麻宮姉妹と直通ヤンデレバッドエンド
「とりあえず一回状況を整理させてもらってよろしいでしょうか?」
俺は痛む顎をさすりながら、双子に対して下手に出ていた。
神妙な顔をしながら頷く時雨と、涙ぐみながら鼻を抑える氷雨。第三者から見たら俺たちの状況はどう映るのだろうか。
やはり男が二股をかけ、それが発覚して問い詰められている浮気現場が濃厚か。
俺ならそう思うし、なんなら男に対して唾を吐きかけるだろう。
浮気など男の風上にも置けない愚劣な行為である。ハーレムを目指すものとしては許容できるものではない。
公園に戻ってきた親子連れの子供が、こちらを指差しなにかしら喋っているのが見て取れた。母親がそんな子供を叱って離れていくが、これはあれだな。
「ママー、なんであの人女の子泣かせてるのー?」「しっ、見ちゃいけません!」とかいうよくあるやつだ。まさかリアルで見ることができるとは。ちょっと嬉しい。
「えっと、とりあえず二人は俺が好き、付き合いたい。OK?」
「オッケーだよ」
「なんでカタコトなのかは知らんが、まぁ合ってるな」
ふむ、合ってるか。…やべぇ、改めて確認しちゃうとめっちゃ照れるやん…
俺は思わず顔を赤らめ、口元が釣り上がった。自然とにやけてしまう。
「おい朝日、その顔キモいぞ」
が、一瞬で真顔に戻った。時雨の言葉は辛辣すぎる。
気を取り直して次の質問を口にする。
「…で、俺はお前ら二人が好き、同時に付き合いたい、OK?」
「いや、駄目に決まってるだろう」
「朝日ちゃんふざけてんの?」
チッ、駄目か。流れでイケるかと思ったんだが。
二人は頑なに同時に付き合うことを許容してくれないようである。
「なぁ、なんで駄目なんだよ?俺は二人とも平等に愛せる自信があるんだぜ?」
「お前、さては開き直ってるな?女二人の前で号泣しといてその態度を取れるのはある意味称賛に値するが、諦めの悪い男は嫌われるぞ」
「まぁ私はそんな朝日ちゃんも大大大好きだけどね。でもねぇ、やっぱりダメなものはダメなんだよ」
ぐぬぬ。手強い。
…仕方ない、ここは少し違う方向から切り込んでみるか。
「現実的な問題とかそこらへんは一回棚に上げといてさ。そんなに同時に付き合うこと拒否する理由ってなんかあるの?」
「そりゃもちろん」
「決まってるじゃない」
俺の質問に対し、二人は同時にお互いをビシリと指さした。
「「こいつ(時雨ちゃん)が嫌いだから」」
「Oh…」
これ以上ないシンプルな答えだった。
思っていたよりこの二人の軋轢は根が深いものらしい。
「だいたいこいつは昔から気に食わなかったんだ。私の好物のチーズケーキを冷蔵庫に入れてたらいつも食べるんだぞ。代わりに有名どころの高級ケーキを買ってきたら、私が許すと思っているんだ。私はそんなにチョロい姉ではない。だがあれは美味かったから今度は私が買ってきてやろうかと思ってはいるが」
「時雨ちゃんったらひどいのよ。一緒に寝ようっていったらいつも先に寝ちゃうんだもの。私はもっと朝日ちゃんについて語りたいのに。しょうがないからほっぺたぷにーって引っ張ちゃうのに、寝つきが良くて起きないの。ひどい姉よね」
「普通に仲いいじゃねぇか」
思わずつっこんでしまった。
思っていたより軽い対立である。根が深かろうと簡単に引っこ抜けそうなものだった。
「はぁ、どこがだ?氷雨はひどいやつだぞ。こいつのいいところなんてせいぜい顔くらいだ。あとは結構気が利くし、料理は美味いし掃除洗濯含めた家事もできて…」
「そうよ。時雨ちゃんはからかうといい反応してくれるし、朝日ちゃんのことになるとすぐムキになるし、実は背筋をなぞるとかわいい声をあげてくれるくらいしかいいところが…」
「ごめん、ノロケ話は他でやってくれない?」
こいつら同族嫌悪なだけなんじゃないだろうか。
あと氷雨さん、その話はあとで詳しく聞かせていただきます。
しかし、これ…イケるんじゃないか?片方を選んだふりをしてさり気なくもう一人と関係を進めれば…双子ハーレムイケるんじゃね?
