間話 あと2手の詰め将棋
天上院姫と天上院咲は互いの盤上をみやる。咲が主人公のように、姫が悪役のように、その場を制する。
「とりあえずさあ、次やるときは早打ちやめて。誰も得しないよこんなの」
「まあ、そりゃそうなんだが。知っちゃった以上、新しさを求めるのは当然なわけで~」
「ダメ、プロットから練って」
色々言いたいことはあったが、昭和の政治家を愚弄するような指し手はもうこりごりだった。姫はその言葉に出さない言動に反省の色を示す。
「とわ言え、このゲームもあと2手で終わる。私の負けでな。あとは咲がどう駒を指すかで決まる」
「……、投了はしないの?」
「最後に王将をお前が奪うまで諦めんさ、それまでは思考は巡らせ続ける」
「問題は、この棋譜が決定稿になった時に【何が起きるか】よね」
「そう、そこが読めない……これだけの盤上の駒……。それぞれの思惑、止まらない時間、終わらない盤面。およそ12年ほどこう着状態だった盤面に終止符を打つとどうなるか……」
「私達2人だけでは解らないと」
「……」
「……、じゃあ善悪でこう動くって決めたら?」
「狭間はどうする?」
「どっちつかずはあとで混乱を招く、今回は白黒しっかりつけて。しっかり廻す。互いがその白黒背負ってその人生を歩む」
「なるほど、で? 勝敗が決したあとの戦利品はどうする」
「よくわかんないけど、割り勘した200円のアイスを勝った方が手に入れる。ってことにしときましょう」
「ということは、私は100円失って。咲にアイスを食べられるのは確定か……」
「結果じゃなくて【過程】が重要なんでしょ?」
「……、そうじゃった……。今後こんな変な盤面はやめてほしいな」
「それはお姉ちゃんの無意識でしょ、なら誓って」
「何を?」
「公開は公開に、非公開は非公開に。パソコンはパソコンに。因果とか螺旋とか関係なしに、してちょうだい」
「それは、誰も知る必要はないと捉えられるぞ?」
「ならそれは、別のジャンルでやってちょうだい」
「……わかった【リバース】を私の意思であるべき姿に戻す。この棋譜はネット公開して良いんだな?」
「いいよ、最後の2手ぐらい。集中して考えさせて」
「おっけい。変換せずに、目は目に、公開は公開に。ただ、あるがままに元通りにする。それを誓う」
あと2手で決着がつく。その反動は想像もつかない。
咲が、次の駒を手に取り。天上まであげる、そこから天下させ盤面に差し込んだところで。
――パチリ。
世界は暗転した。