スマホを落とした訳だけど
フワッと降ってきた電波がピピッと形を得てしまった感じのやつ。お収めください。
それに気付いたのは帰宅途中の駅だった。
いつもの様に改札から出るためにSugoicaを登録してあるスマホを取り出そうとして……胸ポケットに無い。
馬鹿な。腰ポケットにも尻ポケットにもないぞ。
カバンの中にもやっぱり無いな。入れたことないからな。
後ろの人に気を遣い、慌てて開札横に避難してから天を仰ぐ。
どこで落としたんだ?電車に乗る前は持っていた筈。
というか電車を降りる際に硬い板の感覚はあった筈。
電車内で居眠りしてしまったので、頭に多分とは付くが。
弱った。弱ったが仕方ない。
駅員さんに事情を説明して、その場で金を払って帰宅した。
それにしても今時は駅中でも公衆電話が存在しないもんだな……。
なんか近くのバス停横に電話ボックスが鎮座してるのは見るけど。
誰もいない六畳一間のアパートの一室。俺の家である。
とりあえずとパソコンを立ち上げて、スマホの位置情報サービスを開いた。
せいぜい盗まれてない事を願いながら現在位置を確認し……俺はひっくり返った。
ブラジル。
ブラジルて。
しかもブラジル沖合なんだが。そこ電波飛んでんの?
ハハァン地球の裏側まで落っこちちゃったんだなーハッハッハ。
「いやいやいやいやなんでじゃぁ!!!」
あり得ねえだろ!
盗まれたアイピョーンの存在地点がどういう訳か外国という畜生案件は何度か俺でも聞いたことがあるけど!
今回電車に乗るまでは間違いなく俺の懐にあったっつぅの!!
仮に盗まれてても移動時間足りる訳ねぇっつーのよ!!!
家の固定電話に手を伸ばし、まずは緊急遠隔ロック番号に手を、いや待った、とりあえずは自分の番号にかけてみよう。
prrrrrrrrrrrrrr
prrrrrrrrrrrrrr
prrrrrrrrrrrrrr
prrrfrrrrrrrrrr
prrrrrrryrrtrrr
pertrzrdrfrrgrz
「いや不気味な音するな!!!」
誰も出ないし音はなんか乱高下するし気持ち悪い!
そんなことある? 噂にも聞いたことない。
なんだか怖くなってきたよ俺。スマホ無くした不安感と別の怖さ出てきたわ。
切ろう、そして遠隔ロックしてスマホ屋に明日行って相談しよう、そうしよう。
「ひっ、なんか変わった!」
? ワッザ?
どこからの声? あれ、受話器? 人間の声?
「も、もしもし?」
「きゃああああああ喋ったああああああああ!!!」
宵の口 耳をつんざく 人の声 うーん25点。季語無し。才能ナシ。
破壊力のある叫び声に俺は現実逃避を選ぶのだった。
「つ、つまりアレね? この板は全然別のところにいる貴方の手元の魔道具と話が繋がる魔道具なのね?」
「魔道具って何です、スマホだって言ってるでしょう。日本語通じてるのに会話の通じ方が微妙。」
「この魔道具の名前はスマホね、分かったわ!」
「通じ方が微妙。」
で、ふと正面のパソコンモニタを見たところ、スマホの位置情報が南極になってるんですねぇ。はぁ? もうダメだねこれは。
「それでスマホのことを欠片も知らなかったあなたは何者です? スマホ知らない日本人が同じ電車に乗り合わせてたとは到底思えないし、流石に窃盗犯とは考えられませんが。」
「私? 私はアルティオン帝国第八皇女のソフィア! 皇女とは名ばかりのただの魔導士よ!」
「待って待って待て待て、待ってくれ情報の濁流に飲まれた」
どこ? 皇女? 魔導士? 第八てお盛ん過ぎん?
「えっ……アルティオン帝国が分からないってマジなの?」
「話して間もないような女性にモグリ扱いされた」
「あっいや、ごめんなさい、そうよね、こんな未知の魔道具が存在するんだもの、文化に隔たりが無いとおかしいわよね。それにこんな高度な道具、そちらの国はかなりの物なんだわ、よくわかんないけど」
「最後の一言が無ければなー!」
「……えへ? と、ところでそちらはなんという国なの? 今後の参考になるかもしれないし教えてほしいわ」
うっすら分かりかけてきた。
「うーん、まあ良いか。ここは日本っていう国だよ」
「ニホン! ニホンね、しかと覚えておくわね」
俺のスマホは、異世界転生……いや異世界転送? されたんだと。
「もしも私達の国の覇道に立ち塞がらないようなら、悪い様にはしないよう父様にちょっとだけ好印象伝えておくわ!」
「すごい怖い」
そして俺のスマホは、ろくでもない相手に拾われたのだと。
……まぁ異世界みたいだから関わることすらないやろ、風呂入ってくる。
俺は知らない。
異世界転生した俺のスマホはチートに進化していることを。
その力の一端で、電池が切れることも壊れることもない事を。
ソフィアがやたら電話かけてきて、つい絆されて色々教えることを。
やがて知識チートかましたソフィア皇女が、他の皇族を蹴散らしてテッペン取ることを。
スマホ謎の超パワーを使いこなした帝国が世界統一キメることを。
果てには帝国が領土ごと太平洋に現れることを。
俺は知らない。
俺のせいじゃない。
主人公
アイツってイイやつだよねってよく言われるが、そこが理由でいい思いをすることはあまり無い、そんな一般男性だった。
第八皇女ソフィア
継承権の低さから来る普通未満の貴族教育と、好きな魔法教育で育った皇女。
割と雑な口調に育ってしまったが被り物の猫は強靭なタイプ。
主人公には猫を被る予定は無い。
スマホ(と主人公)との出会いで運命が変わった。
奸雄。
スマホ
転生チートでステータスとかスキルとか凄いことになってるし称号は勇者。