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自重を知らない忘却の姫  作者: てじ
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雲ひとつ無い晴天の朝。

冬が終わり暖かな春の日差しが、この国の王太子即位式典を心地よく迎えていた。

特別な日のせいなのか何時もより早い時間に起きた少女は、青々と生茂る森の中にある湖で風を感じていた。


「ふふ、あなた達もお祝いしてくれるの?」


そう呟く少女の周りをいくつもの小さな光が浮遊しながら回っていた。

まるで戯れているように。


「この森はいつ来ても心地良いわねぇ、思わず長居しちゃった・・またダイアナに怒られちゃうかも。うふふ」


そう言って浮遊する光を撫でている少女は、とっても綺麗なプラチナストロベリーの髪だった。




その頃王宮の奥深くにあるある一室で自分の主人を起こしに来たダイアナと呼ばれる女性が、部屋の中に目的の人物がいない事に気付き大きなため息をつき、片方だけ付いているピアスをチリンと鳴らす。


(もう、またあの方は勝手にっ)


何度目になるか分からない捜索にダイアナは頭を抱えていた。


「はぁーー・・・またかお嬢は・・・・」


声が聞こえたかと思えば、背後から突如騎士団の格好をした男性が現れ、少し遅れてダイアナと変わらない位のマントに包まれた青年と、煌びやかな格好をした女性が何も無い場所から現れた。


「あらあらダイアナったらぁ、また眉間にシワ〜寄ってるわよ」


色香漂う妖艶な女性はダイアナの眉間のシワを人差し指で押していた。


「ヴィヴィ・・・そんな事はいいから・・・・スイ、探知出来る?」


眉間の指をどけ、最初に現れた青年スイを見た。

帰って来たのは無言のみ。

その答えはノー。

探知不能。


「シアちゃんの悪い癖ねぇ〜魔法を完全に遮断しちゃってる」


この世界には様々な魔法が存在する。

威力、規模の大きさにより初級魔法、中級魔法、級魔法。

さらにその上の超上級魔法などがある。

その中でもスイが使ったのは、魔力の波動を飛ばし人が宿す魔力を感知し何処にいるのか場所を探す中級魔法である。

この世界に存在するものは必ず魔力が宿る。

故にこの魔法を使えば簡単に見つけきれるのだが、ヴィヴィが言ったように魔法を遮断、つまり干渉されないように結界のようなものを張ると魔力を感知できなくなるため、探すのが困難になる。


