一章:【能力戦闘】 〜スキル選択〜
「皆さん。ようこそ、『異世界』へ!」
その言葉を聞いて、皆、呆然としたのか一瞬、辺りが静寂に包まれる。しかし、すぐにほとんどの人達が自分の首に掛っている青い『それ』に怒鳴りつけ始めた。
そんな中で悠は多少、戸惑いはしたものの、むしろ納得したという表情を浮かべていた。
一つ疑問が解消され、他の疑問も青い『それ』に聞いてみたい所だが、さっき、同じ言葉が同じ声で『それ』から同時に聞こえてきた事を考えても、今、質問したところで他の奴らの怒声に阻まれるだろうと思い、止めておくことにした。
それに『それ』から反応がないから怒声が止むまで無視をしているのだろうと考えた。
周囲を観察してみれば、数は少ないが悠と同じ様な感じの人が幾人か居た。
それからしばらくして、疲れたのか怒声が少なくなった。
「それでは、本題に入ります」
まさに狙っているとしか言えないタイミングで、『それ』から声がする。
どうやら、周りの人達も諦めたのか話を聞く態度だ。
しかし、次に『それ』から聞こえてきたのは驚愕の言葉だった。
「貴殿方には、今から殺しあって頂きます」
悠は耳を塞いだ。
その言葉に恐怖したとかではなく、これから起こるであろう数多くの怒声を聞かない為に。
ウォォォーーーー!
案の定、周りは騒ぎ始める。
『それ』からの声が殺しあいを告げる時と歓迎の言葉を言った時で声のトーンに一切変化がなかった所から、悠はさっきの言葉が本気だと悟っていた。なので、悠は怒声が治まるのをただ静かに待つ。
それから数分の間、怒声は続いたがやがて疲れたのか、怒声がしなくなっていった。
無論、その間『それ』は何一つ反応を示さなかった。
「それでは、ルール説明です」
こっちは完全無視して、職務に忠実かぁ。
悠は『それ』の声に対して僅かな感心を抱く。
「ルールは簡単。 貴殿方には一つ能力を選んでもらって、その能力やその他を駆使して殺しあいをしてもらいます」
「能力?」
「はい、能力です。 貴殿方の世界だと、超能力や異能と呼ばれるものです」
誰かの呟いた言葉が聞こえたのか『それ』は補足をする。
「百聞は一見にしかずです。 《ラズライト》に『Skill』と言ってみて下さい」
「『Skill』」
悠が恐らく話の流れ上、《ラズライト》であろう青い『それ』に対して、言葉を呟く。
すると、《ラズライト》からパソコンの画面の様な映像が浮かび上がる。
オォォーーーー!
アチコチで同じ現象が起きているようだ。
(凄い。これも能力の一端なのかな? 科学なら物凄い技術だと思うんだが)
悠もまた感嘆の念を抱いていた。
気を取り直して、その映像を見てみると、様々な能力がそこに映し出されていた。
【炎を扱う力】、【水を扱う力】、【獣化】、【パワーを強くする力】、【スピードを上げる力】、【癒しの力】、・・・・・etc。
とまあ、数多くの能力が羅列されいた。
「能力の数は大体200ぐらいだったかな。まあそんなわけで、その中から一つ能力を選んでもらいます」
「へぇ〜」
悠は羅列された能力を一つ一つを吟味するかのようにしっかりと目を通していく。
「能力は一人一つ。能力を選んだ方から部屋に跳んで貰い、全員が能力を選び終わるまで待機となります。それでは皆さん能力を選んで下さい」
説明する『声』がしなくなり、周りの人達が能力を選び始めようとした時、悠が『ラズライト』に呼び掛けた。
「ちょっと質問がある」
「・・・・・・・・・。」
返答は無い。
周りの人達も急に質問をした悠に驚いている様で辺りに静寂が落ちる。
悠は構わず続ける。
「一つだけでいい、答えろ! この殺し合い、最終的に生き残るのは何人だ?」
ゴクリッ!
その言葉に周りの奴らの息を飲む。それは、ここにいる者達にとって、とても重要なことだった。
それから数十秒の間、ラズライトからの返答はなく、悠がもう一度、口を開きかけたその時、
「五人程度ですね」
ラズライトは答えた。
「正確には決まっていませんが五人を基準としています。ニ、三人は上下する可能性もありますが」
更に細かく補足をする。
------五人か、五人だってさ。良かった。一人じゃないのね、などと辺りから歓喜の声が上がる。気が早い奴は早速、五人以内で仲間を集めようとしたりしている。
周りが騒ぎ始めたせいか、ラズライトからの言葉は止まっていた。
まだ聞きたい事は、あったんだが。
仕方ない。
悠はそう、思う事にした。
取り敢えず能力を決めることにする。
「『SKill』」
もう一度、能力の表をラズライトから呼び出し、端から端までしっかりと見ていく。
そして、候補を五つに絞った。
・【殺した相手の力を奪う能力】
・【凍結させる能力】
・【癒しの能力】
・【刀剣を創り出す能力】
・【加速させる能力】
この五つの能力に絞ったもののどれも欠点がない訳ではない。
【殺した相手の力を奪う能力】は、最初の一人は能力無しで闘うしかないこと。
【癒しの能力】は傷付いても回復できるが、やっぱりその身一つで闘うしかない。
【凍結させる能力】と【加速させる能力】、そして【刀剣を創り出す能力】は、悠が考えて
いる通りの使い方が出来るならかなり強力な武器となるが、確証がない。
どれも決め手を欠いていた。
数分後、意を決し、悠が一つの能力を選んだ。
次の瞬間。
そこに悠の姿はなかった。