朝日くんと金髪ツインテール小悪魔後輩
「ぐ、ぐおおお…」
「えへへ、久しぶりですね。先輩!」
あまりの痛みに悶絶している俺に構うことなく、驚異の殺人タックルを仕掛けてきた少女が話しかけてきた。
目の前で苦悶のタップダンスを刻む俺のことなど視界に入ってないのではないかと思うほどに、可憐な笑みを浮かべている。
ひょっとして俺じゃない虚空の誰かに向かって喋っているのではと一瞬考えもしたが、すぐに思い出した。
そうだ、こいつはこういうやつであると。
「ひ、久しぶりだな雪村…相変わらず元気そうでなによりだよ。元気すぎて歓迎のリバーが俺の胃世界からトリップしてきそうだけど…」
「それが私の取り柄ですから!」
えっへんとデカイ胸を雪村は張っていた。
こいつ、相変わらず人の話を聞いちゃいねぇ…そして相変わらず胸がデカい。ほんとデカい。中学の頃からさらに戦闘力をあげてやがる…!
美しいものを見た俺は、全てを許すことにした。
でっかいは正義だ。異論は認めない。
俺は巨乳派だった。
「そういえばお前も同じ高校にきたんだったな。雪村ならもっと上を狙えたんじゃないのか?」
賢者タイムに突入し、落ち着きを取り戻した俺は改めて金髪ツインテールの後輩に話しかけた。
彼女の名前は雪村リンゼ。
俺や麻宮双子と同じ中学出身で、一年後輩に当たる美少女だ。
イギリス人の母親を持つハーフだそうで、生まれ持った綺麗な金髪と当時から圧倒的な戦闘力を誇った胸部装甲で、中学の時は双子と男子人気トップ3の座を独占していた。
中学の頃には既にハーレムの野望に燃えていた俺が彼女に接触した理由はただひとつ。雪村を俺のハーレムに加入させるためである。
中学生二年生にして既に双子をも超えていたそれに、中学の俺はホイホイ引っかかったのだ。
いや、だって当然じゃん?金髪ツインテールだよ?ロリ巨乳だよ?笑うと八重歯が見えちゃう小悪魔チックな美少女だよ?
漢のロマンじゃん??俺絶対悪くないじゃん???
そんな下衆な下心全開で近づいた俺を、雪村は普通に受け入れてくれた。
スマホの番号も交換したし、休みの時はたまに遊ぶようにもなった。チャットでも向こうから話しかけてくれるほうが多かったのだ。
数ヶ月後、俺は確信した。これはイケると。
これは俺の偏見だが、美人の後輩にわざわざ近づく男は100%下心を持っている。
そうでなければ何の接点も持たない相手に関わりなど持とうとはしない。この年代特有のガラス並にデリケートで複雑なハートでは、違う学年の生徒に話しかけるのは勇気のいることなのだ。
きっかけは俺が話しかけたこととはいえ、拒絶もせずにむしろ積極的に会話をしてくれるのだ。間違いなく雪村は俺に好印象を持っているはず…つまりはそういうことだ…そういうことだろ!!
今思えば、当時の俺は相当がっついていた。
俗にいう肉食系男子そのもの。キャバクラで若い子に金を貢ぐ中間管理職のおっさん並に、かわいい女の子に飢えたケダモノといっても過言ではなかっただろう。
俺はイケメンではあったが、ワイルド系というよりはどちらかというと線の細いアイドルタイプの顔立ちである。
そんな俺が目を四六時中ギラギラさせて女子を見つめていたのだ。きっと麻宮双子も気が気でなかったに違いない。彼女達にも悪いことをしてしまった。
笹を取られたパンダみたいな目をしてるなとか、今の朝日ちゃんは去勢されることがわかったチワワみたいな目をしてるね♪なんて当時は言われたような気もするが、きっと気のせいである。
俺は間違いなく野獣だった。断じて草食系ではない。
まあそんなわけで、俺はある日雪村を屋上に呼び出した。
雪村を待っている間、俺は告白が失敗する可能性など微塵も考えず、中学生男子特有の妄想の中に存在する理想の未来に酔っていた。
もうすぐあのウォーターメロンが自分のものになるんだぐへへとヨダレをたらし、脳内は桃色トリップしていたその姿は、誰がみても危ないやつであったことだろう。
俺の数ある黒歴史のひとつである。
そんななか、やってきた雪村にかけた言葉はひとつしかなかった。
―――俺と付き合ってくれ!そしてハーレムに入ってくれ!!
