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自重を知らない忘却の姫  作者: てじ
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「さっきもそうだが、君は魔法師か?」


鋭い目でアリシアを見つめる。


「確かに魔法は扱えるけど、魔法師では無いわ」


魔法師。

言葉の通りで魔法に長けた者で、戦闘は勿論治癒に魔道具の製作など幅広い分野で活躍する者達を指す。

ただ魔法を扱えれば皆が魔法師という訳ではない。

魔法師を名乗れるのは国の定めた規定をクリアし国に認められた者のみである。

主に学園に通い魔法を習得し卒業することで魔法師の試験を受ける資格を習得する。

それから実績を積み規定をクリアののち魔法師として認められる。

故に魔法師を名乗るものはある程度の年齢の者が多くアリシアのように年若い者が名乗ることはほぼ無いだろう。

例外を除けば。

それでもアリシアをそう思ったのは、いやそう思わざる終えなかったのはアリシアの使った魔法のせいだろう。

転移魔法は魔法師の中でも使える者が少ない高等魔法。

それも特別魔法に分類される習得が極めて難しい魔法なのである。


「転移が使えるだけでも異常なのに魔法師じゃないなんてあり得ない・・・・」


呆気にとられていたセルラの口から思わず漏れる。


「そうなの?転移なんてコツさえ掴めば簡単に使える魔法なのに、魔法師って案外レベルが低いのね」


「転移魔法が簡単って、んなわけないっすよ!あんたマジで何者なんすか??」


「さっきから言ってるじゃないただのアリシアよ?」


肩を竦めながら同じ言葉を繰り返す。


「君が何者なのかは追々調べよう、とりあえずついて来てもらおう」


「美味しいご飯が出るのよね?」


首を傾げ笑顔で問うアリシアにあぁと素っ気なく返事を返し、とりあえず屋敷の近くにある騎士の詰め所に連れて行く。

この森には危険だと分かっていても侵入する者達が多くいるため、尋問するための場所が作られている。

その一室に案内すれば、アリシアは大人しく指示に従い椅子に腰掛ける。

その際ダンには食事の手配とヒューバートには他の騎士と森の見張りを任せた。


「食事の手配はしておいた。話を再開しようか」


「ありがとう、約束だものね」


ユリウスと向かい合う形で聴取が始まる。

セルラはユリウスの後ろに控え、手は常に剣に添えていた。


「何度も問うが君は何者で、何故あんな場所にいた」


「何者と言われても魔法が使えるただのアリシアとしか言えないわ?目的も湖に行きたかったからよ」


(最初と一緒か・・・・)


