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委員長と諭吉さんビンタ

「ゆ、雪村…!俺はお前を信じていた!さぁ、今すぐ俺を助けてくれ!委員長に金を払って今すぐ俺を救ってくれ!」


先輩の教室にひとり乗り込んできたというのに、堂々とした佇まいで悠然としている我が救世主に、俺はすがりついた。文字通り全身で。


雪村はお嬢様である。中学の頃は実家が豪邸で馬鹿でかいことでも有名だったのだ。なんでも有名企業の社長令嬢らしい。俺が雪村に近づいた理由のひとつでもある。


つまり金持ち、つまり雪村には金がある、だから俺は救われる。見事な三段論法だ、文句のつけようもない。


恥?外聞?それがなんだというんだ?プライドを捨てずに意固地になって男を貫いたところで、それで俺が救われるのか?答えは否。


この世は金だ。パワーイズマネー。俺はこの世の真理をこの歳ですでに悟っていた、天才だからな。

そのためには靴さえ舐める覚悟ができている。いや、雪村の靴ならむしろ舐めたい。いい味がしそうである。


「後輩に頼るなんて、恥ずかしくないんですかぁ?しかもお金をたかるなんて、人間のクズそのものですよぉ?」


雪村が冷たい目で俺を見下してくる。ゾクゾクする目だ。

先輩をリスペクトする気がカケラもない彼女に、俺は正直に想いを伝えることにした。

宵越しの金すら持ってない今の俺にできるのは、彼女に誠意を見せることだけだからだ。

ちなみに小遣いは全てギャルゲーに使っていた。後藤くんのオススメにハズレはない。


「いや、全然。全く恥ずかしくない。俺という人間の価値は金なんかじゃ測れないからな、雪村だって分かってるだろ?」


俺は曇りなき眼で幸村を見つめた。今の俺の瞳は赤ん坊のような純真な目そのものだ。

俺は悪くない、俺以外の全てが悪い。そんな想いを込めた答え。

雪村は、俺の誠意を受け取ってくれただろうか?


「あはぁ…それでこそ先輩です。無責任で自己中で人間のクズそのもの…なのに全く悪びれない…今時見ることができない、極まったダメ人間です…ほんと、遊び甲斐がある…ふふふ…」


雪村は恍惚とした表情で俺を見ていた。言っていることは全く理解できないが、どうやら俺の気持ちは伝わったらしい。さすが俺のハーレムメンバーのひとりだ。


「な、なら金を出してくれるんだな!今すぐ金をくれ!さぁ、さぁ!」


「相棒、お前びっくりするくらいクズいな。マジで引くわ」


性犯罪者が呆れ返った声でそんなことを言ってきたが、俺は無視した。

後藤くんの言葉など、耳を傾ける価値もない。


「まぁ先輩のどうしようもなさに免じて今回は払ってあげます。もちろんこれはツケですからね。あとで返してもらいますよぉ」


「任せろ!体で払ってやる!一晩で十回は固いぜ!」


「あ、そういうのはいいんで」


俺の支払い方法はしれっと雪村に断られた。フフッ、ツンデレってやつか?可愛いやつめ。

まぁいい。ハーレムに加えれば身内も同然だからな。家族に金を払う必要なんてないだろう。

俺が幸せにすることで返せば、きっと幸村も納得してくれる。

俺はできたばかりの借金を踏み倒す気まんまんだった。



「それで雷羽先輩、氷雨先輩の倍額払うんでその遊び道具(ろくおん)を私に売ってくれませんか?」


「ちょっとリンゼちゃん、もう交渉は成立したのよ。お金で買収しようなんて汚い方法で後からそういうことを言うのは私どうかと…」


「もう一声いけたらいいわよ」


「雷羽ちゃん!?」


さすが雪村、交渉というものを分かっている。

金にものを言わせたやり方に委員長は屈していた。目がドルマークになってやがる。

氷雨は金の奴隷となり、友との友情を裏切った委員長を驚愕の表情で見ていた。


「ごめんね氷雨。あなたは大切な友人だけど、私はお金のほうが好きなのよ。現金は信頼に勝るわ」


「ぶっちゃけすぎだよ!考え直して雷羽ちゃん!」


氷雨は委員長の肩をその剛力でグワングワンと揺するが、彼女を心変わりさせることはできないだろう。

今夜はすき焼きよなどと呟いてよだれを垂れ流してトリップしている委員長に、友の言葉は響かない。


彼女をこの世に連れ戻すには金しかない。

雪村が差し出した数枚の諭吉さんに目を輝かせて平伏し、後輩に媚びへつらう委員長を見て俺はあることを誓う。



―――俺は絶対あんな人間にはなるまい



人間ああなったらおしまいだ。俺は諭吉さんに怪しい目つきで頬ずりを繰り返す委員長を、冷たい目で見下していた。

同時にこうも思う。委員長も俺のハーレムに加えて矯正してやるべきだなと。

俺はどこまでも慈悲深いのである。




ちなみに後藤くんは後日先生に呼び出され、普通に反省文を書かされていたが、俺を含め誰も彼のことは気にかけていなかった。やはりぼっちは悲しい生き物だ。


もう少し後藤くんに優しくしてあげようかと、俺は密かに思うのだった。

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