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なろうラジオ大賞3応募作

雪だるまの季節の終わりに

「おはよう! ゆきちゃんは今日も元気そうね」

 彼女はかずちゃん。毎朝僕に話しかけて来る女の子だ。僕は瀬一杯の笑顔を返す。

「じゃあ、ゆきちゃんまた後でね。行って来ます」

 彼女は小学生である。黄色い帽子に赤いランドセル、首に巻かれたマフラーが顔の半分を覆っている。ぶんぶんと振っている手には親指だけ分かれている手袋をしていた。

 僕も精一杯上げた手で彼女を見送った。


 「ただいまー、行って来まーす」

 学校から帰って来たかずちゃんは玄関にランドセルと帽子を置くと、すぐに友達と遊びに出掛けてしまった。

 僕が気を付けてと声を掛けようとしたが、既に彼女の姿はなかった。


 日が沈み辺りが薄暗くなってもまだかずちゃんは帰って来なかった。

 僕は心配で探しに行こうかと思ったのだが、彼女とは所詮他人なのだから迎えに行くのもおかしな話だろう。悶々としながらも僕はひたすら待つ事しか出来なかった。


「たっだいまー」

 すっかり暗くなった頃にかずちゃんは元気良く帰って来た。僕がどれだけ心配したかも全く分かっていないような呑気な声で挨拶するものだから、少し拗ねて無視をしてしまった。

 そんな狭量な自分自身に落ち込んでしまう。

「あっ、落ちちゃってる。ごめんね」

 かずちゃんは僕の手を握る。すぐに元通りだ。


「おはよう! 今日はあったかいからマフラーはしないの。行って来ます」

 嬉しそうにくるりと回ったかずちゃんの笑顔が良く見えるので、何だか僕も暖かいのが好きになれそうな気がした。


 僕の全身から力が抜けていく。立っているのもやっとの状態だった。ぼやける視界にかずちゃんの姿が映った。

「ただいま。ゆきちゃん! 大変! ちょっと待ってね」

 かずちゃんは僕の全身をさすってくれた。彼女が僕に触れるたびに力が徐々に戻ってくる気がした。

「どう? もう大丈夫だと思うけど」

 心配そうな彼女に、僕は力強く上げた手で心配ない事を伝える。


 翌朝、学校に向かうかずちゃんをいつも通り精一杯あげた手で見送る。でも、それは僕の最後の意地だった。

「行って来ます」

 もう手を上げているのもしんどい。かずちゃんの姿が遠のいていく。僕の手は地面に落ちた。


 頭に乗せていたバケツも、目玉代わりの石ころも落ちていく。

「楽しい思い出をありがとう」

 そして、僕は水へと返るのであった。


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