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麻宮姉妹と絶対零度

「はぁ、はぁ…つ、つまり私も朝日が好きなんだ…氷雨ではなく、私と付き合え…」


「えっと、ありがとう。とりあえず水飲む?」


氷雨との乱闘を終え、俺に告白してきた時雨は、夜叉もかくやという形相だった。

気合を入れてきただろう、シルバーブロンドのサラサラのストレートヘアーはボロボロになり、髪があちこち跳ねてるし、服も肩紐がずり下がっている。


ただでさえ鋭い目つきだというのに、今は目も完全に据わっており、とても告白されているとは思えない状況であった。

息も荒げ、鉄火場をくぐり抜けてきた女傑のような雰囲気を感じさせる様相だ。

まだヤクザの事務所にカチコミにきたと言われたほうが信じられる。



俺はこの状況にまるでときめきを覚えることができず、双子のキャットファイト観戦を途中で切り上げて自販機まで購入しにいったミネラルウォーターを時雨に手渡すことにした。


ちなみに現在公園内に俺たち以外に人がいない。最初はそれなりにいたのだが、二人の姉妹喧嘩に(おのの)いたのか、みんないなくなってしまったのだ。ある子供など母親に手を引かれながらギャン泣きしていた。将来女性にトラウマをもたないでくれることを祈りたい。


「あ、ありがとう…こういうところは気が利くな…はぁ、はぁ、そ、そういうところも、私が惚れたところなんだぞ…ふぅ…」


「とりあえずまずは息整えてくれない?褒められても全然ドキドキしないんだけど」


時雨は違う意味でドキドキしてるのだろうけど。

そもそも好きな相手の目の前で大乱闘を繰り広げて、それでも告白してくるあたり、時雨も相当肝が座っている。俺ならまず日を改めるだろう。


あんな醜態を見せてOKもらえると思うのなら、相手をよほど信頼してるか、舐めきっているとしか思えない。俺に関してはおそらく後者だろう。これは自己評価が低いとかではなく、長年の経験による直感である。泣きたい。


「あ、朝日ちゃん。私にも飲み物ちょうだい」


そう言って俺に手を差し出してくるのは、時雨の双子の妹、氷雨だ。

こちらは時雨と違い、髪や服装の乱れがない。さらにいえば息の乱れもないし疲れている様子すらないという、大魔王並の強者の佇まいである。


昔から運動神経は氷雨のほうが良かったが、同じ双子でもこうも違うのかと興味深い目で見てしまう。


「ああ、じゃあ氷雨にはこっちを…」


「もちろん朝日ちゃんの飲みかけでいいよ♪朝日ちゃんのダメ人間遺伝子が私の中に混ざり合うって考えると興奮するし」


マジで違うな、この双子。

時雨、お前妹がこうなるまでどうして止めなかった。もう取り返しのつかないところまできてないか。



俺が批難の眼差しを向けると、時雨は目をそらした。わかってるなこの野郎。


この姉は意外と自分ではどうしようもないことに対し、全力で目を背けるところがある。

そのためスルースキルも高いのだが、身内くらいは全力で矯正して欲しい。

それでもお前は俺のママか。


「ママじゃないと言ってるだろ」


そんな目で見ないで。ごめんよマミー。


この後、普通に殴られた。





「それで、朝日ちゃんはどっちを選ぶの?」


時雨に殴られた箇所を優しくさすりながら、氷雨が聞いてきた。

俺は今、公園のベンチで氷雨に膝枕をしてもらいながら、バブみを感じているところである。

時雨は厳しくも時おり優しさをみせてくれるが、氷雨はどこまでも甘やかしてくれる。これもひとつの母性だろう。


俺は束の間の安らぎを得ていたが、時雨からの視線がキツイ。完全にクズを見る目で俺を見ていた。


「俺、ちゃんと答え言ったじゃん。ハーレムがいいんだよ。男は夢を諦められない生き物なんだよぅ」


そう言って俺は顔を氷雨の太ももへ擦りつける。

「ひゃん」という氷雨の声が心地いい。それでも俺を優しく撫でてくれるのだから、たまらない。ハマりそうだ。


俺のセクハラ行為に時雨から視線が氷点下を通り越して絶対零度になっているがスルーする。決して怖いからではない。アブソリュートゼロの眼差し…俺の厨二心が疼くぜ。


何事もプラス思考は大事だと思う。俺はポジティブな男だった。


「朝日…お前というやつはどこまで腐っているんだ…」


氷雨に甘え続ける俺の耳に、時雨の失望の声が聞こえた。

その声は震えていて、今にも泣きそうだ。俺は慌てて氷雨の膝から跳ね起きる。


ヤバイ、やりすぎた。

後悔の念が襲ってきた俺は立ち上がり、時雨に謝るべく近づいていく。


後ろでは跳ね上がった時にぶつけてしまった鼻を抑えて氷雨が悶絶しているが、こちらは後回しだ。あとでしっかり謝ろう。


「朝日ちゃんからDV…悪くないかも…」なんて声は俺の耳には届いてない。届いてないといったら届いてないのだ。


「時雨、ごめん。俺間違ってたよ」


「朝日…」


俺は真面目な顔で時雨の前に立った。

せめて誠意を見せなければいけないだろう。それでも許してくれないかもしれないが、俺は時雨が許してくれるまで頭を下げ続けるつもりだ。



「ハーレムは言い方が悪かった。二人なら両手に花とか呼び方考えるべきだったよな。それに考えてみたんだけど、お金持ちのお嬢様を加えれば金の問題は解消…」



「お前ほんと一回死んどけ」



下げていた俺の頭は時雨のアッパーによりカチ上がった。

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