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後藤くんと性癖カミングアウト

「ねぇねぇ後藤えもんくん」


「なんだい、南雲くん」


うわ、似てる…俺はちょっと引いていた。


後藤くんは案外ノリがいい。これはプラス1ポイントだ。

そして物真似も上手い。これもプラス1ポイント。


最後に某猫型ロボットにそっくりな声色だったから合計マイナス100ポイントを俺は進呈してあげることにした。感謝してほしい。


だってキモいんですもの…君、どこからその声出してんの?四次元ボイスでももってんの?

この世はまだまだ不思議で溢れているようだった。


「いや、ちょっとした興味で聞くんだけどさ、後藤くんは時雨と氷雨どっち派?」


「それお前が聞くの?えー…なんかすげぇ答えづれぇ…」


「ごめん、聞き方が悪かったね。後藤くんはSとMどっち?」


「逆に直球すぎるわ。Mだけど」



後藤くんは素直な人らしい。

人生においてまるで役に立ちそうにない素敵な情報を頂いてしまった。この事を後で時雨派の男子に売ろう。彼らは後藤くんを同志として心よく迎えてくれるはずである。

俺は心の後藤くんノートにしっかりと書き込んだ。後藤くんはドMっと…


「南雲はいい加減俺に殴られたいの?わざとなの?」


また口に出ていたらしい。どうも嬉しいことがあると口走ってしまうようだった。


「いやいや、そんなことないよ。俺は後藤くんみたいにドM野郎じゃないし。それよりマゾットモンスターの後藤くんに耳寄りの話あるんだけど聞いてかない?」


「なんで会話の中で進化してんだよ。お前の中の俺は不思議なアメでもキメてんのか。…まあ聞くだけ聞くけど、なによ?」


「ちょうど今俺の隣に後藤くん特攻持ちの女がピックアップ召喚されてきてるんだよね」


そう言って俺は親指でクイっと俺の隣に立っている時雨を指さした。ヤバい、これかっこいい…一度やってみたかったんだよなあ。夢が叶った瞬間だった。


時雨は歓喜に震える俺を一瞥した後、後藤くんに冷たい視線を送っていた。


「後藤くん、あなたマゾなの?」


あまりにも直球な質問だった。

俺が言えたことではないが、女子の口から言われると興奮しちゃうのはなぜだろう。世界の七不思議のひとつだと思う。


時雨からの100マイルストレートの質問に、後藤くんはオロオロしながらも答え始める。その様子を見て俺の気分もヒップホップだ。


「は、はい!俺はマゾです!…いや、そうじゃなくて、間違ってないんだけど、こういう形で晒したくなかったっていうか!そう、俺はノーマル寄りのソフトMだから!誤解しないで!」


後藤くんテンパりすぎだろ。誰もそこまで聞いてない。

もはや誤解もクソもなかった。ただ後藤くんがマゾであるとカミングアウトしたことだけがこの世の真実だ。


大声で回答し、盛大に自爆した彼は失言を悟って音を立てて机に突っ伏していた。

女子はそんな後藤くんを夏場のテントに侵入してきた昆虫を見るような目で見つめ、男子は勇者として密かに尊敬の眼差しを送っていた。当然俺もそのひとりだ。

後藤くん、君の勇姿は忘れない…!


「そうなの。まあそんなことはどうでもいいわ。朝日、あなたに話があってきたのだけど」


「あれをどうでもいいって切って捨てるのか。お前ほんとドSだな」


こいつは間違いなく真性のサドである。

人の心が少しでも残っているならあのカミングアウトに思うところがちょっとでもありそうなものだが、時雨の表情には一ミクロンの変化もない。

ガチでなんとも思ってなさそうだ。幼馴染の冷血無比っぷりに俺は戦慄していた。


「人の性癖がどうだろうと考えを変えるなんてしないわ。私はあなたが双子にしか興奮できない特殊フェチの持ち主でも受け入れてあげるし」


「まあ考えてみたら確かにどうでもいいな。それで用ってなによ?」


が、すぐに俺も考えを切り替えた。こちらに飛び火してきたらたまらないからだ。

確かに後藤くんの性癖とか死ぬほどどうでもいい。

むしろカミングアウトするならもっとエグい性癖にしてほしかった。正直肩透かしだ。


教壇前に座っている三枝くんなんて、熟女女教師ものの寝取られじゃないと興奮しないと自己紹介で暴露した強者だというのに。

あの席もくじで当たった生徒に直談判し、社会の宮本先生を間近で見ていたいと力説して勝ち取ったものだった。

ちなみに宮本先生はアラフィフである。日本語でいうと五十路だ。三枝くんの戦闘力はあまりにも高すぎる。


更に三枝くんの右隣に座る田島さんはそれを観察して作った宮本×三枝本をコミケで売ろうと画策していた猛者だ。残念ながら先生の前で堂々とラフスケッチを描いていたため、あえなく幻の本となってしまったのだが。


他にも濃いエピソードを持つ級友揃いなのにあれくらいで倒れるとか、後藤くんは修行が足りないのではないだろうか。

彼が今後クラスに馴染めるのか、俺は心配になってしまった。


「まぁすごく些細なことなのだけど、消しゴムが余ってたら貸してほしい。氷雨に弱みも見せたくないから」


「ほんとに些細なことで逆にビビるわ」


おどけながらも俺は筆箱から消しゴムを取り出し半分にちぎって時雨に手渡した。これを触媒にすれはいつか時雨を召喚できるかもしれない。やらないけど。


これもまあどうでもいいことなのだが、時雨は学校のように人が多くいるところでは若干口調を変えている。


ざっくばらんな男口調は俺にしか見せるつもりがないらしい。ちなみに氷雨はハナから頭に入っていない。

俺は時雨のそんないじらしい姿にときめきを覚え…ることは全くなかった。


冷静に考えてほしい。甘えてくるとかギャップ萌えがあるならともかく、ツン100%の姿のどこに喜びを見出だせというのだ。

デレがないツンはただの性格の悪い女である。というかツンを表に出されると普通に性格が悪いとしか思えない。断じて近寄りたくない人種だ。


時雨は結構世話焼きだし、殴られたこともないためいいのだが、たまにはその無表情を崩してほしいというのが本音だった。


「ありがとう、それじゃあちゃんと授業受けなさいね」


そう言って時雨は戻っていく。いいことをするとやはり気分がいいものだ。

そんなことを思っていると、今度は入れ替わるように氷雨がやってきた。


「朝日ちゃん、私にも消しゴム貸して!」



似た者姉妹かよこいつら。






俺は結局立ち直った後藤くんから消しゴムを借りることでその日の授業を乗り切った。

後藤くんは消しゴムを三個常備してるらしい。

ドヤ顔で胸を張る後藤くんにイラッとしながらも、俺は友人のありがたさを噛み締めるのだった。



…これ、ラブコメだよね?

ブクマありがとうございます


後藤くんはメインヒロインだった…?

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