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DEAD INSIDE prologue  作者: 小池優馬
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第一章 集落の呪い

〜この物語は、工藤東弥とホープの運命が交わる少し前の、旅するホープの物語である〜




「アシュ!来いっ!」

ホープは愛馬であるアシュを呼び、跨ると、先ほどまで休憩していた自作キャンプを後にした。

(しまった…。水が尽きかけている…。予定ではあと2週間でナザム村に着く予定だが、この水の量では到底辿り着けんな…。気候が劇的に変化して気温が上昇したのが原因か。

あの日が近づいている…。

この近くに集落があったはずだが、何か手に入るやもしれん。)

ホープは汗を垂らしながら、地図に記された集落へ向かった。


集落へ着くと、そこで焚き火を囲み、何やら話し合っている人々を見つけた。

聞き耳を立てると、どうやら怪物に仲間を殺されたようだった。

「どうした?」

ホープが馬を降り、話し合う人々に顔を出した。

「ん?貴方は旅の人かな?すまんが今大事な話をしている。宿ならあっちにあるから、そこで待っていてください。」

人々の中の白髭を蓄えた老人がホープを遇う。

しかしホープはめげずに、人々に提案した。

「さっき話し声が聞こえたんだが、怪物とやらに困っているのか?食糧を提供してくれればなんとかしよう。」

すると、人々の中の意地悪そうな顔をした中年の男がキーキー声でホープを批判した。

「よそ者め!勝手なことを言うんじゃねえ!そんな怪しそうな鎧着たどこのどいつだか分からねえ馬の骨が、いったいこんな小さな集落になんのようだ!」

ホープは少しため息を吐くと、静かな声で対応した。

「いいのか?話を聞く限りでは人が殺されたんだろう?充分な食糧を貰えれば怪物も倒すしこの集落を出る。悪い話ではないだろう。」

中年の男は反論しようとしたが、白髭の老人が彼を宥め、ホープの提案に賛成した。

「いいでしょう。できる限りの協力はしましょう。報酬は充分な食糧で良いですね?しかし、協力の素振りを見せなければ、直ぐにこの集落から出て行ってもらいますよ。」

ホープはその交渉に賛成し、老人が提供した宿で昼食を済ませると、怪物についての聞き込みを開始した。

「私はアダム。貴方は?」

白髭の老人は名を名乗り、ホープに聞く。

「俺はホープだ。怪物と言っていたな。いったい何があった?具体的に教えてくれ。」

アダムは困った顔をしながらホープに答えた。

「私たちの集落はこの近くの森でヤスィカという小型の魔物を狩り、生計を立てています。しかし最近は、狩りに出かけた狩人達が帰って来ないのです。もちろん捜索しましたが、もぬけの殻で、死体すらも存在しません。痕跡が少しもないのです。なのに次々と人が消えていき、私たちの手に余っていたのです。」

ホープはその奇怪な現象に不思議に感じていた。

「なぜそれが怪物の仕業だと思ったんだ?」

「昔からの古い言い伝えですよ。この森には人を喰らう怪物が住み、この森を汚した者はその怪物の呪いにより殺されると…。」

今度はホープは狩人について聞いた。

「それで、消えた狩人達の特徴や、生活習慣などは分かるか?」

ホープが聞くと、アダムは一人の女性を指差して言った。

「彼女が消えた狩人の一人、ジャンの妻です。彼女に聞けば大体は分かるでしょう。」

ホープはアダムに礼を言うと、その女性に声をかけた。

「突然すまない。消えた狩人の奥さんと聞いたんだが、何か知っているか?」

女性は泣きそうな顔でホープに訴えた。

「一昨日の朝、ジャンは消えた仲間達を捜索に出かけたんです。どうして私の夫が消えなくてはならないんですか!?…どうして…?」

ホープはその女性の話に少し違和感を覚えた。

「すまないが、捜索に出かけた者達って他に誰が居るんだ?」

ホープは女性に聞くと、泣きそうな顔が困った顔に変わった。

「捜索に出かけた人々は皆戻って来ませんでした。皆消えてしまったんです。」

「そうか。協力に感謝する。」

ホープは女性と話し終えると、意地悪そうな顔をした中年の男に声をかけた。

「すまないが、捜索に出かけた時の様子について教えてくれ。」

「ああ?気安く話しかけんなよ、よそ者風情が!チッ、爺さんも老いたもんだぜ。こんな奴に助けを求めるなんてよ。」

「無駄話をしている余裕は無い。教える気が無いなら他をあたる。」

「あーあ分かったよ。一昨日に捜索に出かけたのは、俺と爺さんと、ジョッシュだ。途中、ジョッシュの姿を見失って、一度爺さんと二人で集落に戻って来たが、ジョッシュはやはり帰って来なかった。あいつも消えちまったのかもな。」

ホープはその話を聞き、ある事に気がついた。

「…もしかして、消えた人々は皆男なのか?」

「ん?まあそうだな。そもそも狩りをする奴に女はいねえ。それがどうかしたのか?」

「…いや、少し気になっただけだ。」

「ならさっさとこの異変を解決してくれよ。よそ者さんよ。」

「言われなくともそうするさ。」

中年の男と話を終えたホープは、これまでの話を聞いて確信する。

(森で消えるのは皆男…。さっきの女性との話の食い違い…。偶然ではない。これはまさか…。)

