いざ、世界をビルドする。
システム『世界樹シスターブレス』を長ーい目で見ていた天上院姫はあることに気が付いた。
「おいおいマジかよ……」
「どしたの?」
咲が呆けながら声を返す。
「プレイヤーの皆まともなの食ってねぇ……。天然水・お茶・熊・兎・鳥・牛・蟹・酒……桃・リンゴ・氷、仕舞には馬の心臓や亀食ってる……」
「なんで?」
「世界樹がそれ以外生成してないからじゃないかなあ。まともなの食えよ……米とかパンとか、野菜とか……花と金はあるけど」
「……それってさあ、無いから食べれないんじゃないの?」
「……」
ぐうの音も出ない本人。
「まあ、MRゲーム機は《テンジョウ》に決めちゃったけどさあ、食べ物って観点からすると。空中には何も食べ物ないよね」
少なくとも人間にとっては、である。
「どうすればいいと思う? アカウント名、農林水サンで何とかなったと思ってたが、視野が広すぎた」
「……ゲーム内の街の名前を食べ物にしたら? 遊ぶ公園名をとりあえず食べ物にしといたら、定期的に名前出て生成してくれるし」
「じゃあ、雲の王国ピュリアはどうしようも無いとして。始まりの街ライデンは名前変えよう。電気食ってどうすんねん」
「愛着もないしね」
「コメとパン。どっちがいい? ジャガイモは日本圏内だとおやつだし……」
「じゃあ無難にコメでしょうね。愛着がある米なら『コシヒカリ』」
「賛成、それだな。幸い、地熱や火と水には困ってない」
「サバイバルかな?」
ココ、ツッコむところである。「久しぶりに腹一杯食えるまともな飯だあー!」とかどこかで聞こえてきそうな気がした。
「水田とかあって豊なんだろうねえ~」
皆が拠点とする、はじまりの街は。初心者に優しくなくてはいけない。大陸一番の米の生産地にしても良いくらいだ。でなきゃ皆、まず食べ物で困ってしまって冒険どころではない。
天上院姫が世界をフカンするかのように『世界樹シスターブレス』の羅列を観て思った事を口に出す。
「妙に動物が殺されると思ったらソコか……」
皆、生きるために必死なのである。だが、天然大自然の化身はそれに気づかなかった。
とりあえず、『ワードスピリット・オンライン』の始まりの街の名前は『コシヒカリ』に決まった。
「あとはこれでオッケイ、決定っと」
とりあえずゲームマスター天上院姫は、《はじまりの街の主食はコメで、お腹いっぱい食べれる。》と新たな理を打ち込んだ。
◆
「作業進んだ?」
「あっはっは! 進まなかった! やっぱプレイしながらないと机上の空論で何も進展しないや。一緒に作ろうなのじゃ!」
「……はあ~」
そんなこんなで天上院姉妹の家の外の庭から物語は始まる。
「さて、MRゲームを今からやるわけだけど? 出来上がったの?」
「……結局行き当たりばったりかよ……ま、いいや。じゃあ付けるね」
そしてメガネの右上、目の上のエッジあたりにある小さなボタンを押して。PCを起動するように動作が開始する。
▼ワードスピリット・オンラインへようこそ。
メガネの向こう側の視野から広がる世界は。現実世界と拡張現実の複合体。一部がポリゴンで、一部が現実空間だった。実際の土と太陽と空。それと専用の1本の棒みたいなコントローラ機材を手に取って持つ。右手でも左手でも、どちらでも持てるようなボタン構成。
ひと昔前だと、両手二本のコントローラーで操作していたのだが。メガネの向こう側の画面には、無手でスマートホンを操作するように素手でウインドウをタップして操作可能である。
コントローラーは、ゲームが始まると剣になったり、魔法の杖になったり。多種多様の実感が手に入るからある。いってみれば保険である。
「ふむ、ここがゲームと現実の複合世界かあ~。感じ的にはポ〇モンGOなわけだね」
体は寝ていない、重力に支配されて自分の足で立っており。服装は私服のまま。ただし、今は服装をデフォルト設定にしているので表示されないだけで。専用の素材があればポリゴンを纏い変更可能である。ただしメガネを外せば私服が露見するわけだが。そんなに服装に興味が無ければ私服のままプレイするプレイヤーもいるかもしれない。
ゲームマスター、天上院姫が感想を呟く。
「マジで前人未到の領域だな。頭ではイメージ出来るけど、言葉にすると難しい」
「ま、先駆者の苦労だわね」
メガネの重さは普通のメガネと同じか、少し重いくらいで、首を左右にふっても違和感はさほどなかった。
「このゲームさ、皆メガネかけるの?」
「そうじゃな、メガネ屋さんと協力して作ったから。メガネ屋さんが儲かってる」
