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今日から俺は転校生ってことで  作者:
ラーメン部編
20/30

Unlimited Noodle Works 麺突き姫編

ーーー体は麺で出来ている。


血潮は水で、心は小麦。


幾度の厨房を越えて腐敗。


ただの一度も完食もなく。


ただの一度も勝利もなし。


担い手はここに孤り。


麺の丘で生地を打つ。


ならば、我が生涯に意味は不要ず。


この体は、無限の麺で出来ていた。








「またピネだ!あいつ死んで下さいよほんとに!」


 それはミナミが切ったパイナップルを食べながらくつろいでいた平和なある日のこと。


「fuck!ちょっとくろうさん!なんですかこの『lol』ってメッセは!ぶち転がしてやりたい気分です!」


 ビシイ!と中指を立てている。


「クッソ腹減ったなあ」


「聞いてますか!?あああ!何がもっと頑張ってですか!おめーも頑張んですよ!」


 ミナミは俺が買ってきたFPSにドハマりしていた、性格変わりすぎだろ俺の純情を返せ。


「なあ腹減ったって」


「じゃあ少し早いですけどお昼にしますか、何食べたいです?」


 うわあ、急に落ち着くな。えるしっているか、ゲームで性格変わるヤツはろくな奴がいない。


「ラーメン」


「ええ?じゃあくろうさんが生地からこねて下さいよ」


「やだよ、疲れる」


「見たいなー、くろうさんのかっこいい所みたいなー」


「できらあっ!」






「ほらもっと腰入れて」


「ひー」


 言われるがまま小麦のカタマリをこね続ける、うどんと違って水が少なめだから固くてまとまりにくいったらありゃしない。


「なんで生地から作るんだよ、麺なんてその辺で買ってくりゃ良かったじゃん」


「くろうさんが言ったんでしょう、「美味しいラーメン食べたい」って。だからわざわざこっちもスープから作ってるんですよ」


 ふんふんと鼻息を荒くさせながらいい笑顔で『誰でもできるラーメンスープ入門編』とかいう脱サラしたリーマンか少し前までヤンチャってた太めのおっさんしか読んでなさそうな本を読んでいる。ちなみにこの類の本を居間に放置すると母親が何かを察し機嫌悪くするので気をつけよう。


「だからって全部手作りじゃなくてもいいじゃんかあ」


「何言ってるんですか、これも美味しいラーメンの為ですよ。ほらほら頑張って〜」


 くう、なんだか前よりも扱いが雑になっている気がする。


「ぬーーん、なあこれポロッポロなんだけど。水もっと足していい?」


「ダメです、こね続けてればまとまるってこっちの本に書いてあります」


「そうなの…?」


「そうですよ〜ほら頑張って、終わったら肩揉んであげますから。私早く美味しいラーメン食べたいです」


 そんな事言われたら男として頑張る他あるまい、ふんふんぐるいふんぐるいと深淵の力を使い果たし気がつけば割といい感じにまとまっていた。


「オ、ナイスデザイン。やりましたねくろうさん」


 不謹慎極まりないお褒めの言葉を頂く、どうでもいいけどあの漫画よく学校の図書館に置けたよな。


「そりゃどうも、でこの後どーすんの」


「冷蔵庫にしばらく置いてその後足で踏みます」


「うどんと大体同じか」


「作ったことあるんですか?」


「まーね」


 二度と一人じゃ作らないけど。


「一時間ほど休憩しますか、アニメでも見ます?」


 隙あらばアニメを見る厄介オタクになってしまったミナミ、これは何としてもこれ以上悪化しないようにしなくては。作戦実行!