俺は新たな可能性の芽吹きを感じていた。
とりあえず同時に付き合うことはまだ無理そうだが、この調子なら案外簡単に懐柔できるかもしれない。
俺は内心のワクワクを隠しつつ、軽く咳払いをする。
「まぁ、二人の言い分は分かった。そこまで言うなら、俺もハーレムは諦めるよ…二人のどちらかと、誠意を持って付き合う。それでいいかな?」
「朝日…!や、やっと分かってくれたか…!」
「真面目な朝日ちゃん…アリね」
キリッと真面目なイケメンフェイスで話す俺に、時雨は感動し、氷雨は神妙な顔をして頷いていた。場はようやく収まりそうである。
とりあえずどちらと付き合おうか…顔は二人ともいいし、スタイルも同じだ。あとは好みの問題だな。ふむ、難しいところだ。
俺は普通にゲスいことを考えていた。贅沢な悩みだが、どちらも俺好みなのだ。
男なら仕方ない。誰に向けてかは分からないが、俺は言い訳を考えていた。
悩んでいるとふと気になる考えが浮かんできたので、ついでに聞いてみることにした。本当に軽い気持ちだった。えっちな動画サイトで続きを見たいために架空請求をクリックしてしまうくらいの気楽さで俺は聞いた。
「ちなみに俺が二人のどちらかを選んで、選ばれなかったほうはどうする?選ばれた方の仲を祝福してくれたりとか…」
「刺すわ」「心中する」
「…ふぇ?」
…パードゥン?なんかすっごい物騒な単語が聞こえてきた気がするんですけど?
「え、なんだって?俺、最近難聴症候群発症しちゃってさ。なんか攻略難易度ルナティックモードでバッドエンド直行みたいな発言聞こえてきた気がするようなしなかったような」
「時雨ちゃんを刺して、朝日ちゃんを一生監禁するわ」
ヒェッ…
「氷雨を選ぶなんて許さない。あいつが選ばれるなら私が選ばれてもおかしくないはずだ。いいから私を選べ。そうでなければ、私は来世に賭けてお前と心中する。氷雨には渡さん。お前には私がいればそれでいいんだ」
ふぇぇぇぇ…この双子、ハイライトが仕事してないよぅ…
思わぬところで俺は双子の闇の扉を開いてしまったようだった。
こいつはまずいと思った俺は、返事を保留させてもらい、今日まで至るのである。
とりあえずどちらを選ばなくてはならないだろう。日に日に争いが過激になっていくふたりに対し、俺の胃がこれ以上持ちそうにないという切実な理由があるからだ。
俺を取り合う美少女双子姉妹といえば聞こえがいいが、美人が般若の形相をすると本気で怖いということを知った今となっては、ラブコメ主人公を羨むことなどできそうにない。
だが、どちらかを選んだ時点で俺は文字通りバッドエンド直行。俺の胃が死ぬのが先か、生命体として終わるのが先かの二択である。どうしてこうなった…
ラブコメ時空と思いきや、俺はいつの間にかヤンデレクソゲー時空に迷い込んでしまっていたようだった。このゲームを作ったやつがいるなら俺は言いたい。
限度というものを考えろと。俺はイチャラブを望んでいたのに、これっぽちも楽しくないし、命の危機など考えたくもなかった。
ただ俺は、美少女に囲まれたかっただけで、ついでにそれを羨む級友やイケメンを見下し、愉悦に浸りたかっただけの善良な一般イケメン男子だというのに…!
だが俺は諦めない。俺のハーレムに対する情熱はバッドエンドくらいで折れるものではないのだ。フラグを全てへし折り、双子ハーレムを手にしてみせると決意を新たにするのだった。
…死にたくないよぉ、怖いよぉ…
ブクマありがとうございます
過去回想でした
主人公は生き残れるのでしょうか