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ナターシャの家で

はい、2話目。何だか遅くなりました。すみません。

 …何だかあったかい。今まで一度しか感じたことの無い温もり。まるで、昔生きていた母さんみたいなーーー


「はっ!」


 全身に伝わる柔らかな感触で目が覚めた。何だか温かい夢を見ていたみたいだ。うん?てか僕の上に誰か乗ってない?


「あ、ごめん。起こしちゃったね。体調はどう?」


 知らない赤髪の女の子だった。てか何で乗ってたんだろう?


「体調は大丈夫だよ。それより、ここは何処?君は誰?どうして乗ってたの?」

「一つずつ答えさせて。ここは、私の師匠様のお家。師匠様は後で来てくれるわよ。で、私はスティリーナ。周りからはスティ、って呼ばれてるから、スティでいいわ。最後に何で乗ってたかなんだけど、ちょっと君の看病をしてる間に寝ちゃって…。ごめんね?」


 全部思い出した。僕があの御守り(アミュレット)を盗られそうになった時、何故か魔法が使えて…。うん?御守り?


「あ、父さんの御守り(アミュレット)は!?」

「あの万年氷みたいなのがついた御守りの事?それならそこに置いてあるわよ。無くさないように、って言われたから」


 彼女が指差した先には、しっかりとあの父の御守り(アミュレット)が置いてあった。良かった。残っていて。


 ホッと息を吐く。


「それにしても凄いわね、あの氷。ずっと置いてあるのに溶けないし、見た目も綺麗に作られているし。大切にするのも分かるわ。」

「まぁ、その御守りは父の形見だからね。何よりも大切なものなんだ。」

「形見…って貴方のお父さんは…」

「その事については私から話そう。」


 部屋の扉を開けて、気を失う直前にナターシャと名乗った女性が入って来た。あの時と違って、今は普段着だったが。


「リオン君。君には悪いが、少し魔法を使って君の過去を覗かせて貰った。」


 ナターシャさんは近寄って来て僕を抱きしめてきた。


「辛かったろう、苦しかったろう。両親は亡くなって、一人で孤独に暮らして。短い間だったが奴隷として扱われ、唯一の形見すら奪われかけた。それがどんなに辛いことか。理解した、とは言わない。けれど、君が望んでくれるなら、私たちがここで君を受け入れようと思っている。どうだろうか。ここで()()()暮らしてくれるか?」


 ナターシャさんは酷く優しげな表情で問い掛けて来た。また誰かと一緒に暮らすことが出来る?奴隷商たちとは違って、根から優しい人たちと暮らせるなんて…!


「はい!これからよろしくお願いします!」


 何だか久しぶりに笑った気がする。心が暖かくなった。どうしてだろう、初対面だったのに、この人達と出会えて本当に良かった、と思えた。


---------


 グーギュルギュルー


 あぁ、そういえばしばらく食べ物を全然食べていなかったから、お腹空いたなぁ。


「ははは、お腹が空いているのなら丁度いい。これから夕飯のつもりだ。たっぷりと食べてくれ。」

「今日はお師匠様が作ったのよ!だからちゃんと食べてよね!」


 笑うナターシャさんと誇らしげなスティ。この人たちの輪に、自分も入れるかな。


---------


「美味しい!やっぱり誰かの手作りの料理は美味しいです!他人の手料理なんていつぶりだろう…。」


 僕は、父さんが病気で倒れて以来食べていなかった他人の手料理を久々に食べて、感動のあまり涙を溢していた。


 料理って、こんなに美味しかったんだ…!


 ほかほかのホワイトシチューを口に入れながら切実に思った。温かい料理っていうのも久しぶりな気がする。


「美味しかったのなら私としても嬉しい限りだ。まさか涙を流しながら喜んでくれるとはな。そんなに人恋しかったんだな。」

「本当に久しぶりに食べました。何だかあらゆることが久しいです。誰かとちゃんと会話するのも、食卓をみんなで囲むのも、笑うのも。全て失っていた気がします。」


 親が亡くなったショックは忘れもしないだろう。でも、ナターシャさんに助けてもらってからは、世界は色を取り戻して、意味のあるものに思える。だからこそ、この御守り(アミュレット)を大事にしよう、とより一層強く思うのだった。


---------


 夕飯を食べ終えてから気付いたことがある。僕って今めちゃくちゃ汚いのでは?


