにその部屋はあった。なんでこんな部屋に・・・
「上下田さんをお連れしました。」
おばさんは扉を開けると、中には白髪のおじさんが座っていた。ここの所長さんなんだろうか?
「やあ!こんな部屋に来てもらってごめんね!そこに座って座って!」
感じの良いおじさんだ。俺がソファーに座ると長机を挟んだ向かいにおじさんは座った。
そこからは、1年仕事についていない理由や働く予定などを細かく聞かれた。俺は当たり障りのない嘘を言って適当に流していた。
「いやぁー色々と話せてよかったよ―――」
急に立ち上がるとデスクの上に置いてあるチラシを俺に渡してきた。
「正直ハローワークの求人って若い子には合わないんだよねー!このサイトはさ、君みたいな若い子が得意なことを書いて、企業側が必要な人材を見つけられるサイトなんだよ!」
俺はチラシに目を通してみる。こんな良いサイトがあるなんて初めて知った。
(俺が真剣に職を探していないからだろうな・・・)
「このサイトね・・・良い子だなって我々が判断した子にしか教えないんだよ!企業側も人数が多いと大変だからね!」
俺の受け答えが好評だったのだろう。悪い気はしない。
「まあ気が向いたらで良いから登録してみてね!では、私は別の仕事があるのでこれで・・・」
俺は軽くお辞儀して部屋を出た。帰りは足取りが軽くなっていた。一仕事を終えた気になっていた。
――――――――――――――
ハローワークの一室
「ふふ・・・」
「本当は仕事する気もないくせにな・・・」
「まあ・・・おまえを必要とするのは異世界でも、家畜の世話か酒場のトイレ掃除くらいだろう―――」
(これで5人目か・・・異世界求人サイト・・・この世界で仕事をする気がない若者を異世界に送り付ける転職サイト。まあ送られてくる異世界にも最低限の配慮として、特技などは書かせるがな・・・)
電話が鳴る・・・・
「はい・・・ええ・・・また一人登録すると思います・・・大丈夫です!社会から消えても影響は無さそうなやつですから―――」
――――――――――――――
上下田 城の部屋
チラシを渡されてから数日が経っていた。パソコンのオンラインゲームも一区切りがついた時だ。
たまたま目につき、チラシを手に取る。
(・・・・・・)
少し興味が湧いて来たのでサイトにアクセスすることにした。
求人サイトというよりは逆求人サイトか、などと考えながらURLを打ち込む。
名前、住所、生年月日、性別、連絡先、特技、資格の入力を終わらせると、入力完了のボタンが出てくる。
俺は気付いたことがあった。学歴や職歴の欄が無いのだ。なんと良いサイトだ!そのようなことは気にしないという企業が多いのだろう!
注意書きが出てくる。
【入力内容に誤りが無いか確認をしてから送信ボタンを押してください】
(まあ俺なんて人間に来ないよな・・・)
俺は茶化すような感じで書いてしまった。正直仕事に就きたいと心から思っていないからだろう。
送信ボタンを押した俺はゲームに戻ることにした。
また仕事をした気になり気分が良い―――
――――――――――――――
どこかの王の間
「王様!!新しい転移者の履歴書が出ました!!」
一人の甲冑を着た兵士は興奮して様子で部屋に入ってきた。
「それは本当か!?どうだ?我が国を救うような強き勇者になりえそうか!?」
「名前は上下田 城様、22歳の男性です!」
「して、特技は?」
「はい!麻雀?と書いてあったそうで、解析者の話ですが、その者の国ではその勝負にて、とんでもない荒くれものたちが、お互いの組織を掛けて戦ったり、想像もできない金額を賭け、勝者がそれを勝ち取ることができる勝負との記述が残っていたそうです!」
「なるほど・・・麻雀というものは何か決闘の方法なんだろう・・・その生き残りか・・・期待できるかもしれん・・・」
「続いて資格なのですが・・・」
兵は少し言葉に詰まる・・・
「何だ!?はよ教えんか!!」
「実は今までに見たことがないようで解析者でもわからないとのことでした・・・」
「・・・・・」
王様は少し怒っているようだ。それだけ資格が重要なのだ。
「履歴書に書かれていた文字は漢字と言われる文字でした。漢字にはそれぞれ1字ごとに意味を持つようでして、そこから解析者は読み取ったそうなのですが・・・」
「早く!それを言えい!!」
「な、なんでも【暴気3級】と書いてあったらしく、【暴】という文字は、荒々しい様子や暴れるといった・・・攻撃的なものを表す際に使うことがある文字のようで・・・」
兵士は恐る恐る話を続ける。
「【気】という文字、オーラやエネルギーといった意味があるそうです・・・そのことからこの方の資格を読み取るに、何か暴力的な、危険なものではないかと解析者は話しておりました!!」
「・・・・・・・・」
王様は黙ってしまった。
少しの時間が経つと王様は決心したかのように話だす。
「仕方あるまい・・・我が国が置かれている状況から助かる道は異世界の者の力を借りることだけだろう・・・その者に依頼を頼む・・・」
兵士は驚いたようだ。その答えが返ってくるとは思ってなかったのだろう。
隣に座っていた女性は今まで、話に反応はするものの声は出さなかった。だが黙ってはいられなかったのか、話に割って入る。
「お父様!聞いておりますとその者、異世界の暴力的な組織の決闘を得意とし、暴力的なエネルギーを放つ危険者とお見受けいたしました!!力はあれど、そのような力に救ってもらっても我が国の民は喜びません!!」
「恐れながら、私も姫様と同じお気持ちでございます!この者は危険すぎます!」
「だが・・・我が国を守るためにはこれしかないだろう・・・異世界からの転移者もそう多くはない・・・あったとしても戦いに特化した履歴書なんてほとんど無い状況だ・・・」
「全ては我の責任で良い!!その者を我が国に転移させよ!!」
王様はその決断によほど疲れてしまったのか、奥にある部屋へ入っていく。
兵士はその言葉を聞き急ぎ王の間を出て行った。
残された女性は不安からか泣きそうな顔をしていた。
――――――――――――――
上下田 城の部屋
(あれ?なんかメール来てる?)
【王都「カザリノフ」より勇者のお願いについて】
送り主は昨日登録したサイトからであった。
適当に書いたからなのか、悪戯のような件名だ。
俺は無視してゲームを続ける。
(そろそろ寝ようかな・・・)
目が覚めるとそこは知らない部屋の一室であった―――