ホープは先ほどのジャンの妻である女性を探したが、姿が消えていた。

ホープはついに狩人達が消えている森へ向かうと、ある仮説を基に、その痕跡を探した。

すると、森の中にある大木から生えている枝が不自然に折れているのを発見したホープはその木の付近を散策すると、雑草が所々踏み潰された様に倒れている事に気がついた。

(まだこの痕跡は新しい…。俺の見立てでは奴だろうな。)

ホープはその倒れた雑草の痕跡を追うと、崖を無造作に掘り出したかのような洞窟を発見した。

中を覗くと、顔面が蒼白になった、狩人であろう男達が倒れていた。

すると、背後に気配を感じたホープは、背中に提げていた剣を手に取り、即座に構え、振り向いた。

そこにいたのはジャンの妻その人であった。

「…やはりな。何故男達が消えるのか、その謎の正体はお前か。すると、淫魔…サキュバスか。」

ホープが追求すると、ジャンの妻である女性は魔法を解き、真の姿を現した。

その姿は、羊の角を生やした美しい女性の裸体であった。

「あーら、わざわざ人気の無い私のアジトに誘き寄せられたのは貴方なのよ?まるでしてやったり顔だけど。まあいいわ、貴方も後ろの彼等みたいに、精気を吸い取り尽くされるか、虫ケラの様に喰い殺されるか選びなさい。」

淫魔は自信満々の顔でホープに詰め寄る。

「本物のジャンの妻はどうした。殺したのか?」

ホープが聞くと、淫魔は首を傾げる。

「あらぁ?私がその本物のジャンの妻なのよ?昔っから私はあの集落に居たの。男達を育て、最後に独り占めしようとしたけど、もう我慢の限界だったのよ。だからもう集落は用済み。戦力の男達は精力吸い尽くして、女共は皆殺しよ!」

淫魔がそう言った瞬間、左手の鋭い爪でホープの喉を掻き切ろうとした。

しかしホープは瞬時に身をかがめ攻撃を避けると、よろけた淫魔の左手を剣で切断した。

「ぎゃああああっ!!」

淫魔は血が吹き出す左腕の苦痛にのたうち回った。

「終わりだ!」

ホープは剣でトドメを刺そうとしたが、淫魔は人を凌駕する脚力でホープの顎を蹴り上げ、ホープがよろけた隙に逃亡を図った。

「逃すかっ!」

ホープがすぐさま淫魔を追うが、淫魔の脚力で距離がどんどん離れていった。

(くそっ、アシュは集落に置いてきてしまった。なんという逃げ足の速さだ。追いつけん。)

ホープが淫魔の追跡に難航していると、淫魔の周りに黒い霧の様なものが集まっているのが見えた。

(…なんだ?淫魔の力では無いが、あれは一体?)

すると黒い霧が淫魔を完全に覆い、淫魔が立ち止まった。

ホープが近くまで来ると、淫魔が苦しんでいる事に気がついた。

(この霧、呪いの一種か?強い魔力を感じるが…。)

淫魔は更に激しく苦しみ出し、周りの木や草を引っ掻き、毟りながら転げ回ると、しばらくして完全に動かなくなった。

そして黒い霧が淫魔から完全に離れ去っていった。

ホープが淫魔に近づき瞳孔を確認すると、完全に死亡していた。

(そうか、あの黒い霧は白髭の老人が言っていた森の怪物の呪いか。言い伝えなんかじゃない、本当に存在したんだな。だが今回の騒動の原因は、淫魔の方だった様だ。)

ホープは淫魔の角を切り取り、ポケットにしまうと、淫魔のアジトに戻った。

男達の動脈を確認すると、死んでいた者が大半だったが、一人だけ虫の息ながらも、生きている男が居た。

その男を抱え、集落に戻ると、集落の人々はホープの抱える男を見て騒然となった。

「おおホープさん!まさか貴方、消えた男達を見つけたのですか!」

白髭の老人が歓喜の目でホープを見上げた。

「ああ。だが生きていたのはコイツだけだ。」

老人は暗い顔で頷くと、ホープが抱えていた男を引き取り、若い男達がその男を手当てし始めた。

「それで、今回の騒動の原因は何か分かったのですか?」

老人がホープに聞く。

「淫魔の類、サキュバスだ。ジャンの妻である女性が正体だった。きっと狩人達を誘惑し、精気を死ぬまで吸い尽くしたのだろう。アジトの方角はこの羊皮紙に記しておいた。この角がその証拠だ。」

ホープがポケットから淫魔の角を手渡すと、老人は驚いた様に目を見開いた。

「なんと!貴方が連れてきた男こそがジャンですぞ!」

それにはホープも驚き、老人は話を続けた。

「そうか、あの女が元凶だったのか。

しかしホープさん、ジャンは深くその女を愛していました。その事を聞けば、彼は貴方になんと言うか…。ジャンが目を覚ます前に集落から出て行った方が良いでしょう。」

老人にホープも同意したが、ホープは言い忘れていた事を思い出した。

「そう言えば…淫魔を殺したのは俺ではなく森の呪いの仕業だろう。集落の森への信仰心が淫魔を死に追いやってくれた。俺一人では取り逃していたところだ。」

老人はそれを聞き、満足そうに微笑んだ。

「そうですかそうですか。貴方に森は味方してくださったのですね。これからの旅もどうか気をつけて。」

老人と話を済ませたホープは、約束通りの水と食糧を貰い受け、集落を出発した。

(もしや淫魔はジャンをわざと生かしていたのだろうか。いや、これ以上考える必要は無いだろう。)

ホープが空を見上げると、紅の夕焼けが顔を覗かせた。

その夕焼けに、ホープは微笑んだ。

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