 見た目は完全にぼろぼろだし、そんな状態でベッドを借りていたと思うと罪悪感に苛まれそうになる。


「すみません、お風呂、ってありますか?無くても、体を洗えるお湯なんかがあると嬉しいんですけど…」

「風呂はあるぞ。そこの廊下の角を左だ。」

「ありがとうございます。」


 いつの間にか用意して貰っていた着替えとタオルを持って風呂場へ。てかこのお家大きくない?屋敷って呼んでも差し支えないような気がする。そうなれば風呂は当然…


「お風呂大きすぎじゃない!?」


 浴室に入った第一声がそれだ。感動で忘れ掛けていたが、元貧民にこの広さの浴室は凄く違和感だ。申し訳ないとすら感じる。

 だって僕汚いし。


 タオルも使って全身の汚れを落として行く。ずっと念入りに洗えていなかったので、全身をくまなく洗う。特に髪の毛、なんか色がくすんでいたのでもうすっごく洗った。


 なんやかんやで30分近く洗い、自分の体を見下ろす。日をあまり浴びていなかったので本来の肌は真っ白だった。


「もう大丈夫かな。」


 という事で湯船に浸からせて貰う。


「そういえば、湯船に入ったのはこれが初めてかも」


 そういえば家に住んでた頃は濡らした布で体を拭く程度だったから、湯船に浸かるのは新鮮だった。すっごくあったかい。


 あまりの心地よさにすっかり長く浸かっていた。


---------


 風呂から上がって浴室を出る。脱衣所に置いておいた服に袖を通し、ズボンを履く。ちなみにこの服は、昔住んでいたナターシャさんの弟子さんが使っていたものらしい。これは所謂寝巻きって奴だ。


 というか、寝巻き自体が貧民には馴染みが無いので、何だか不思議な感じだった。寝る時に別の服を着る、って贅沢だよねぇ。


 着替えを終えて脱衣所を出ようとした時。脱衣所にあった鏡に目がいった。鏡って見たこと無かったなあ、と思って正面に立つ。


「え、誰?」


 そこに写っていたのは、綺麗な青い髪に白い肌。身体の線は細い子が映っていた。これを思ってから自分だと気付いて恥ずかしくなった。


 え、僕の髪ってこんなに青かったの!?


 正直ここに来てから一番びっくりしてる気がする。あんなに汚かったのに、洗うだけでこんなになるなんて!


 驚きを隠せずにその場に立ち尽くしていると、外から声が掛けられた。


「リオンくん、まだいる?入ってもいーい?」

「スティさん?入ってどうぞ。」

「じゃあ入るね」


 脱衣所のドアを開けて入ってきたスティさんは僕を見るなり、ピシリ、と音を立てそうな感じで固まった。


「本当にあなた、リオンくんよね。」

「はい、そうですよ。リオンです。」

「えーー!!どうして風呂に入るだけでそこまで綺麗になるの!?失礼だけど、もっとくすんだ感じの青色の髪だと思ってたの。」

「僕も今驚いているところで。こんな色だったんだ、って」

「へぇー、すごく綺麗だね。あ、ねえねえ。リオンくんって、今何歳なの?」

「僕は…多分8歳だと思うけど…」

「同い年じゃない!だったら仲良くしましょ。私はさん付けじゃなくて、スティ、って呼んで。だから、私もリオン、って呼んでもいい?あと、言葉遣いも丁寧じゃなくていいから!」

「分かったよ。これからよろしくね、スティ。」


 そういうと彼女はとびっきりに微笑んで。


「うん!よろしくね、リオン!」




 それから彼女と別れてナターシャさんの部屋へ向かう。風呂から上がったら来て欲しい、と言われていたのだ。


「すみません、リオンです。入ってもいいですか?」

「遅かったな。入っていいぞ。」


 ドアを開けて中へ。ナターシャさんを見ると、スティと同じように固まっていた。


「なぁ、お前リオンだよな。」

「はい、リオンです。風呂で洗ってたらこうなりました…」

「羨ましいよ、その髪が。凄く綺麗じゃないか。」

「ありがとうございます。ナターシャさんも綺麗ですよ!ところで、どうして呼んだんですか?」

「そう言ってくれると嬉しい。で、何で呼んだか何だけど、

リオンが泊まる部屋を教えておこうと思ってだな。その前に一つ聞きたいことがある。どうしてその歳でそんなに流暢な敬語が話せるんだ?」

「えっと、それは…。父さんが自警団の仕事をしていた時に、門番の人に教えて貰いました。冬は家に一人じゃ危ないですからね。」


 村に住んでた頃、父さんが自警団の仕事をしている間に、冬は一人で家にいるのは薪や油が勿体無いし、危なかった。なので、門のところにある会議室みたいな所にいた時に門番さんに交代の合間に教えてもらったのだ。


「なるほどなぁ。スティにも見習って欲しいな。では、案内しよう。ついて来てくれ。」


 ナターシャさんについて歩いていく。僕の部屋は、中心の広間の横の廊下に面した部屋だった。なんでも、昔住んでた弟子さんのお部屋だったそうで。前弟子さんのお世話になってる気がする。ありがとうございます。


「だから、家具とかはもう揃えてある。その部屋を自由に使ってくれ。」

「わあ、こんなに広い部屋は初めてです!ありがとうございます!」


 窓際にはベッドが置いてある。窓からの景色は良さそうだ。ちなみに隣の部屋はスティの部屋だそう。


「今日は遅いから、寝てくれていいぞ。また、明日の朝に話があるから、朝食に早めに来てくれ。じゃあおやすみ。」

「はい、分かりました。おやすみなさい。」


 外は月が出ていて、庭には花壇が見えた。あの花は何ていう名前だろう。


 ふかふかのベッドの中、眠気はすぐに来て、早く眠りにつくことが出来た。今晩の月明かりはとても心地良かった。







少しでもおもしろそうだと感じて頂けたら、

ブックマークや評価、感想をよろしくお願いします。

作者は狂喜乱舞します。

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