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「そう。わかったわ。私との婚約を破棄したいのね?」


 王宮特選の豪奢な椅子に深々と腰かけて私は目の前の騎士団長に問い返した。


「はい。大変申し訳ありませんが、貴女様との婚約はなかったことにさせていただけますよう再度お願い申し上げます」


「理由は、他に好きな女がいるから」


「…………」


「その女を捨てて、私の夫にはなれないというのね?」


「……おっしゃる通りでございます」


「第一王女である私との婚約が成立すれば、あなたの権力は保証されるというのに、それをみすみす逃すというのね?」


「……はい」


 私の質問に騎士団長は床を見つめたまま答えた。


「いいじゃない。純愛で」


「……お褒めのお言葉、痛み入ります」


「憧れちゃうわ。私もそんな恋愛がしてみたいものね」


 はあとため息を吐く。

 そんな私を慰めるように騎士団長は言葉を取り繕った。


「アリアーヌ様ほどの魅力があれば、素敵な恋を成就させられますよ」


「ふーん」


「……な、何か?」


 訝しげな私の声色に騎士団長は不安そうな表情で顔を上げた。


「私に魅力があるというのならば、あなたが私と素敵な恋愛をしてくれればいいじゃない?」


「……そ、それは…………」


「私はあなたのことを心の底から男性として愛する準備があるというのに、どうしてあなたは"私ほどの魅力がある女"との婚約を破棄するのかしら?」


「…………」


 騎士団長は黙ってしまった。

 下手なことを言って私を怒らせたくないらしい。


「…………」


「そんなに黙り込まれも困るわよ、騎士団長様?」


「し、しかし……」


「あー、はいはい。今のはちょっと意地悪だったわね。もう答えなくて結構よ」


「……失礼致しました」


「婚約は受け入れてあげるわ」


「あ、ありがとうございます」


 一転、要望が受け入れられた騎士団長は目をキラキラさせた。


「ただし、1つだけ条件があるわ」


「な、何でしょう?」


 私が婚約破棄を認めるたった1つの条件。


 それは至って簡単な要求。


「私の靴を舐めなさい」


 私の言葉に騎士団長は呆然とするのだった。

 

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