そこはメガネ屋さんじゃなくてゲーム屋さんが儲かったほうが良いのではないだろうか? とは思ったが、ハード機が売れない事にはゲームは遊べないので。あながち間違ってはいない。
仕切り直しで、とりあえず家の庭周辺を歩き回る。グー〇ルと協力しているのか。現実世界の葉っぱに、ポリゴンを乗っけて。ただの葉っぱが虹色の葉っぱに様変わりしている。
「WSOは、ハイファンタジーのゲームだから世界観はファンタジーて統一してるの?」
「うぬ、テストプレイ中なので。射程範囲は神奈川県全域のみ。まだ全日本版じゃないのだ。最終的には全世界のデータを取ったり色々しなくちゃいけないが。まずは公園などの一部公共施設をゲーム世界と同調させてやっている」
庭の外を見ると、一般人が普通に歩いているのがみえる。本当に普通だ。
対する同じようにメガネ型ゲーム機を付けている天上院姫のほうを観ると。頭の上のアイコンに《農林水サン》と彼女のプレイヤーネームが浮いて表示されている。
見た目が変わったのはお庭の背景のみ。道路の向こう側を視野を伸ばして遠くを見ると、そこにはただの現実世界が広がっていた。
「半径25メートルがデジタル処理されるようになっとるのじゃ、全部ポリゴン化すると容量を食って重くなるからな。ちなみに25メートルは、水泳の片道分ぐらいの長さじゃ」
ナイス解説です農林水サンさん。
「ふーん、じゃあ散歩ついでに歩いて。モンスターを狩って家に帰って終わり。という感じなのね」
「フルダイブ型違うデメリットは、自分の行動範囲内でしか遊べないって事だろうな。歩ける範囲、自転車の範囲、車の範囲、電車の範囲。今までの無限に冒険じゃなくて。本物の自分家が冒険の拠点になるのが、ある意味ネックじゃ」
「と言うことは遠くに行くことは出来ないわけね」
「そうなんだよなあ、そこをどうするかで悩んでる」
「フィールドが変わるとかは?」
「現実世界の自然と建物に依存するから、中々上手くいかないんだよな。それは今後考える。んで、ここからが本題だ」
「ん?」
「ここまではAR、拡張現実で出来る範囲じゃからな。MRゲームの最大の特徴は【念じただけでポリゴンが動く】だから」
つまり、現実世界の咲は飛べないが。念ポリゴンは空を飛べることを意味する。
「メガネ右側のボタンを3回押してみな」
「こう?」
姉に言われたようにポチポチを米粒ほどの小さなボタンを押すと。今度はMRの画面になった。
ボタンを1回押すと、仮想空間のVRに。
ボタンを2回押すと、拡張空間のARに。
ボタンを3回押すと、複合空間のMRに切り替わる。
すると、テスト用の折り鶴が出現した。
「手は何もしないで、念じながら動かしてみな」
「なるほど、……ムムムム」
折り鶴がカクカクと前後左右上下に直線的に動いた、あとは念じながら折り鶴をグルングルン回しながら飛行させる。
「おお、できた」
コントローラーをちょちょいといじってみ、メガネに画面を映してみな。折り鶴視点の画面が観れるから。すると、右目の四分の1を占める画面に、青白いステータス画面と共に。折り鶴のカメラ機能が移りだした。
「あ、できた。これって前のゲームの【鷹の目】みたいね」
「鷹の目は偵察用じゃったが、今回は攻撃もしてくれる。折り鶴だからダメージゼロじゃけどな」
右手でコントローラーを持ち、左手は空中に移る画面をタッチし。歩けばポリゴン背景が揺らめく。NPCと思わしき人間が歩いていた、メガネを外すとその仮想データは消えるように見えなくなっていた。
「これが、新しいゲームの形かぁー」
天上院姫は、新しい刺激に大変満足していた。天上院姫が次のステップへ持ち込む。
「次はコンビニまで歩いてみようか」
「てくてく歩くとどうなる?」
「モンスタースライムがでてくる」
「なるほど……」
次は戦闘システムテストのようだった。
フルダイブ型VRゲーム総合掲示板 西暦2034年11月15日13時06分。
中級冒険者【あぁん!? はじまりの街で急におにぎりが出てきて一杯食べれるようになったぞ!?】
中級冒険者【NPCは喜んでるな、天の恵みだって】
中級冒険者【そりゃあ天からだろうよ……。存分に食べな】
初級冒険者【何でお前がいばってるんだよ……】
初級冒険者【水田も一気に増えたな、これは街が潤う。文字通りな意味で】
初級冒険者【恵みの雨じゃあ~、奉納じゃあ~】
あとがき
うわメガネつよい。
初めてのMRゲーム、概念世界を上手く制御することは可能なのだろうか?