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創剣士  作者: 佐倉 涼月
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一章:【能力戦闘】〜獣の咆哮〜

更新が遅れてすみません

 左の扉が開く。

出てきたのは、スーツを着たサラリーマン風の男だった。歳は三十前後といった感じで、どうも疲れている様に見える。

 まあ、歳をとっている人の方がこういう漫画に出てくるような異常な事態に順応するのは難しいのだろう。

それにしても、男は悠が考えていたように、奇襲を仕掛ける訳でもなく、ただ扉の前に立ってうつむいている。

正直、拍子抜けしてしまった。流石に最初ということもあって身構えていたのだが、これは。

 悠がそんなことを考えている間も男は動かない。それどころか此方を見ようともしない。

悠は、ここにきて、男の態度の明らかな異常さを感じていた。

・・・・・・こちらから動くべきか?

悠が体勢を僅かに前に傾けた、その時。

グルルルルゥゥゥ!

獣の声のような音とともに、男の体がピクリと動く。

 ・・・・・・何だ。今のは。

悠が身構え、警戒するように男を睨む。

そう、悠はしっかりと男を見ていた・・・・・・はずだった。


次の瞬間、男の姿が悠の視界から消えた。

「なっ!?」

悠は消えた男を捜そうとせず、すぐに後ろに跳ぶ。

正に紙一重でさっきまで立っていた場所に、一頭の黒い獣が風を切り裂き、跳び掛ってきた。

 悠は自分の直感に感謝した。

目の前にいる獣は、種類としては狼に見える。けど、大きさは軽く二メートルを超えていて、鋭い爪と牙が光って見えた。あの場にいたら、今の一撃で死んでいただろうと思う。

 恐らく、能力は【獣化(じゅうか)】だと思うが。何故、【獣化】なのだろうか。正直、身体能力や攻撃力を上げる能力は他にもあったはずだが。

そこまで考えて頭を振る。そんな状況ではないと意識を高める。先程の決意は確なのだが、どうも真剣に成りきれていない。


それでも、こんな所で死ぬ訳にはいかないので、悠は刀を創造する。


普通の刀である。刃渡りは二尺六寸(八十センチ)の日本刀で違う部分としたら(つば)が無い所ぐらいだろう。鞘にしまっている状態では、長い木刀に見える。

悠は刀を鞘から抜き放ち、警戒を強める。

しかし、構えようとした時、あろう事か、巨狼は真正面から突っ込んで来た。

 虚を突かれたものの、振り上げられた巨狼の爪に対し、悠は刀を振った。


ガキンッ!


刀と爪がぶつかり合い火花が宙を舞う。


だが。


バキン!


「嘘だろ!?」

何と、悠の刀が巨狼の爪に耐えきれず砕けた。

悠は次の刀をすぐには創らず、獣の爪に注意を向ける。

・・・・・・あれを食らったらアウトだ。



しかし、またも悠の予想は裏切られた。



巨狼は、勢いをそのままに体当たりしてきたのである。

ズドン!

鈍い音とともに鈍い痛みが悠の腹部に突き刺さる。致命傷にはならないが、それでも、そこそこのダメージだった。

「がはッ!」

 悠の肺から空気が強制的に吐き出される。


 

ドンッ!!

そのまま、悠はまともに受け身も取れず、壁に叩き付けられた。

 「ぐっ!!」


一瞬、頭が真っ白になった。

しかし、それが逆に悠を冷静にした。

悠はすぐに立ち上がらない。少し考える時間が欲しかった。さっきは考えている暇は無い、と思ったがそもそも思考を放棄して勝てる訳が無い。

今頃、そんなことを気付くとは。

 やはり、いつもと比べて調子が悪いような気がする。

 自分の調子はさておき、思考を開始する。頭の中で今までの情報が収束していく。

それと同時に、悠の瞳に今までに無い光が宿る。

能力戦闘(スキルサバイバル)】、【獣化】、男の攻撃、上がらない自分の調子、と様々な情報が跳びかい、やがて一つの答えに形を成す。

「ああ、そっか。 だから、【獣化】か」

色々な疑問が氷解した。 ようは、 躊躇(ためら)い だったんだ。

悠の調子が出ないのは、いきなり、殺し合えと言われて表面上納得しただけで、実は内心では人殺しに躊躇いを感じていたからで、男が能力に【獣化】を選んだ理由、それは逆に獣の本能で躊躇うことを無くすため。

そこまで、わかれば後は簡単。躊躇っているという自覚があれば、それを消すことなんて悠には造作も無いことだった。


悠は立ち上がる。瞳に決意の光を宿しながら。






男は戸惑っていた。

壁まで吹き飛ばした少年を追撃することが出来なかったからである。今は吹き飛ばされた少年がブツブツと呟いているのをただ、見ているだけだった。

明らかに、優勢なのは此方なのに、何で。

今までは、完全に考えた通りに上手くいっていたのに。【獣化】で人を殺す罪悪感を消し、逆に躊躇している相手を反撃の間さえ与えずに倒す。完璧だった、ここまでは。そりゃ多少の抵抗はされたものの、こっちは傷一つ無い。

そう、後は追撃して勝ちの筈なのに。

男は動けなかった。

巨狼と化した自分の本能が訴えていた。


少年に近付くな、逃げろ、と。


躊躇いを無くすための獣の本能が今は、逆に邪魔になっている。しかし【獣化】を止め、人の姿でいけば、人殺しの罪悪感に耐えられない。

本能に従い、逃げるべきか。それとも追撃をして(とど)めを刺すべきか。

そんなことを考えている間にブツブツ呟いていた少年が立ち上がっていた。

慌てて、男は巨狼の眼で少年を睨み、そして見てしまった。

少年の瞳に宿る光を。


身体中の毛が(さか)だった。

もう、止めを!、等という考えは浮かんでこない。

男の頭の中は、恐怖一色であった。

この少年の何処にこれほど恐怖を覚えるのかは、男にはわからない。

緊張が高まっていく。


ザッ!!!

少年が(かす)かに動いた。



その瞬間。



巨狼の姿の男は、身を翻し、逃げ出した。獣の運動能力をフルで活用して、物凄い勢いで走り出す。



後に、男は気付く。

この全力の逃亡が全くの無意味だったことに。

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