一章:【能力戦闘】~一つ目の隠し技~
約五ヶ月ぶりの投稿になります。
色々と忙しく次の投稿もすぐに出来るかはわかりませんが、どうぞお暇な方は読んで下さい。
ギィィ!
扉が音を立てて開く。
悠は慎重に部屋の中を覗き見る。
ガキィン!!! 視線の先で床が弾ける。
そこには二人いた。
一人は、悠より少し上ぐらいの大学生と思われる青年で、ハルバートと呼ばれる斧を軽々と片手で振り回し、もう一人を追い回している。
もう一人は、やはり大学生と思われた。しかしこちらは女性だ。どうやら、必死で青年のハルバートによる攻撃から逃げている。長い厚手のコートを着ているせいか、非常に動き憎そうだ。元の世界ではクリスマスだったからコートを着ていても不思議じゃないが、脱げばいいのにと思う。
今の状況からみてどうやら戦闘中だ。
他人が闘っている所を初めて見た。女性の方は怯えた表情で必死に逃げているが、俺にしてみれば他人事だ。まあ、残った方を倒せばいいか。
悠はどこか冷めた目で二人の闘いを見つめた。
女性が悠に気付いた。
「お願い! 助けて!!」
それは悲痛な叫びだった。
青年が女性に向かってハルバートを振り下ろす。
ガキンッ!!
再び、ハルバートが誰もいない床を砕く。
女性は床を転がってそれを避けていた。
「ねぇ、お願い!」
再度の要求。
青年は邪魔が入る前にというように、女性を追うスピードを上げる。
二度、助けを求められても俺にとってはやはり他人事だ。
ただ、『あの人』は助けるだろうな、きっと。
そう思ったら体が動いていた。
俺は野太刀を創り出し、両者の間に割り込む。
「ハァ!!」
青年は悠に構わずハルバートを振り下ろす。
野太刀とハルバートがぶつかり合う。
長さ四尺(約百二十センチ)もの野太刀にヒビが走る。
重い! ハルバートの重さもさることながら、青年の力がやたらと強い。
ーーーーーーっていうか有り得ん。人の出せる力じゃねえ!
「このッ!!」
何とかハルバートを弾く。
重い一撃のせいで少し手が痺れている上に、野太刀はヒビが入っちゃったから消すことができない。踏んだり蹴ったりだ。
しかし、悠の災難はこれで終わらなかった。
「へぇ。 よく俺の《力》の一撃を止めれたねぇ、君」
「ハッ! あんなの蚊に刺されるより効かないさ」
虚勢ではあるが、決して退かない。
悠にとって退くという行動を取ること、それは敗けと同意義だった。
それにしても《力》。つまりは力を強くするだけの能力なのだけど単純な分、厄介だ。
「ふんッ! 言うじゃないか、ガキの癖に。 しかも、この殺し合いの最中、人助けとは余裕だな」
青年は鼻で笑う。
「別に助ける気は無かった。 けど、色々事情があんだよ、こっちには」
「事情ね。まあ、俺達にはラッキーだったな」
「何言ってんだおまッ・・・・・・ぐッ!?」
ズキッ!!
青年の不自然な態度を問詰めようとした時、悠の足から身体全体に電撃が疾る。
「な・・・・・・何が?」
足を見る。
そこには俺の右足に触れている女性がいた。
「手前ェ・・・・・・何してやがる」
「君って馬鹿だね」
女性にはさっきまでの怯えた表情は無く、寧ろ憐れむような顔でこっちを見てくる。
「えいッ!」と女性は悠を押した。
悠はそれだけで膝をついてしまう。体が痺れてまともに動けないようだ。
「どうかな? 私の《麻痺》の味は」
「クソが!! 騙しやがったな」
「いくら強がっても動けない相手なんて怖くないよ」
「まあ、どんな事情があるか知らんが、この殺し合いで人助けするような甘ちゃんが悪いのさ」
青年がハルバートを担ぎながら女性の隣に立つ。
「それにしても罠なんだから、あんな思いっきり攻撃しなくても良かったんじゃない」
女性が不満を突きつける。
「まあ、結果オーライだよ。 結果オーライ。それに敵を騙すにはそれぐらいしないと。 それより・・・・・・」
青年は女性をなだめながら、ハルバートを構える。
「・・・・・・コイツ殺そうぜ」
殺気が溢れる。それと同時にハルバートが頭上に振り下ろされる。
俺は全神経を脚に集中し、横に跳ぶ。
しかし《麻痺》のせいでうまく力が入らず、僅かしか位置がずらせなかった。
真横にハルバートが突き刺さる。
ズドン!! 激しい音と供に砕けた床が礫となり、僅かしか移動しきれなかった俺を襲う。
「ぐッ!!」
何とか腕でガードするも全ては防ぎきれず体のあちこちに石ころが叩き付けられる。
ズズズ・・・・・・。
ハァハァ。体を引きずりながらも、とにかく二人から距離を取る。
余裕なのか、幸いにして二人は追い掛けてこない。
さっきの礫の影響で身体中が痛むのだが、いつまでも、寝転がっている訳にはいかないので頑張って体を起こす。
そして、気付かれない様に掌サイズのナイフを創り出す。
「ねぇ。 早く殺そうよ」
「まあ、待てって」
いつの間にか、手を伸ばせば届きそうな位置に二人が立っていた。
ーーーーーーヤバいな。痺れのせいで注意力が散漫になっているらしい。こんな近くに来るまで気付かないなんて。
「なぁ。お前死にたくないよな」
「はぁ? 当たり前・・・・・・だろ・・・が」
青年の意味不明な質問に途切れ途切れになりながらも何とか答える。
「なら、さっきの一撃を避けたお前にご褒美として、助けてやる」
「?」
「何、言ってんのさ」
女性の批判を受け流し、青年は軽薄な笑みを浮かべる。
「土下座しろ。許しを請え。 そうすれば見逃してやるさ」
青年は完全に悠を見下していた。
「ハハッ。いいよ、それ」などと、女性が青年の横で笑っている。
土下座か? 死か?
