朝日くんと異世界転生
俺はある日の昼休み、いつものように後藤くんとご飯を食べながら雑談に興じていた。
内容はいつもながらくっそくだらないどうでもいい話である。
「ねぇ後藤くん。俺異世界転生してモテモテハーレム作りたいんだけど、どうすればいいと思う?」
「死ねば?」
返ってきた言葉は辛辣だった。
たった三文字の日本語のなかに、圧倒的な殺傷力がこもっている。
人の心を持たない悪鬼の如き解答に、俺は思わず激高した。
「なんで俺が死ななきゃいけないんだよ!俺が死ぬとかまだ見ぬハーレムの子が悲しむじゃないか!あと痛いのは絶対嫌だ!断固拒否する!」
「それはないと断言できるが仕方ねーだろ。死ぬのは異世界転生のお決まり、テンプレってやつだ。諦めろ相棒」
最近耐性がついてきたのか、俺の怒りのツッコミをスルーした後藤くんは素知らぬ顔でコッペパンをパクついている。
後藤くんのくせに生意気な。あとで俺も買ってこよう。
人間一度怒ると急激に沸点が下がるものである。
強制的に明鏡止水の境地にたどり着いた俺は、なんとかならぬかと頭を捻った。
IQ102の頭脳の見せ所だ。
「お前、意外と普通の頭してたんだな…」
テメェの頭の毛引っこ抜いて普通じゃなくしてやろうか。
後藤くんの頭に巨大なミステリーサークルでも作って宇宙人を呼び込もうかと思案していると、俺たちの間に近づいてくるひとりの影があった。
「お、ファンタジー談義っスか。やっぱりお決まりの転生っスか?それならあたしにお任せっス!」
「帰れ」
その存在を確認することなく、俺は野次馬ボイスに即答する。
俺は忙しいのだ、こいつに構っている暇などない。
再度思考に没入し、異世界に転生するための思案を巡らせようとするのだが、それを遮る不届き者がこの世界には存在した。
「そんなこと言わないでー!構って、構ってほしいっスー!」
「ふんなればっ!」
あろうことか、昼飯を食べたばかりの俺にこの構ってちゃんは物理的な揺さぶりをかけてきたのである。
襟元をひっ掴んで、ヘビメタさながらの激しいヘッドバンギングが行われたのだ。
それはさながら顔面ロデオ。生贄に自分を差し出し、俺の喉奥に存在するパンドラの箱を開かんとする狂気の宴である。
俺は全然嬉しくない。ていうか吐く。めっちゃ吐く。あ、なんか出ちゃう。でちゃうのぉ!
俺はなんとかそいつの肩をタップし、教室に開かれんとしていた地獄の門の開放を未然に防いたのである。
ちなみに後藤くんはこの間ずっと固まっていた。
彼は女の子にまるで耐性がないのである。
こいつほんと使えねぇ……
「それで二宮、なんかいい考えあるのかよ」
「モチのロンっス!」
答えだけはいっちょまえだな、おい。
俺は首をさすりながら、ドヤ顔を浮かべる厨二病患者にしてクラスメイトである二宮神羅を涙目になって睨んでいた。
先ほども述べた通り、二宮は生粋の厨二病である。
それも親ゆずりの二代に渡る純血のスーパーエリート。
名前を見たときはガチで引いたし、自己紹介でも自分は吸血鬼の生まれ変わりだとかほざいたやべーやつだ。
髪も金髪に染めており、目には赤のカラコンまで入れている。
その割にお嬢様どころか舎弟口調だし、真性の構ってちゃんでもある。
キャラがあまりにもブレブレだった。
ここまでくれば普通のクラスなら三日でいじめをうけて不登校になりそうなものだが、あいにくうちは普通ではない。
今も教室のど真ん中で大道芸をやっているやつがいるくらいフリーダムなのだ。
天井近くをナイフが飛び交い、いつ串刺しになるかも分からない命をかけた度胸試しが行われているというのに、クラスメイトはみんな笑顔で談笑しているくらい危機感を含めた全ての感覚が麻痺していた。
きっとデスゲームに巻き込まれても、こいつらは素知らぬ顔で生還することだろう。
おかげでうちのクラスにやってくる他のクラスのやつは滅多にいないし、進級前に他のクラスからの血判書が校長に送られたとかでガチビビリした学校側の処置により、一年のクラスからひとり残らず繰り上げである。
この教室でまともなのは俺だけのようだ…まったくもって嘆かわしい。
そんな超真人間たる俺は二宮の聞いたときはネグレクトを疑ったが、本人もノリノリで話していたのでまぁいいかという結論がでた。
君子危うきに近寄らずというやつである。
さすが俺、賢い。
完璧な自分を思わず自画自賛してしまったが、今は俺と同じくらい自身満々な二宮の言葉に耳を傾けるべきだろう。
「それで異世界転生に関してなんだが、二宮はいいアイデアがあるのか?」
「はい、死ねばいいっス!」
……こいつらほんと使えねぇ……
厨二病少女は鉄板です