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後藤くんと昼休みトーク

「ねぇ、後藤くん。ダブルヒロインもののゲームで片方のヒロイン選択したら、もう片方がヒロイン刺してから主人公を監禁してきて、もうひとりのヒロイン選択したら片方が無理心中を強要してくるゲームどう思う?」


「なにそれ、どうあがいてもバッドエンドじゃん。すげークソゲーだな、おい」


「ですよねー」


どうやら俺の常識は間違っていないらしい。

てっきりヤンデレが愛情表現の世界に知らず知らずのうちに転移してしまったかと思っていたのだが、常識が改変されているわけではないことを確認できて俺は安心していた。


…いや、実際は全然安心できないんだが。逆に麻宮双子がやべーやつだという証明されてしまったのだ。

俺の身が常に危険に晒されていることに変わりはない。思わず身震いしてしまう。


「お、なんだ。トイレ近いのか、さっさと行ってこいよ」


「後藤くんさ、デリカシーないってよく言われない?」


ちなみに今は昼休み。俺と後藤くんは机を合わせ、二人仲良く箸をつついて昼食を堪能している最中である。


タコさんウインナーを頬張りながらいうのだから、彼には配慮というものがない。

だから彼女がいないんだなと、俺は内心で後藤くんを(さげす)んだ。


「おい、人を見下した目で見るのをやめろ。お前が下に見れる人間なんぞこの学校にはいないんだぞ」


「え、なにそれどういうこと」


いつの間に俺はスクールカースト最下層に落ちたというんだ。

こう見えても俺の交友関係は幅広い。いじめられたことなんてこれまでないし、麻宮双子の情報をいろいろ融通もしてるからむしろ頼りにされているほうだと思う。



なにより俺はイケメンである。

イケメンは天賦の才であり、生まれつきの絶対強者そのもの。これはこの世の真理だ。

あの双子が俺を好いているのも、俺の顔面偏差値の高さが大いにモノを言っているはずである。


こればかりは親父に感謝せざるを得なかった。ありがとう、イケメン遺伝子を提供してくれたダディよ。

俺はあなたの生き方を反面教師にし、綺麗なハーレムを築いていく。

心の中で星になった父に、俺は誓った。


「麻宮双子から告白されたのに返事もせずにキープして、二股どころかハーレムを目論んでいるクズで女の敵ってもっぱらの噂だぞ。前々からの噂に加えてお前は完全にクズ野郎だというのが学校の総意だ」


「うぐぅ」


ぐうの音もでなかった。だからうぐぅって言った。たい焼き食べたい。

…それはともかく、反論の余地もないほど正確な噂が流れているようだ。


否定できる材料がなにもない。他人の口から聞かされると、確かに俺はどうしようもないほどクズであった。

イケメンであろうとも、内面が腐っているようではまともな女性は警戒して近づいてはこない。

情報は顔に勝る。俺の辞書に新たな格言が刻まれていた。


「し、知らなかった…通りでなんか最近女子から避けられてると…でも後藤くん、その噂を知っていながらなんで俺と一緒に…」


「ふっ…そんなの、俺に友達がいないからに決まってるだろ。お前がいないと俺がぼっちになるんだよ。体育の時間に組めるやつがいなくなっちまうだろうが。あとお前が女子から嫌われてるのは元からだぞ」


「後藤くん…!」


…友達、いなかったのかあ。そっかあ。

俺は彼に同情した。なにより堂々とぼっち宣言した後藤くんの姿は、普通にカッコ悪かった。

グッと親指まで立ててるあたり、彼からしたら決まった…くらいは思っているのだろう。


俺はボケることもツッコミを入れることもせず、彼の言葉に感銘を受けたフリをしてあげる道を選択したのだった。

やはり友人には優しくしてあげなければならない。

汝、隣人を愛せよの精神だ。俺は博愛主義者である。


あと、女子から嫌われているのはきっと嘘だと信じたい。




「それでさっきの話に戻るんだけどさ、バッドエンドを回避するためには二人を恋人にするハーレムルートしかないと思うんだよね」


「まぁそれが無難だわな。でもルート開放条件あるんじゃね?2周目じゃないといけないとか、バッドエンド全て見ないと開放されないとかさ。あ、パッチやDLCで後付けってのもあるよな」


「なんて恐ろしいことを言うんだ後藤くん」


後藤くんには人の心がないのか?とんでもないことをのたまいやがる。


俺にタイムリープや死に戻りをやれというのか。絶対嫌だぞ。

俺は小指をタンスにぶつけただけでナマハゲを初めて見た幼児なみに絶叫する男だ。


痛い思いなんてノーサンキュー。そういうのはテレビでポテチを片手にゲラゲラ笑って見るからいいものなのだ。

他人の不幸は蜜の味。自分が味わうなどと、天地がひっくり返っても嫌なものは嫌なのである。


「そのゲームは1周しかないんだよ…しかも攻略ブログだってないんだ。自力で生き残る道を見つけない限り、ハーレムルートにたどり着けないんだ」


「なんだその難易度ベリーハードのギャルゲー。ちょっと興味でたわ。今度貸してくれよ」


ドMの血が騒ぐのか、どこか興奮した口調で話しかけてくる後藤くん。

俺はその姿に苦笑した。やはり彼はノリがいい。


「その前に俺がクリアしたいんだ。攻略のためにアドバイスしてくれると助かるんだけど」


「よっしゃ、任せとけ!ギャルゲ歴5年の俺の知識を披露してやんよ」


「お、おう」


断じていばれることではなかった。小学生の頃から二次元の中の女の子としか触れ合ってこなかったのかと思うと、俺は後藤くんに対して同情を禁じえない。


恋愛どころかリアルの女性耐性ゼロとか正直頼りないと言わざるを得ないが、今は猫の手も借りたい状況である。

彼女いない歴16年の童貞だろうと、きっと俺の力になってくれることだろう。



同盟を誓い合った俺たちは、ガッチリと握手を交わすのだった。

ブクマありがとうございます

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