「こりゃー早く探さねぇと今日は流石にやべぇぜ・・・なんつったて今日は皇子様の式典なんだろ?続々と色んな奴が集まってるぞ」


背後にいたグウェンという男性がその後ろにある扉を眺め、ヴィヴィは豊満な胸を寄せ困った顔で窓の外を眺めた。


「そうね、流石に今回は早く戻って来てもらわないと・・・・・見つかったら必ずお願いね」


そう言ってダイアナはピアスを指した。

それを合図にそれぞれが四方に散り、少女の捜索が始まった。




「あ、皆んな散った。今日は夕方まで保てば最高ってとこかな?」


自分の部屋に集まっていた気配がそれぞれに散った事を感じた少女は、くすくすと笑いながら空を眺めていた。

王宮のある王都から北に位置するこの森は、馬で片道2日はかかる距離にある。

魔法を使えば森の入り口まではすぐ来れるが、森の奥にあるこの湖は道を知った者でなければ、そう簡単には来れない。

何故ならこの森で生成される魔力が他の土地に比べ多く、その純度が高すぎるため魔法が阻害されてしまう。

そのため魔法の構成が難しく、この森では魔法が使えないのだ。


「誰が一番かな〜・・・皆んなは誰だと思う?」


その声に反応して周りを浮揚する光は、まるで話し合っているかのように楽しげに回っていた。

そうやって光と戯れ穏やかな時間を過ごした少女は、心地よい日差しに眠気が再発。

寝不足だったこともあり、少女は眠気に誘われるまま瞳を閉じた。

それからどれくらいたっただろうか。

妙な気配を感じ目を覚ました少女は、気づけば太陽はすでに真上の位置に登っていた。


「ふあぁ〜〜もうお昼頃かぁーーー・・・・寝過ぎたかな?」


寝る前まで周りにいた光達が居ないことに気づいた少女は、妙な気配を感じる方向を見つめた。


「こんな日に招かれざるお客さまね」


程なくして鳥たちが慌ただしく逃げてゆき、そして木の薙ぎ倒されるけたましい轟音が聞こえて来た。


「近いし面白そうだし、見に行ってみようかな・・・バレないでしょ」


能天気に欠伸をしながら音のする方に歩き出した。

歩き進めれば、さっき感じた気配がだんだん濃くなっていく。

それと共に金属の打つかる音と忙しなく飛び交う無数の人の声が聞こえてくる。


「さすがアルセーヌ騎士団ね」


近くの木に()()し近くで行われている戦闘を見下ろした。

鋭い牙と2メートルは超える体を持つ狼の姿をした魔物に、些か戦闘するには軽装の武装した者達が4人がかりで対峙していた。


「ヒューバート、少し下がれ、攻撃が来る!ダンはあんまり単体で動くな」


その中でも一番若い青年が指示を出しながら先陣を切って戦っていた。


「助かった」


「はいはーい」


ヒューバートと呼ばれた男性のいた場所に魔物が放った風の刃が大地を抉っていた。


「あれって確かアルセーヌ公爵の息子よね?式典には参加せずこっちに残ったの?()()()が許したのかしら?」


そんな事を考えているとアルセーヌ公爵の令息、ユリウスが対峙していた魔物を倒していた。


「さすが坊ちゃん!やる〜♪・・ぃって!?」


呑気に口笛を吹くのダンに隣に居た同い年ぐらいの女性の拳骨が炸裂していた。


「口の利き方に気を付けなさい!」


「何も殴る事ねぇじゃねーかセルラ!」


「そんな口を利く貴方が悪いのよ!」


「んだと〜」


「やめねぇか!」


言い合いを始めた2人にヒューバートの拳骨がお見舞いされる。


「戦闘中に気を抜くな2人とも」


「はい!」


「戦闘っつても、もう坊ちゃんが狩って終わっ・・・・・てねぇっすね」


ダンが言い終わる前に新たに同じ種類の魔物が同時に2体現れた。


「ふ〜ん実力は噂通りってとこかな?」


面白そうにユリウスを見つめる。


「気を引き締めてかかるぞ」


「「「はい(おう)」」」


再び始まった戦闘はそう時間がかかる事なくアルセーヌ騎士団の勝利で終わった。

周りは魔物が放った攻撃で地面は抉れ、木々は薙ぎ倒されていた。


(あの魔物ならレベルC +てところかな?魔法も使えないこの森で、2匹を同時に相手をして怪我も無し。暇潰しに見に来たけどいい見世物だったかも♪)


「しっかし魔物ももう少し空気を読んでほしっすねー」


「貴方の言葉に同意をするのは不本意だけど、確かにその通りね」


セルラは眉間にしわを寄せながらダンの言葉に頷いた。


「仕方ないさ、魔物は本能で生きている。人間様の事情なんか考えちゃくれんよ」


「そうなんすけど、殿下の王太子式典なんて人生に一度なすよ?殿下の右腕である坊ちゃんが出席しないなんて馬鹿な奴らのいいネタでっせ」


「公爵家がどれほどこの国に貢献しているのか馬鹿の脳味噌には理解出来ないのよ」


「お前ら、外ではその口気を付けろよ」


「この馬鹿と一緒にしないで下さい」


「んだと!」


「お前ら・・・・はぁー」


また言い合いを始めた2人に呆れるヒューバートは思わずため息をついた。

一方、そんな2人を気にせず淡々と仕留めた魔物をロープで括るユリウス。


「ふふ」


そんな4人の姿に思わず笑みが溢れる少女。

その声にユリウスは剣に手をかけ上を見上げた。

遅れて残りの3人もユリウスの目線の先を見つめる。

不意にユリウスと目が合ってしまった。


「あ、バレちゃった」


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