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ユウワク

作者: 窪宮彩

おなかがすいて死にそうだ。

さっきから頭に浮かぶのはおいしそうな食べ物ばかり。

アレも食べたい!これも食べたい!それも食べたい!

でも私の場合、ひたすら待つしかないんだよね。

今年は、天候不良なのかな。

いつもより食べ物が少ない。

こういう時、空を自由に飛べる鳥が本当に羨ましい。

自由に動けない私は、生まれ変わったら鳥になりたい!と心底思った。


空腹を紛らわす唯一の方法は歌う事。

今日も心の赴くままに声を出す。

「素敵な歌声だね」いつものように誰かが私に話しかける。

「もっと近くで聞いていいのよ」と私。

「じゃあ、遠慮なく近くで聞かせてもらうよ」

私は空腹なのも忘れて、たった独りの観客の為に心を込めて歌った。

「素晴らしい!」拍手をしながら、気がつくとその客は私の目の前にいた。

あとほんの少しで私に触れる距離まで近づいていた。


歌い終わると猛烈な空腹が襲って来た。

そんな私の気持ちなんか気づかずにその客はもっと私に近づいてくる。

「だめ!それ以上近づいては」(ワタシノワナニハマッテシマウヨ)

「何で?さっきは近づいてもいいっていいましたよね」


「でも、これ以上は危険なの!」(イチオウケイコクハシマシタヨ)

「何を言っているんだ」

「だから私に近づかないで」(ダカラヒトハオロカナンダ)

必死に抵抗する私の忠告も聞かずに、

とうとうその客は私に触れてしまった。


そんなつもりじゃなかったのに。

純粋に私の歌だけ聞いてくれればよかったのに。

間に合わなかった。

 

イタダキマス。

久しぶりに口にしたその食べ物は、確実に私を心の底から満たしてくれた。


ごちそうさま。

ありがとう。

余分は頂きません。

必要な分だけ、頂くの。

だから私はもうおなかいっぱい。


今度は心の底から歌うよ。

空腹の時とは違って、満たされた時の声は艶があって格段に違う。

「素敵な歌声だね」

また誰かが私の歌を聞いてやってきた。

「ところでさ、さっき僕の友達を見なかったかい?」

「え、知らない」本当は知っていたけど、もう食べちゃった何て言えない。

「さっきからずっと待っているんだけど来ないからさ」

「待つのはお互い大変ね」

私は笑いながら答える。

「よかったら私の歌を聞きながら待っていたら」

「そうすることにするよ」

 

私はまた空腹になるまで歌い続ける。

今日も明日もあさっても。

だって私は何百年も生き続ける人食い花だから。

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