朝日くんと屈辱のパシり
「フンフフフーン♪」
俺は今、軽やかな気分の中にいた。
後藤くんに相談したことでなんだか肩の荷が軽くなった気がしたのだ。
間違いなく気のせいではあるが、そこはプラシーボ効果というやつである。
そこに俺の天性の楽観的な性格がコラボレーションすれば、あっという間に目に映る景色がバラ色の未来へと早変わり。
後顧の憂いなど全てうっちゃり、俺は購買へと鼻唄を歌いながら向かっている最中である。
「協力してやるから購買で焼きそばパン買ってこいよ」という後藤くんの要求に応えるためだ。
クライアントの要望を可能な限り叶えるのは当然のこと。決してパシりになっているわけではない。
ぼっちのパシりになるなど屈辱の極みである。これは俺と後藤くんの信頼関係の証明のために必要な行為なのだ。上下関係でいえば明確に俺のほうが上。そこは勘違いしないでほしい。
俺が内心後藤くんを見下していると、不意に視界の隅に見知った女の子の姿がよぎった。
金色の髪をツインテールにした、学園モノでは王道といえる存在の子だ。
当然美少女である。それ以外に俺のセンサーが反応するはずがないのだから間違いない。
人目を惹く美少女という存在を感知する能力は誰でも持っているはずだが、俺はハーレムの野望があったため、美少女の気を感知できるよう修行したのだ。
今なら目を瞑っていても、俺は脳内にその少女の姿を思い浮かべることができるまでに成長している。
そのことを後藤くんに話したらドン引きされたが、田島さんは非常に羨ましがってくれたので問題ない。
後藤くんの評価など、俺の中では既にどうでもいいのである。女の子からの尊敬の眼差しに比べれば塵芥だ。たとえ彼女がどれほど腐った存在であろうとも、女子は女子。
男と女には、決して超えられない壁が存在するということだ。
とりあえず俺は彼女に声をかけることにした。
フラグを立てるのは重要だからな。どんな些細な機会であっても見逃す手はない。
お前双子ヒロインに告白されといてなにしてんの?という意見もあるだろう。
だが待って欲しい。主人公というものはこういうものなんだ。
たくさんの女の子に好かれていると分かっていても、そこに新たなヒロイン候補がいたら声をかけざるをえない悲しい生き物なのである。
そもそもまだルートは確定してないし、これは浮気でもなんでもない。さきっちょだけならセーフとえらい人もいっていた。
そもそもヒロイン候補の追加はみんなが望んでいることでもあるからな。
続編や移植でヒロインが増えるのはよくあることだろ?それまで影も形もなかったのに、それが可愛い女の子であるならみんな両手を上げてウェルカムするじゃないか。
つまりこれはウィンウィンの関係でもある。俺は要望に応える義務があった。
断じて下心はない、ひょっとしたら救済ルートの可能性があるかもしれないのだ。
だからこれは仕方ないことなんだ。
よし、言い訳完了!俺は喜び勇んでその子に声をかけようと――
「あ、せんぱーい!」
「げふぅっ!」
したら向こうから駆け寄ってきた。なんならタックルまでされた。
腰の入ったいい体当たりである。モロにそれをくらった俺は、豚のような悲鳴を上げるのだった。
ブクマありがとうございます
何故か主人公のクズ度が上がっていっている気がします