一章:【能力戦闘】〜恨んでくれて構わない〜
また更新が遅れました。
悠の眼前で今まで沈黙を保っていた、巨狼が反転し、走り出した。
どうやら逃げているらしい。悠のいる側とは反対の扉に物凄い速さで走っていく。
正直、驚いていた。あれだけ自分の方が優勢の時に逃亡を選択するのは並のことではない。
獣の本能も馬鹿には出来ないと思った。感覚だけで俺の力を悟ったんだからな。
しかし、逃がすわけがない!
シュッ!
俺は腕を振る。
考え中に、創造しといた三本の小刀を投擲する。
投擲された三本の小刀は正確に、巨狼の目の前に突き刺さる。
巨狼の動きが止まる。
その僅かな隙を見逃さず、俺は地を蹴り、風となった。
巨狼が方向を変えようと、横に跳ぶと、そこには既に悠が立っていた。
巨狼が眼を見開く。
どうやら、驚いているらしい。まあ、獣の表情の変化など分かりはしないので、本当に驚いているかは不明だ。
スパァン!!
俺は獣の横っ面を蹴り飛ばす。素足なせいか、小気味良い音が辺りに響く。
巨狼は横に吹っ飛んだ。 ズザザザザァァァーーーーーー。
そのまま、床を滑って壁の方にいってしまう。
まるで、さっきの繰り返しのようだった。立ち位置が逆だが。
それほど強く蹴ったつもりは無かったが、予想以上に吹っ飛んだなぁ。
俺は巨狼の吹っ飛んだ先を見ながら、三本の小刀を消し、前に折れてしまった物と同じ長さの日本刀を創造する。
そのまま、ゆっくりと巨狼の吹っ飛んだ方へ足を進める。
しかし、いざ近くまで行ってみれば、巨狼は最初の時のサラリーマン風の姿に、人間の姿に戻っていた。
サラリーマン風の男は、悠を怯えるように見つめていた。
「……たっ…頼む! 殺さないでくれ!」
自分は俺を殺そうとしといて、こいつは一体何を言っているんだ。
「そ、そうだ。 どうせ、五人は生き残れるんだし手を組むのはどうだろう? 君はとても強いが、まだ若いし、ここは大人の私が闘い以外の部分をサポートする形で。 なぁ、君に損なことが有る訳では無いし、悪い話じゃないだろう」
いつの間にか、命乞いから協力しようなんて方に話を都合よくすりかえた男を見ていて、俺は流石に見苦しくなってきた。
俺は刀を持つ手を振り上げる。
それを見た男の顔が、恐怖に染まり、青ざめていくのがハッキリとわかった。
「待て! 待ってくれ!!」
男は逃げようとするが、後ろは壁である。
俺は男の言葉等、気にも留めない。
「待て、本当に待つんだ。 今、私を殺せば、私は君を恨む。 君はこの先、私の恨みを背負って生きていくことになる。 そんな覚悟が君にはあ……」
「恨んでくれて構わない」
俺は最後まで聞かなかった。
刀を振り下ろす。
男の首が飛んだ。
血が吹き出すと思い、少し身構えたが、一向に出ない。
男の方を見れば、体と床に転がっていた首が光の粒子になって消えていくところだった。
これも、この部屋の効果だろうか。まあ、死体が残ってたら邪魔だし、見ていたい物ではないしな。しかし、どうせなら刀に付いた血も消えれば良かったのに。
悠はたった今、人を殺したというのに平然としていた。
「はぁ〜。 下らない闘いも済んだし、次、いくか」
悠は血の付いた刀を消し、四つの扉から適当に選んだ扉に向かい歩いていく。
「本当に下らないよ」
その呟きは悠の本音だったが、周りに人がいない為、誰にも伝わることなく消えていった。
この時点で【能力戦闘】………………。
参加者……八十一人。
生存者は残り…………六十五人。
初戦闘終了です。
悠は実はかなり強いです。
ただ、実力を隠すためにこれからもそこそこ苦戦します。
次回はバトルはありませんが、やっと名前のある新キャラ登場!