「見た所平民だはないだろう、家名は持っていないのか」


「平民でないのは正解よ」


くすりと微笑む。


「でも貴族ではないわ」


まるで謎なぞのような回答。


「いい加減にしないと貴方、不敬罪で捕まるわよ」


ユリウスの後ろから睨みながらも森の中の時よりも落ち着いた声音で警告する。


「貴族でないのなら貴方は平民よ、貴族のそれも公爵家に対しその態度と言葉遣い、捕まっても文句は言えないわ」


そんな言葉を聞いてもアリシアは態度を変えず笑みを絶やさない。


「有難い忠告だけどそれは不可能よ?」


「何を言っているの?」


「自分よりも弱い者に捕まるほど馬鹿ではないもの」


その言葉に思わず剣を抜きかけたセルラをユリウスが止める。


「セルラ、勝手な発言は控えろ。抜刀の許可も出してないぞ」


「しかし!」


「君もあまり焚きつけないでくれ」


「事実は事実よ、強者か弱者か判断する目を養うのも騎士の務めだと思うけど?」


「なっ!?」


「君が何処の誰かはこの際不問にしよう、だがこれは答えてほしいい。どうやってあの森で魔法を使った」


これがユリウス達の中では一番の疑問だった。

あの森の特性上魔法の使用は不可能。

あの森、リデアの森は魔素の濃度が高い上に自然発生量が尋常じゃないくらい多く、この森に派生する全ての物に大小問わず魔素が宿る。

その為、ポーションの材料になる薬草や魔道具に用いられる鉱石が豊富な上に、強力な魔物が生まれやすく並の騎士や冒険者では歯が立たないこともしばしある。

また濃すぎる魔素は魔力の錬成を妨げる副作用がある為この森では魔法が使えないが、魔物は魔素溜りから生まれる為魔素のジャミングを受けず魔法が扱える。

魔法が使えるか否かで戦い方も強さも変わる。

ただの魔物なら魔法を使わずとも討伐は簡単だが、Bランク以上の魔物は魔法を使えるのが基本。

剣や弓だけで倒すには並大抵の力がなければ不可能だろう。

その為リデアの森は王家所有の上で、代々騎士を輩出してきたアルセーヌ公爵家に委託する形を取り管理させている。

そうする事で騎士以外の立ち入りを禁止し魔物の監視と貴重な素材の管理を行っている。

民の安全と市場の混乱、悪用を防ぐためだ。

そんな森でどう見ても人族である少女が、何故魔法を使えたのか。

たとえ魔道具を所持していてもジャミングが強すぎて魔道具の発動も不可能。

どう足掻いてもこの森で魔法は使えない。


「君の言い方から察すにあの森行くのは初めてではないのだろう。君が転移を使えるほど強いのも分かった。だが、あの森で魔法が使える理由が分からない」


「あーそれはね、認識に誤りがあるからよ」


「認識?」


「そう、あの森では魔法が使えないんじゃなく魔法が使いづらいだけ、使おうと思えば使えるのよ?」


どうゆう事だ。


「魔力の錬成が阻害される力が大きいだけでその力を上回る魔力を練れば魔法は使えるわ。貴方ならコツさえ掴めれば使えるはずだけど?」


そう言って目の前で大小違う二つの炎を灯す。


「!?」


「あーこの部屋、魔法が使えないように結界が張ってあるみたいだけど、この程度なら完全に魔法を封じるのは無理よ?力が弱すぎるもの」


そう言ってお構いなしに灯した炎について説明し始めた。


「この小さい炎が魔力で大きい炎が魔素だとするでしょ?いくら魔力を練ってもこの魔素の方が大き過ぎて魔力を食べちゃうのよ」


「逆に魔素よりも大きい魔力を練れば魔法が発動すると」


「正解」


アリシアはふぅと炎を消した。


「そんな事で魔法が発動するなんてあり得ない・・・・」


「実際そうなのよ」


「それは君が膨大な魔力を保有しているから出来る事だろう」


アリシアの身に付けているピアスに目をやる。

そこには見覚えのある鉱石が下がっていた。

透き通る紫に淡い緑や黄色が入り混じった、この森でしか取れない妖精石と呼ばれる鉱石だ。

見た所魔力を抑えるための魔道具だろう。


「それもあるけれど、ただ単に今までの魔法師がこれを理解する力がなかっただけよ。貴方よりも少ない魔力で使える者は使えるわ。きちんと魔力をコントロールできれば簡単よ。それよりも」


アリシアは窓の方を見た。


「貴方はここにいていいの?大分時間が経っているみたいだけど、貴方にとっても大事な日でしょ」


「出会った時も君は私を知っている様だったが、他にも色んな事に詳しそうだ」


「そう警戒しないでも大丈夫って言いたいけど無理な話よね」


自分で言ってくすくと笑う。

そんな時コンコンと扉をノックする音が響く。


「入れ」


食事を準備したメイドが入ってきた。

それと同時にアリシアは大きなため息をつき椅子から立ち上がり、ユリウスは剣を抜く。


「何者だ」


メイドの格好をした女性はユリウスの問いかけに無言で視線を返し、すぐアリシアの方に向かった。


「意外と早かったわねダイアナ」


「イレギュラーがあったおかげで」


そう言って再度ユリウスの方へ視線を向けた。


「アルセーヌ公爵令息様とお見受け致します、この度はうちのお嬢様がご迷惑をおかけし大変申し訳ございません」


そう言って頭を下げる。

言葉や行動は丁寧だがその瞳には何感情も篭っていなかった。

メイドの格好はしているが、ここにいる時点で只者でない事は確かだろう。


「迷惑はかけてないわよ?」


「余計な仕事を増やされたのは事実でしょう」


「それは・・・・そうね」


「分かられたのでしたら帰りますよ」


「しょうがないわね、お迎えの時間みたいだから帰るわ。聞きたい事は沢山あると思うけどまた今度ね」


「勝手に帰れるわけないでしょ!」


「そう遠くないうちにまた会えると思うわ。その時には貴方の質問にちゃんと答えられると思う」


「どう言う意味だ」


「その時がくれば分かるわ」


セルラの言葉は無視してバイバイとユリウスに手を振りながらアリシアとメイドは消えた、不思議な台詞を残し。


「ユリウス様!何故見逃されたのですか!!」


「転移を使われればどの道逃げられていた」


「しかし!」


「特に何か問題があったわけではない、諦めるしかないだろう。それに・・・」


彼女のあの雰囲気、あいつにどこか似ている。

そう思いながら王都にいる自分の友人であり忠誠を誓う1人の男を思い出していた。


「その時が来れば分かる、か」


王都のある方向を見つめ消えた少女の言葉を考える。

きっと今、自分が思い出した人物はアリシアと名乗った少女を知っているだろう。


「セルラ切り替えろ」


「・・・はい」


「あとルイスを書斎に呼んでおいてくれ」


「分かりました」


とりあえず報告を兼ねて連絡を取れば分かるだろう。

ユリウスはセルラが出ていったのを確認し、自分も部屋を出た。

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