厨二ライバルと転生トーク
「やっぱお前に頼った俺が間違ってたわ。勝手口はあちらになりますのでどうぞお帰りください」
「あたしもここのクラスなんスけど!?あと朝日さんはあたしにやたら辛辣すぎません?そういうのは後藤さんの役目でしょ!」
「えっ」
俺が教室の扉をクイッと指差すと、二宮が驚愕の表情で俺を見つめてきた。
ついでに後藤くんも驚いているがそれはいい。
そもそも俺が二宮を毛嫌いするのにはちゃんと理由があるのだ。
「うるせぇ。そもそも前から思ってたんだけど、俺と二宮じゃキャラが被ってるんだよ。媚を売るスタイルは俺だけでいい」
「ハハッ!またまたご冗談を」
どこかのネズミみたいな笑い声をあげて、俺の言葉を二宮はスルーしようとした。
悔しいことにちょっと似てる。俺もあとで練習しようと心に決めた。
「いや、俺は本気だぞ。あと構ってちゃんもだな、女の子は俺だけを見てればいいんだ」
「朝日さん、そこまで残念だったとは…さすがあたしが見込んだ男だけのことはあるッス…」
二宮がゴクリと息を飲み、冷や汗を流して俺を見た。
なかなかの演技派のようだがまだ甘いな。俺ならそこで顔を青ざめて号泣することだってできるんだぜ?
俺は二宮に対して無駄に対抗心を燃やしていた。
ついでにいうなら見込まれたってこれっぽちも嬉しくない。
ダストシュートにブチ込むか、後藤くんに擦り付けたいくらいだ。
「なぁ、話を戻そうぜ?そもそもどうすりゃ痛い思いをせずに異世界転生できるかって話だったろ?」
「あ、いたんだ後藤くん」
「最初からいたよ!?」
さっきから影が薄いから忘れてた。
というか後藤くんはこのクラスで圧倒的に印象が薄すぎる。
もっと濃いキャラを身につけないと生き残れないと思うのだが…まぁ今はいい。
確かに後藤くんの言う通りだ。
「そうだな。俺は痛い思いをしないで気軽に異世界転生して無敵のチートを貰ってムカつくやつ皆殺しにして神様になって向こうの世界でハーレムを作ってこの世界に戻って大金持ちになってさらにハーレムを作って一生働かずに遊んで楽しく生きていきたい」
「ワガママすぎません?サンタにプレゼント頼む子供のほうがはるかに現実見てますよ。あと言ってること普通に頭悪いですし、ドン引きです」
厨二病患者に引かれる以上の屈辱がこの世にあるんだろうか?
それに無知な子供は狭い世界のことしか知らないが、俺は多くの知識を身につけたうえでこの夢を持ったのだ。一緒にしないでもらいたい。
「そっちのほうが手遅れだと思うぞ…」
後藤くんのツッコミはどうでもいい。スルーするに限る。
言ってることがまともすぎるんだよ、俺がボケれるようにもっとひねってくれ。
「とりあえずこれが最低限の要求だ。これ以上はびた一文妥協できないぞ、さぁこの純粋な夢を叶えてくれ」
「しょっぱなから最低限がエベレストより高いッスね…しかも上から目線だし。まぁいいッス。そういうことならいいアイデアがあるッスよ!しかも二択ッス!」
「マジか!でかした!?」
そんな都合のいい手段がこの世界にもあったなんて!
まだまだこの世界も捨てたもんじゃないな!目の前が輝いて見えるぜ!
「じゃあ練炭と大量の睡眠薬、どっちにします?明日もってきますよ」
「却下で」
やっぱ現実ってクソだわ。
練炭はともかくなんで睡眠薬持ってんだよ、なんかこえーよ。
二宮はほんとに厨二病にかかってんのか?提案された方法があまりにも生々しい。
もっとこう儀式とか、神様と交渉とかこう…なんかあるだろ!
「朝日さん…そういうのはまだあなたには早いッス。あたしの領域に、まだ朝日さんは届いていない…」
「に、二宮…!」
ヤバイ、今のはちょっとカッコよかった。
ルビまで振っているとか、やるな二宮!厨二病は伊達じゃねぇ…
俺も決め台詞を考えよう。二宮だけには絶対負けないんだからね!
「フフフ…」
「クハハハ…」
「あ、もう昼休み終わるな、次は家庭科だし移動しようぜ」
後藤くんが立ち上がったタイミングで昼休みの終わりを告げるチャイムが響いた。
現実に戻って固まる俺たちをよそに、スタスタと教室を出て行く後藤くんを呆然と見送るのだった。
「…あの人、空気読めないッスね」
「そだね…」
だから友達いないんだぞ、後藤くん…