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朝日くんと砕けた夢

「あ、あのー…もしかして二人とも怒ってらっしゃる?」


俺はおそるおそる聞いてみた。一縷の望みにかけたのだが、所詮望みは望みだった。


「お前、好きな男に告白しようとしたら二人が好きだとかハーレム入れと言われて喜ぶ女がいると思うのか?いきなり浮気宣言してるという自覚あるのか?」


「しかも私達が仲良し姉妹ってわけじゃないの、朝日ちゃんは知ってるわよね?ほんと、朝日ちゃんってゴミクズ…こんな駄目な人は社会に出る前に私が養ってあげなきゃ…」


圧倒的正論だった。暴力的ですらある。

氷雨は何故か恍惚とした表情を浮かべていたが、ハーレムに同意してくれたわけではないらしい。

この場に俺の味方はいなかった。


「で、でもさ、ハーレムは小さい頃からの俺の夢で…」


「じゃあ聞くが朝日、お前は自分にそんな甲斐性があるとでも思っているのか?」


「ふぇ?」


それでも夢は夢だ。

悪あがきをしようとする俺に、時雨の言葉が突き刺さった。


ちなみに先ほどのかわいらしい声は氷雨のものではない。俺の声だ。


残念だったな、俺も残念だ。自分の新たな可能性を発見してしまってちょっと悲しい。



しかしかいしょう…かいしょうねぇ。

あ、あれか。蚊衣装ってやつか?そんなコアな衣装があるか聞くとか、時雨にも案外お茶目なところがあるようだ。


隠れコスプレ趣味ってやつだろうか。蚊の衣装とかちょっと選択がマニアックだがかわいいやつめ。

それでも時雨ならきっと似合うだろうから美人はずるい。

俺は胸を張って答えた。


「時雨、俺は蚊の衣装は持っていないが裁縫は得意だ。きっとイベントまでにお前の満足する衣装を作ってみせる」


「お前がボケるのが好きなのは分かっているが、つっこまんぞ。いいから現実を見ろ」



…スルーされてしまった、ちょっと本気だったんだが。

悲しい。仕方ないから、俺は真面目に答えることにした。



「甲斐性ってあれだろ?どれだけ相手を幸せにできるかとかそういうのだろ?お前達を満足させてみせるから任せとけ!絶対幸せにしてみせるし、俺の愛は平等だか…」


「お前、自分に私達二人を養えるだけの金を稼げる能力があると思っているのか?」


「ふぇぇ?」


フリッカージャブが飛んできた。

ラブの話をしようとしたらマネーで殴られたのだ。


予想外の奇襲に俺のHPは半分近く削られていた。

それでも俺はなんとか反論を試みる。


「お、お金が全てってわけじゃ…」


「お前、自分の成績分かってるのか?普通の公立校で真ん中だぞ?常に上位を維持してる私や氷雨に比べてお前はどうなんだ。一緒に勉強会をしてもふざけてばかりじゃないか。それでいい大学に行っていい企業に入ってお金を稼げると思っているのか?そうじゃないと成人二人も養うとか厳しいぞ。税金だってあるんだ」


「ふぇぇぇぇ…」



や、やめてよね。そ、そそそそんな正論でボクが考えを変えるはすが…



「子供ができたらさらに養う人数は増える。扶養にも入らなければならないが、その時はどうするんだ」


「い、今の時代共働きが当たり前だし…」


俺の声は震えていた。既にメンタルゲージは真っ赤だ。


子供を持ち出すのは本当にやめてくれ。夢が壊れていく音が聞こえるじゃないか。


だが、時雨の猛攻は止まらない。忘れていたが、時雨は真性のドS女なのだ。俺の心があと一歩でへし折れるというのに、見逃すはずがなかったのである。


「二人同時に籍には入れないんだぞ。内縁の妻だろうが片親は片親だ。子供が大きくなった時そのことをどう伝えるんだ。そもそも私達の両親に娘を二人とも貰うとどうやって説得を…」



