後藤くんとそうだ、覗きに行こう
「オッス後藤くん!今日は午後から身体測定があるらしいんだ。一緒に女子の下着姿を覗きにいかないかい?」
次の日の朝、いつも通り麻宮双子に挟まれながら登校した俺は、挨拶がてら後藤くんに大変魅力的な提案を持ちかけていた。俺の言葉を聞いた後藤くんは喜びのあまり、さっそく顔を青くしてくれる。
「おい、おま!俺を巻き込むなよ!しかも周りにバッチリ女子がいるじゃねーか。無謀すぎて計画もクソもねーぞ!」
「そんなことは分かってるよ。だから誘ったんじゃないか」
やれやれ、後藤くんはなにを言っているのやら。
俺はなんの対価もなしに女子の裸を拝もうと思うほど厚顔無恥でもなければクズでもない。
俺は動画サイトでも心の中でキッチリ謝り、かつ指の間からチラチラのぞき見ながら最後はガッツリ見るタイプだ。
分かるかい?物事は手順というものが重要なんだよ。それさえ踏まえれば許されるんだ。
内心ではハーレムのことしか考えてなかろうと、形だけでも土下座をして謝れば浮気しようと許されるのが世の中だ。
どんなカタチだろうが、ポーズというものは世渡りにおいて重要なピースなのである。
「俺はここであらかじめ覗きをすると宣言した。だから覗かれるとしたらそれは女子のガードが甘かったからだ。つまりは俺のせいじゃない、覗かれても仕方なかったということなんだよ後藤くん。いや、むしろ向こうが誘ってたまであるくらいだ!」
「…南雲、お前天才かよ…!」
俺の言葉に感銘を受け、声を震わせる後藤くん。
実に素直だ。君と友達になれて良かったと、俺は心から言える。
感謝するぜ、後藤くん。君と出会えたこれまでの…全てに!
「完璧な理屈だ…乗ったぜ南雲!いや、相棒!俺達は一蓮托生だ!」
「よし!じゃあ5限目が終わったら保健室に即ダッシュして…」
「あたし、今から先生に報告してくるわ。南雲と後藤がついに尻尾を出して性犯罪に走ったって。きっとあたしの内申点も爆上がりよ」
「ごめん委員長まってマジまって」
俺は職員室にダッシュで向かおうとした委員長の腰に抱きつき許しを乞うた。
ついでに臀部に顔を擦り付けるのももちろん忘れない。
ひいっという委員長の悲鳴が聞こえた気がしたが、俺の将来がかかっているのだ。妥協などできはしない。
後藤くん?別にどうでもいいだろ、あんな性犯罪者。
「話を聞いてくれ委員長!俺は騙されたんだ。全ての罪は後藤くんにある。だから報告するにしても、俺だけは見逃してくれ!」
「あっ、汚ねぇぞ南雲!話を持ちかけてきたのはお前だろうが!」
「だまれ、女の子の敵が!このぼっち野郎!」
「それいま関係なくない!?」
全く、なんて見苦しい男なんだ。男なら堂々とあるべきだ。
後藤くんにはたっぷりと反省してほしい。嫁入り前の女性の裸を覗くなど、男の風上にもおけない愚劣な行為だ。
俺には覗きなんて考えられない…後藤くんがそこまで腐っていたなんて…!
俺はつい最近習得したばかりの泣き芸で強引に涙腺を刺激し、涙を流した。
これは友のために流した涙。断じて保身のためのものではないと、ここに明言しておきたい。
「ぐすっ…後藤くん、どうして…」
「ちなみに私、証拠確保のためにスマホであんた達の会話を録音していたのよね」
「…なぁ、委員長。俺たちは中学の頃からの仲じゃないか。もう一度やり直さないか?」
「さり気なく私とあんたが付き合ってたように過去を捏造しないでもらえる?不愉快なんだけど」
くそっ、やられた!さすが旧知の仲といったところだろうか。こちらの行動パターンを読んでやがる。
この混沌極まるクラスの委員長の座についた手腕は伊達じゃないということか。
こんな状況じゃなければ頭脳担当としてハーレムに誘うものを…
「言っておくけど、頭脳どうこうじゃないからね。あんたが死ぬほど分かりやすいだけだから。あと委員長はジャンケンで負けただけじゃないの」
「……そっすか」
なんにせよ、状況は万事休すだ。
このままでは俺は後藤くんの巻き添えを食らってしまう。
どうすればいい、どうすれば俺だけが助かることができるんだ…!
自慢の灰色の頭脳をフル回転させていると、背後から肩をポンと叩かれた。
その相手は俺を地獄へと導かんとする悪魔の死者、後藤くんである。
彼は諦めたような、だけどどこか嬉しそうな顔で言った。
「なぁ相棒、もう諦めようぜ。俺たち二人でこれからはぼっち仲間として生きていこう」
「断る」
君と一緒にしないでくれ。俺には友人と呼べる相手が他にもたくさんいる。
彼らは今は一様に俺から目を逸らしているが、本来は気のいいやつらだ。
状況が状況だけに、今は声をかけられないだけだ。
三人以上で会話してると、話に入ってこれない後藤くんとは違うのだ。
「ハッ、その強がりがどこまで続くのか見物だな」
何故か急に悪役貴族のようなことを彼は言い出した。言っておくが、全然カッコよくないぞ。
腐った生ゴミを見る目でこちらを見ていたクラスメイトも、今はどこか同情するような目で後藤くんを見ているのがその証拠だ。あの勝ち気な委員長でさえ、ちょっと距離を取っている。
それに気付かず高笑いまであげてるあたり、もう誰にも後藤くんを救うことなどできないだろう。
だが、俺だけは救って欲しい。こんなに俺はイケメンなんだぞ!顔が良ければ人生イージーモードのはずだろうが!
この世の理不尽に怒りをぶつけていると、俺たち以外にすっと立ち上がる人影があった。
長い銀色の髪を青いリボンで束ね、背中に流すその髪型をした少女など、このクラスには一人しかいない。
「ねぇ、雷羽ちゃん」
「ん?なによ、氷雨」
そう。麻宮姉妹の双子の妹、氷雨である。
彼女は笑顔を浮かべながら委員長へと話かけていた。
ひ、氷雨!俺はお前を信じていたぞっ!
やはり冷血漢の姉とは違う!お前こそ慈愛の天使、いや女神だ!
正直いうと、最近は時雨よりお前のほうがドSなんじゃないかと思い始めていたのだが、そんなことはなかった。
もう俺にはお前しかいない。お前が俺のハーレムメンバー第一号だ!正妻の座をあげてもいいぞ!
初めてサンタクロースを見た子供のようなキラキラとした眼差しで氷雨を見つめていると、俺のクールアイズに氷雨も気付いたようで、こちらにニッコリと笑いかけてくれた。
「氷雨様…俺、信じてたよっ!お前となら付き合っても」
「雷羽ちゃん。その録音、いくらで売ってもらえる?」
「…………ふぇ?」
ナニイッテンデスカー?ヒサメサーン?
委員長登場です