「や、映画借りてきたからこっちを見よう」


「なんて映画ですか?」


「ファイト・クラブってやつ、面白いぞ」


「へー、どんな映画ですか?」


「そうだな、…………現出します…ミラーミラー!って感じ?」


「はあ?」


 とりあえず俺好みの映画を吸収させていく方向で。



「面白かったか?」


「過激ですね」


 小学生並みの感想しか得られなかった、次は怒りのアフガンでも見せようかな。次の日に弓矢でも習いだしたら大成功である。


「さあ生地を踏みましょう、ビニールを二重にして入れて畳みながら踏みます」


「食べれるのはいつになるやら」


 まあでもミナミが楽しそうだからヨシとするか。


 繰り返し踏んだ後ミナミにバトンタッチし麺を切っていく。見事な均等さだ、いつでもラーメン屋さんになれるぞ。今回はストレートの中太めん、切り終わるが早いかサッと茹で始める、既にミナミ自慢のしょうゆスープや具材は揃っているので茹で終わるのを待つのみだ。


「やーっと食べれるな、始めてから四時間くらいかかってるし」


「空腹は最高のスパイスですよ」


「そりゃそうだけどさあ」


 絶食させりゃあなんでも美味くなるだろ。



 三分ほど経った、ざるにあげて水切りをしている間ミナミが丼にスープを入れる。滑らせるように麺を、軽く箸でほぐし圧力鍋で作ったチャーシュー、味付け卵、ねぎに海苔を乗せて完成だ。ふんわりとしょうゆのいい香りが漂ってくる。


「おーめっちゃうまそ」


「王道ですね」


 さっさと居間に持っていき二人で手を合わせていただきます。


 まず自分は麺からだ。もう一度箸で軽くほぐし一口大に取り、そのまま一息にすする。出来たてなので火傷しかけるがふうふうと息をつき口の中で覚ましつつ味わう、麺に運ばれてきたしょうゆベースのしっかりとした味がまず、次にじんわりと舌に残るトゲのない煮干しの旨み、濃いめではあるがラーメンのスープはこれくらいが好みだ。


 続いて麺、噛めば歯をしっかり押し返してくる。何重にも畳んで踏んだだけはあり心地よいコシと弾力だ。が、ある程度噛み進めると中心でぷっつりと切れるのだ。この感覚は打ち立て、茹でたてならではの楽しさなのだろうと、苦労した甲斐があったなと、心から思いつつ一心不乱にすすり始める。


 三分の二ほどまで食べた、ここでトッピングの力を借り気分転換と行こう。まず即席の圧力鍋チャーシュー、しょうゆ味のスープに合わせこちらもしょうゆベース、酒にみりん、砂糖とこれまた王道の味付けに短時間ながらも柔らかく仕上がっておりこれだけで一つの優秀なおかずになるであろう素晴らしい一品となっている。口に肉の油が残ったまま麺をひとすすり、スープも含めばもう口の中はパラダイス。


 さあさあだがしかし、ちょっと口の中が油っぽくなってしまったな。そう来たらねぎの出番さ、蓮華にねぎを乗せ麺も一口分入れる。スープを流し入れ一緒くたに一口。今までの麺やチャーシューの食感とは一転、シャキッとしたフレッシュな感覚に快感を覚えまた麺を食べ続けたくなってしまう。カレーライスの福神漬けのような役割を果たしてくれるねぎにはもう足を向けて眠れないな。


 おお忘れていた、卵がいるじゃないか。チャーシューほど存在感はなくいつの間にか下の方まで潜んでしまう味付け卵、お前も美味しく食べてやろう。こちらもゆで卵をしょうゆだしに浸し冷蔵庫に入れておいた物だ、少し時間が足りなかったかもしれないが致し方あるまい。


 さあ卵の食べ方には様々な流派がある、そのまま齧る派、スープに黄身を溶かす派、一口派などがあるのだが自分はもちろん一口派。マイルドな卵の味と絶妙な塩気、これも口に残したままスープをひとすすりすれば卵とスープの相乗効果が最大に楽しめるという寸法だ、ああたまらない。ちなみに小ライスを追加注文し煮卵を崩し乗せ、チャーシューやメンマをトッピングしてミニ丼にする派閥もいるぞ。意外といけるので是非お試しあれ。