「ごめんなさい、もう許してください」



俺はその場で土下座した。

やめてくれ。いっそ俺を殺してくれ。



俺が長年抱いていたハーレムの夢は現実と法律、倫理観というデンプシーロールからのガゼルパンチにトドメのコークスクリューブローの三連コンボで沈められたのだ。


その攻撃力は半端ではない。十二の命を一気に持っていかれた気分だ。命を刈り取る形をした言葉であった。

言葉の暴力によって、完全に俺の心はポッキリとへし折れてしまった。


現実は俺とってあまりに強大すぎる敵だったのだ。


というか死にたい。子供の幸せまで持ち出されてどうしろってんだ。浅はかな考えでハーレムとか口走った自分が恥ずかしくて、もう泣きたい。あ、無理。もう限界。



俺は地面に頭を擦り付け、慟哭した。






「うぐっ、うぐぅっ、うああああ」


時雨の言葉に完全敗北を喫した俺は泣いていた。

時雨は少しだけ目を細め、どこか優しさを感じる瞳で俺を見つめていたが、背中を撫でてくる氷雨の様子がおかしかった。


ハァハァと息を荒げ、「みっともない朝日ちゃんかわいい…」などと時おり呟いてくる。


正直そっちの怖さが上回り、もう涙が止まりかけていたのだが、俺は時間稼ぎのため強引に心の汗を絞り出していた。

もしかしたら俺には役者の才能があるのかもしれない。

新たな夢が早くも見つかりそうになっていた。



泣き真似をしながらこれからどうするか考えていると、時雨が声をかけてきた。


「少しは落ち着いたか?」


いえ、全然落ち着きません。主にあなたの妹のせいで。


「あ、うん。なんとか…」


などとはさすがに言えず、俺は四つん這いの状態からゆっくりと立ち上がった。残念とか言って口を尖らせている氷雨のことはもちろん無視だ。


「そうか、なら理解したな。自分の身の程というものを」


「うん、嫌というほど」


それほどのダメージだった。これまでのハーレムに対する幻想な打ち砕かれ、嫌でも現実を突きつけられるくらいには。


…あれ、俺なんでここにきたんだっけ…ていうかこの流れって俺振られてるのでは?

ヤバい。また泣きそう。現実はどこまでも過酷だった。


「それは良かった…なら、そろそろ本題に入らせてもらおう。だがその前に、そんな顔ではいろいろ台無しだな。じっとしてろ、今顔を拭いてやる」


「ありがとう時雨ママ…」


俺は時雨に母性を感じた。

叱責しつつも、俺の歪んだ考えを矯正してくれたのだ。

感謝の気持ちで一杯だった。


「二度とママと言うな、殺すぞ」


その言葉は殺気が混じっていた。

お礼の言葉で感謝を伝えたはずなのに、優しいママはヤクザへと変貌してしまったようである。


俺の一言が彼女を歪めたのかと思うと、失言の重みが鉛のようにのしかかる。

だが、鉛は加工しやすい金属だ。後でどうとでもなるだろう。俺は思考をぶん投げた。


顔も拭くというよりはもはや拭き殴るといったほうがいい。顔のあちこちが擦れて痛かった。時雨にはジョークが通じないようだ。


「朝日ちゃん、私も!私にもママって言って!」


そして双子の氷雨にも冗談が通じていない。

俺の背後から血走った目で俺の肩をゆすってくる。

今の氷雨のことが、もう俺にはわからなかった。


前門の時雨、後門の氷雨と言ったところだろうか。

彼女達は双子ならではの見事なコンビネーションで、既にレッドゲージを通り越している俺の体力を奪っていく。


麻宮双子に下手なことをいうのはやめようと、俺は心に誓うのだった。







「…よし、これでいいだろう。氷雨、お前もこっちにこい」


「はーい」


必要以上の時間がかかり、あちこち擦りきれた俺のイケメンフェイスが崩れていないか確認していると、二人が俺の前に立った。


「え、今度はなに?同時に振られちゃうの?また俺泣いちゃうけど追い討ちかけるとか君ら鬼畜すぎない?」


「…違う。いいか、一度しか言わないからちゃんと聞け」


珍しく顔を赤らめた時雨が、恥ずかしそうにコホンと咳払いをした。…これは、まさか。


覚悟を決めた表情をした時雨が俺を見つめ、口を開く。


「わた「私朝日ちゃんのことが好きなの!時雨ちゃんのことはどうでもいいから、私とだけ付き合って!」



「…………ひさめぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」



姉の一世一代の告白シーンを、妹が華麗にインターセプトした。


氷雨がやってやったぜといわんばかりのドヤ顔を浮かべ、その顔を見た時雨が絶叫を上げて飛びかかる。



俺は体育座りでその場にしゃがみこみながら、もみくちゃになって互いを罵り合う醜い姉妹愛を見つつ、あることを考えるのだった。



…お金持ちのお嬢様をハーレムに加えたら、いけるんじゃね?



人の夢と書いて儚いと読む。だが俺は最後まで可能性を追い求めたいのだ。



南雲朝日は諦めも悪い男だった。



ブクマありがとうございます


朝日くんの夢は叶うのでしょうか

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公がただのクズだった!笑
[一言] 朝日になって時雨と氷雨に養ってもらえば? 個人的には時雨がMで氷雨がSだと思う。ベッドの上でも。
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