考えるまでも無かった。
確かに目の前の二人は明らかに俺を馬鹿にしている。
それでも、とにかく俺は元の世界に戻るまで死ぬわけにはいかない。
なら、選ぶべき道は一つだ。
俺は覚悟を決めた。
辺りを見渡し、誰も居ないか確認する。
青年はそれを目ざとく見ていた。
「何だ。恥ずかしいのか。ここには誰もいねぇから早くしろ!!」
悠が床に手を着いた。
そんな悠の上に影が重なる。それはハルバートを構える青年だった。
「まあ、助けるなんてのは、嘘だ」
何故、それを土下座する前に告げるかが疑問だった。土下座させてから殺せばいいものなのに。
「何で、今?とか思ってるんだろうが、土下座している間に殺したら、手前ェの絶望に染まる表情が見えねえだろ」
狂っていた。
能力に溺れたか、いきなりの事態に精神を乱したかは知らないが、目の前の青年は普通ではない。
青年はハルバートを振りかぶる。
「さあ、絶望に染まって死ね!!」
「まあ、想定の範囲内だけどね」
俺は微かに笑い、そして創造した。
「『アーシア』」
ドスッ!!
悠の呟きと供に一振りの土色をした剣が地面から伸びていた。
エスタットといわれる突きに特化した剣だ。その剣先が青年の心臓を正確に貫いている。
悲鳴一つ上げることも出来ず青年は事切れた。
青年が光の粒子となって消えていく。その向こうで女性が驚愕の表情をしたまま、床の上に震えながら座り込んでいる。
青年が消え去ると、そこには床から突き出ている土色の剣だけになる。
ズキンッ!!!
(くっ!?)
頭を激痛が駆け抜ける。『アーシア』を使ったことへの反動だろう。
未だ、地面から突き出ているエスタットを見て思う。
(使っちゃったな)
何故、覚悟を決めたはずの悠が剣を創造し、青年に攻撃したのか?
それは簡単なことだった。
悠が覚悟したのは土下座では無かった。覚悟したのは、『アーシア』を使うこと。
『アーシア』は悠が隠している四つの技の内の一つ。
能力の裏技。
『能力付加剣』だった。 『アーシア』はその中で、『大地より貫く剣』。名前があるのは、名前を口に出すことで創造するときのイメージを速くする為だった。無論、『アーシア』以外にも『能力付加剣』はある。
悠は色々と力を隠して闘っている。きっと始めから『能力付加剣』等の隠し技を使っていれば楽勝だったろう。しかし、悠は自分の情報が敵に伝わることが致命的だと考えている。勿論、この『能力付加剣』の反動による頭痛も一つの要因ではあるが。
だからこそ、使うのに覚悟が必要だったし、誰かが見てないか確認したのだ。
痛む頭を押さえながら立ち上がる。
そのまま、へたりこんでいる女性の前まで歩く。
女性は悠の接近に気付き逃げようとするが、腰が抜けているらしく上手く動けていない。
女性は急に悠に向き直り睨みつけてきた。
「なっ・・・・・・何で! 君、動けるのよ」
その声は恐いのか震えている。
「君は、私の《麻痺》で身体中が痺れて動けない筈でしょう」
精一杯、虚勢を張っているのが見てとれる。
俺は右手を前に突き出す。
「ああ、それなら。これだよ、これ」
突き出した右手を開く。 そこには、血まみれのナイフとパックリと裂けている右手があった。
「ひっ! 君、自分の手を!」
「まあね、こんな原始的な方法しか思い付かなかったけど以外と効くね、これ」
そう言いながらナイフを消し、代わりに巨狼の時と同じ刀を創る。
それを見て、女性は慌てた。
「ねぇ、ちょっと待って私の話を・・・・・・」
「人を騙すような奴の話を聞く気はないよ。でも俺のことは恨んでくれて構わない」
「ねぇ。本当に待っ・・・・・・」
ザシュッ!
一切躊躇なく首を切り落とす。
女性も青年同様、光の粒子となって消えていく。
女性が完全に消えるのを確認してようやく一息、吐いた。
「はぁ~。流石に今回は意外とヤバかった。油断しすぎかもな」
ズキッ!!!!
再度、頭を激痛が襲う。更には、身体中の痺れが蘇ってくる。
グラッ!!
挙げ句に視界が歪み、立っていられなくなり、悠は床に倒れた。
「あれッ!?」
身体に力が入らない。予想以上にダメージが大きいらしい。不味いことにどんどん目の前が暗くなっていく。
ーーーーーー意識が飛びかけてる!? 不味い。こんなとこで気を失ったら死ぬ。
必死に意識を繋ぎ止めようとするが、身体や能力はダメージのせいか一切、反応しない。
健闘虚しく、数分後、悠の意識は闇に包まれた。
ギィィ!!
扉が開く。
二人の人間が部屋に入ってきた。
倒れている悠を見つけ、駆け寄っていく。
二人は悠を見て、何かを話し合っていた。
悠はこの時、まだ二人の人間が部屋に入ってきた事すら気付かず、夢の中だった。
この時点で【能力戦闘】・・・・・・。
生存者は残り・・・・・・四十五人。