 話が逸れたな、最後は海苔だ。何も難しいことは無い、海苔で麺を包み口に入れるだけ。香り高い磯の香りが今までのラーメンの香りを別次元に導き、最後まで新鮮な気持ちでいられるだろう。


 ひとしきり堪能し最後にスープをひとすすり、全部飲みきる猛者もいるが流石にそこは人それぞれ、麺が残ってない事を確認しごちそうさま。素晴らしい一時だった。


「ごちそうさま、いやあ苦労した甲斐あったな」


「ふふふ、当たり前です」


「双子のドヤ顔が感染ってるぞ」


 未だミナミはおぜうひんにつるつる麺を啜っている、ラーメン食べる時も絵になるやつも珍しい。



 

 忘れていたがコミケ騒動以前から夏休みである、手作りラーメンなんぞにうつつを抜かしていられるのもそのためだが課題も出なけりゃ目標もない夏休みというのも中々退屈なものだ。という訳で食べ終わったら途端にする事が無くなってしまう、ミナミも洗い物を済ませ俺の横で一緒にテレビを見ていた。只今の時間は午後三時、おやつにはもってこいの時間だ。


『おっひるやーすみはうっきうっきうぉっちー』


「これもう終わったやつじゃね?」


「新番組『ブランチッてごきげんよう、笑えよホラ。こうすんだよ!』ですって。ああほら、買い物しながらサイコロ振って出た内容の話をするらしいです。当たればスポンサーの洗剤詰め合わせが貰えるらしいですよ、司会は国民的なサングラスのお方で」


 ひどすぎる、あとその国民的グラサンはいい加減休ませてやれ。笑点の前師匠みたいになっちゃうぞ。


「……外行くか」


「あら珍しい」


「暇だしな、どっか行きたいところあるか?」


「そうですねえ」


「……」


「……」


 テレビではオーバーオールを着た太めの芸人がまいうーそうにラーメンを食べていた。


「ラーメン」


「うええ?さっき食べたじゃん」


「あんなの結局は素人の技です、本物を知っておかないと」


「おなかいっぱいだけど」


「歩いてれば少しは減るでしょうし一つをシェアすればいいじゃないですか」


 本気で言ってるのかこいつ。


「アホ、往来でそんなバカップルみたいな真似ができるか」


「人目がなければしてるんですか?」


「もちろん」


「くろうさんはそうやってコンスタントに押す割にはここぞでヘタレるので信用できません」


 そんな事ない。


「とりあえず出るか、ぷらぷらしてりゃいいもん見つかるだろ。ほら支度支度」


「はいはい」




「おまたせしました」


 肩まで伸ばしたセミロングをハーフアップにして黒いワンピース姿で出てきた、なんか地獄の少女ぽい。でもまあ。


「おう、似合ってるぞ」


「は!?」


「え?俺またなにか言っちゃいました?」


「すっとぼけないでください、何似合わないこと言ってるんですか」


「何が似合わないじゃ」

 

 くそう、俺の精一杯のちぎってはすてやがって。蠱惑に溺れし哀れな縁。夢か現か、光か影か。


「いっぺんしんでみる?」


「ごめんだ、よく知ってんなそんなセリフ」



 アホな会話をしつつ外へ、あっついなあ……


「かき氷でも食いに…」


「え?」

 

 ミナミの手にはいつの間には周辺のラーメン情報ブックが、勘弁してくれよミカ……


「行きますか」


「ハイ」


 ぽろろろん。ラーメンにはね、人生に大切なものがいっぱい…いや、こっちのミカじゃなかった。ああわかったよ!連れてきゃいいんだろ!いつもの都心駅までがたごと移動しぶらり途中下車、まぁーたぁー食べるんですかぁ?ミナミさあん?と脳内ナレーションをしながら歩いているとひとつのラーメン屋に着く。看板には『ラーメン遅漏』の文字、やかましいわ。外にはものすごい行列が。


「わあすごいです」


「なあここに並ぶの?」


「はい。いざ」


「もう行列はコミケで堪能したじゃんかあ」


「ほらほら、男の人が前に並んでください」


 ぐえー。


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