一章:【能力戦闘】〜戦闘準備〜
最初の部屋の時と同じ様に気が付けばそこにいた。
やはり、部屋中が白によって染めあげられているがさっきまでの部屋とは違う。
その証拠という様に視線を部屋の壁に移せば、さっきまでは無かった、剣、槍、斧に盾など武器や防具が飾られている。
これは殺し合いに利用しろと言うことだろう。
はぁ〜。
様々な武器や防具を見て、知らず知らずのうちに溜め息が出た。
正直、溜め息が出ても仕方ないと悠は思っていた。
手を体の前に突き出す様にして構える。
そして悠は創造した。
悠の手の中に一振りの日本刀が納まっていた。
何の変哲もない日本刀だがこれで能力が本当であることが証明された。
しかし、能力の証明とともに悠の溜め息の理由も分かる。
悠の選んだ能力は刀剣を創り出す能力だった。 だけど、この部屋の壁を見れば武器は創り出すまでもなく既に存在している。 悠のテンションを下げるには十分だった。これで悠の考えている裏技がこの能力で使えなければ、本当に無駄な能力を選んだことになる。
早速、裏技を実験をすることにした。
とはいっても、やることは前と変わらない。
手を体の前に突き出し、創造する。 ただし、今度は眼を閉じ、イメージを明確に。
手の中に感触が生まれる。
悠は眼を見開き、手中の物を見る。
悠の裏技は実現した。
次の瞬間。
ーーーーーーズキン!!
強烈な痛みが頭を襲った。
余りの唐突な痛みに手中の武器を消してしまった。
すると、不思議なことに強烈な頭痛が和らいだ。
それらの事象から悠は一つの確信を掴む。
成程。 能力は人の身に余るほど強大で使い過ぎれば、自分の脳の方が耐えきれずオーバーヒートするって事か。
理解すればやることは決まっていた。
悠は直ぐに日本刀や西洋剣など様々な刀剣を創造していく。
やることとは当然、能力の把握である。
八本目を創り出した所で、軽い頭痛に襲われる。 十本目で無視できないくらいまで痛みのレベルが上がる。
そこで能力の使用を止めた。
無理をすればもう二、三本は創れるだろうが、あれ以上は戦闘に支障が出るだろう。 裏技無しで連続使用は十本、裏技は良くて三本と言った所か。 両方を併用すれば創造出来る数はもっと減るだろう。
そこまでやって悠は創り出した十本の内、九本を消す。 頭痛が幾らか和ぐ。 どうやら創り出した物を消す事で脳にかかったある程度の負荷は軽減されるのも確なようだ。
残りの一本を手に取って、悠は徐に壁に叩き付ける。
ばきんッ!
鈍い金属音を部屋中に響き渡らせて悠の持っていた日本刀が真ん中からポッキリと折れた。
悠は折れた刀を消そうとするが、今までの刀剣と違い折れた刀はそのまま手中に存在を残していた。
つまり、これは壊れてしまえば、消して負荷の軽減をするという行動が出来ないことを意味していた。 流石にどれくらいの破損で壊れたことになるのかは解らないし、調べようとは思えなかったが、使い捨ての感覚で刀剣を創造するのは、自殺行為だろう。
悠がこの部屋に跳ばされてから三十分は経った。そろそろ全員が能力を決めていてもおかしくはない。
能力の把握は終わった。
次に悠は身体の状態を確かめるように動き始める。
半袖のシャツの為、動きやすいのは良いが、自分の部屋にいた時に、この異世界に呼び出されたので裸足だった。
「走りやすいが足を狙われるときついかなぁ。 でも、仕方ないか。」
一応、裸足でどれだけ動けるか確かめようとした時、不意に腰に違和感を覚えた。
ここにきて、悠はやっと自分がウエストポーチをしていたことを思い出した。
ウエストポーチを開け、中身を取り出す。
飴(十二個)、チョコレート(三枚)、スポーツドリンク(ペットボトル半分)、携帯電話(圏外)、千條高校の生徒手帳、ハンカチ、ティッシュ。 何とも微妙なラインナップだ。
悠はウエストポーチに残っていた最後の一つを手に取る。
それは、今までの物とは、まるで別物だった。
ナイフというには長く大きく、刀というには短い。柄から刀身まで全て漆黒。刃渡りは約六寸(約十八センチ)で、名前を《月下》という。世間では護身刀や守り刀と呼ばれる物で悠の家では【守護刀】と呼んでいる。
悠は《月下》をしっかりと握る。
《月下》は悠の為の刀ではなく、悠の大切な人を守護する刀なのである。
この《月下》と自分自身の全てを懸けて、あの人を護ると誓ったこと思い出す。
だからこそ、俺はこの手で沢山の人の命を奪い、どれだけ恨まれようが、必ず元の世界に帰るんだ。
決意を明確なものとし、悠は《月下》を腰のベルト部分に指し込んだ。
用意は万全だった。
後は開始を待つだけだ。
悠はその場に寝ッ転がった。
床が石で固いが、色々な事がありすぎて、酷使された頭を休めるには、リラックスするのがいいと思った。
そのまま、眼を閉じる。
悠はそのままの体勢で五分ほどゆったりしていた。
ピィーーー。
不意に音が鳴り響き、《ラズライト》が光る。
「それでは、殺し合い。名付けて・・・・・・」
《ラズライト》の声は一瞬、間を溜めて、
「・・・・・・【能力戦闘】を開始します」
開始を宣言した。
合図とともに、悠を中心に前後左右の壁に扉が現れる。
悠は顎に手を当て、考える。
奇襲か。 迎え撃つか。
どちらにもリスクはあると考えている内に答えは出ていた。
誰かが、左の扉を開けた。
次回、遂にバトルです。