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自重を知らない忘却の姫  作者: てじ
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森で出会った少女が皇女であると知った翌朝、公爵家に隣接する訓練所にユリウスを含めた公爵家の騎士団員が集まっていた。

朝日が昇りかける早朝から日々の鍛錬が始まる。

それは団長であるユリウスも例外ではない。

入念なストレッチで身体をほぐし、軽いジョギングで身体を温める。

軽いジョギングと言っても、この広大な森を含めた屋敷を10周走らないといけないので、終わる頃には皆汗だくになっている。

ちなみに、数キロはする鎧を見に纏い走り込みを行う騎士団の姿はこのサイアス領では有名で、鎧の擦れる音や騎士団の掛け声などが住民の目覚まし代わりになっている。

起床と共に挨拶を交わし、走り込みが終わる頃には住民が差し入れをくれる。

これがこの街での、騎士と住民の在り方である。

他の領では勿論、王都でも見かけない騎士、ひいては公爵家と住民の繋がりだ。

今日もそんな朝を過ごし剣術、体術の鍛錬を行えば太陽はすでに頂点に座していた。


「そこまで」


ヒューバートが午前の訓練の終わりを告げる。

その合図と同時にほとんどの騎士が鎧を脱ぎ、昼食を取るために並立する食堂に向かう者や、街に食べに行く者と各々の好きに行動し始めた。

ヒューバート達も昼食のために食堂に向かう。

ユリウスは午後から行われる騎士志望者の試験の最終確認の為、自分の書斎に向かった。






「ヒューバート、結局森に居たあの子誰だか分からなかったのか?」


大盛りに盛られたカレーを食べながらダンはこの前あったアリシアの事を思い出していた。


「さーな」


「んーーーー坊ちゃんは知ってんのかな」


「さーな」


「先からさーなしか言ってねーじゃん!さては・・・・・ほんとは知ってんじゃねぇの?」


ダンが怪しむ様にヒューバートを見つめる。

カレーを食べる手を止めることなく。


「何も聞いてねーから俺に聞いても無駄だぞ」


そんなダンを気にすることなくヒューバートもカレーを口に運ぶ。


「またその話をしているのですか」


ダンの後ろからお盆を持ったセルラが話しかける。

わざわざヒューバートの隣まで移動し腰を下ろす。


「だって気になるじゃんか!転移魔法が使える上にそれをあそこで使っちまったんだぜ?どう考えても普通の女の子じゃねーよ」


「確かに普通の女の子ではないだろうな」


興奮気味のダンに抑揚のない声で返すヒューバート。


「だろー?」


「それはそうだけれど、ユリウス様が何も言ってこないのだから私たちがどうこう気にしたところで意味はないわ」


「それでも気になるもんは仕方ねーだろー」


「そんな事よりも午後の事を気にしなさいよ、あなたでしょ?候補生の相手役」


「あーーそういえば今日か」


「何を呑気に!」


「いやーーついうっかり忘れてたわ」


「っ!!ヒューバートさん!やはり今日の役名は私が行います!!」


悪びれる様子もなく言い放つダンに怒りを抑えきれないセルラが、ヒューバートに向かって言い放つ。


「またその話か」


「ユリウス様から任せられたお役名を忘れる様な人に務まると思いません!!今からでも私が代わりに行います!!」


「ちょっと忘れてただけだろ!いい加減諦めろよ!任されたのはお前じゃなく、お!れ!なんだよ!」


「不誠実な貴方では役不足だから私が代わりをしてあげると言っているのよ!」


「んだと!!」


今にも剣を抜いて喧嘩を始めそうな二人に思わず頭を抱える。


「はぁー、なんでそういつも喧嘩になるんだよお前ら」


呆れたヒューバートの言葉が聞こえていない二人はいまだに言い合っていた。

周りの騎士達もいつもの事だと素知らぬ顔でご飯を食べていた。

近くの者達はこれからのことを予期し徐々に徐々に席を離れ始めた。


「そんなに認められないなら勝負でどっちがするか決めてやるよ!!」


「ええいいわよ!!」


「いい加減にしろ!」


そんな言葉と共に鈍い音が響く。

とうとう剣を抜き始めた二人に飯を食べ終えたヒューバートの鉄剣が振り下ろされたのだ。


「っってぇ!!!!何すんだよヒューバート!!!」


言葉にならない声で頭を抱えるセルラと涙目でヒューバートを睨むダン。


「こんなとこで剣を抜くからだ馬鹿、セルラもいい加減諦めろ。こいつを教官役に決めたのは坊ちゃんだ、お前よりもこいつの方が向いていると判断の上での決定だ。全てを踏まえた上での決定に不満があるのであれば、こいつよりも強くなれ。今のお前らの実力ならダンの方が上だ。分かったか?」


勝ち誇った顔でこちらを見るダンに悔しげに睨む。


「だからと言って完全に上とは言ってないからな?ダン」


「!?」


「せいぜいどんぐりの背比べみたいなもんだ。差なんて少ししかねぇから油断してると負けちまうぞ」


先程とは打って変わり睨み合う二人。


「分かったら早く準備をすることだな、もうすぐ始まるぞ」


周りにいた他の騎士達は既に午後の準備に向けて食堂を後にしており、ヒューバートも既に食器類の返却を済ませており二人も慌てて準備を始めた。


その頃、政務室で軽食をとりつつ書類の処理をしていたユリウスは昨日のことを思い出していた。

正体不明の少女が公式ではないといえこの国皇女。

その事実に、無意識にため息が漏れる。


「そんなに難しい書類なの?」


「!?」


黒いローブを身に纏ったアリシアが書類を覗き込む様に目と鼻の先にいた。


「皇女殿下」


「アリシアで結構よ、挨拶も不要だから」


席を立とうとするユリウスを制しくすりと微笑む。

周りを見渡す限り昨日会った者達はいない。


「お一人ですか」


「ええ」


思わずため息が出る。


「心配しなくても大丈夫よ?後で来るから」


「・・・・ところで今日はどうされたのですか」


「面白そうだから来ちゃった。はい、これ」


満面の笑みで渡してきたのは一枚の紙。

なんの変哲もない紙だが、ユリウスには見覚えのある紙だった。


「ご自分の身分をお忘れですか?」


「ええ勿論、正しく理解しているつもりよ?」


「では、この用紙はなんでしょう?」


「だから参加用紙よ」


悪びれるそ振りもなくさも当然の様に言い放つアリシアに、またため息が出る。


「皇女である貴方が一介の騎士になるなど聞いたことありませ」


そう、アリシアが持ってきたのはこの後行われる騎士試験の参加用紙。


「そうね〜私も聞いた事ないわ、でも前例が無いだけでなれないわけでは無いわ。そうでしょ?」


「なる必要がないと申しているのですが」


「でも、私の力は役に立つはずよ?」


悪戯に微笑む。


「実力があろうともわざわざ王族を危険に晒させる騎士がどこに居るんですか」


「本人が望んでするのだから気にしなくても良いのに。それにお兄様からも許可は取ってるの」


「殿下・・・・・」


「参加は決定事項だから諦め方が賢明よ。ここに来たのも先に話しておこうと思ってだしね。とりあえずこれは出したからまた後で会いましょう」


バイバイと言い残し消えたアリシア。

早速昨日の今日で振り回され始めるユリウスは、この後の展開を想像し頭を抱えたくなった。

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