麻宮双子の時とほぼ同じ告白を俺はしていた。
告白のパターンなど、俺はもっていなかったのだ。
ハーレムを願っていたが、俺は今も昔も童貞だった。
―――あ、ごめんなさい。そういうつもりなかったんで。でも先輩で遊ぶの楽しいですから、これまで通りの仲でいましょ!ほら、早速遊びにいきますよ。先輩!!
そんな俺の告白は、あっさりとかわされた。
そして何事もなかったかのように俺達は街へと遊びに繰り出し、俺は中学卒業の日を迎えるのだった。
…うん。綺麗な過去回想だった。
雪村に振られたという事実も今の今まで忘れていた。
なんなら最初から仲のいい後輩くらいまで記憶をいじっていたまである。
俺は過去を振り返らない男なのだ。
悲しい過去などシュレッダーにかけてからみじん切りにし、ハンバーグにこねて形を変えるくらい、全て作り替えて記憶を捏造するのが俺の得意技だった。
高校に上がってからしばらく俺達の縁は途切れていたのだが、確かに春休みの時にうちの学校に受かったという報告を受けたような気もする。
あの時は双子のことで思考回路がショートしており、どうやってバッドエンドを切り抜けるかで頭が一杯だったため、他のことは全て二の次になっていたのだ。
雪村は頭も良かったし、てっきり有名お嬢様学校にでもいくのかと思っていたので、ここでの再会は意外といえば意外だった。
俺からの問いかけに、雪村はモジモジとしながら次第に顔を赤らめていく。
こ、これはまさか…そういうことか?そういうことなんだな!!
俺のテンションも何故か期待に膨らみきっていた。
ここに時雨がいたら中学の時と変わってないなとつっこまれていたかもしれないほど、俺の脳細胞はピンク色だった。
「もちろん、朝日先輩を追いかけてきたんですよ!これだけいじり甲斐があって面白…一緒にいて楽しい先輩はいませんから!」
「雪村…!」
俺は感動していた。そこまで慕われていたなんて思わなかった。何故か知らないが、目尻に涙が溜まってしまう。きっと面白いとかいう言葉は気のせいだ。
都合の悪いことは聞き流し、俺は喜びに浸った。
雪村がゾクゾクしたような、面白いおもちゃをようやく見つけたような顔をしているが、きっと彼女も俺との再会を心から喜んでいるのだろう。
よし、ここはひとつ、先輩らしいところを見せてやろうじゃないか!
「雪村、今日は俺の奢りだ!購買でなんでも好きなものを買って…」
「おい、朝日。ここでなにしてる」
「あら、そこにいるのは…リンゼちゃん?」
「ファッ!!??」
「イィエスッッッ!!!」
なんという運命の悪戯だろうか。
俺と雪村が楽しく談笑している時に麻宮双子と遭遇するという、最悪のバッドイベントが発生してしまったのである。
ハイライトを失くした目でこちらに近づいてくる双子を見て、半ば魂がエスケープしていた俺は、背後で咆哮を上げながら愉悦に満ちた表情で渾身のガッツポーズを決める金髪ツインテールの後輩の姿に気付くことはなかった。
新キャラ後輩ちゃん登場です
この子は愉悦部所属のドSで趣味は人間観察です