握った手
貴方死にますよ、と言われて普通の人ならばはいそうですか、とはいかないだろう。
だけれど僕はそれでいいかもしれないと思えた。
やりたいことは特にないが、今務めている企業は漠然と辞めたいと思えた。
これから働くことなく死ねるのならばそれはそれでいいのかもしれない。
退職金で死ぬまで難なく過ごせるだろう。
「その口ぶりからして君は死神なのか」
死神と言えば黒いイメージがある。だが彼女は全体的に白色だ。
「貴方の事故と同時に生まれたんですよ私、だから白色なのです」
なら成熟していくと色は明度を落としていくのだろうか。
「病院の食堂にケーキでも食べに行く?」
「何でですか? 周囲には私は見えないのであなた一人ケーキを食べているようにしか見えませんよ。哀しい人ですね。第一背骨が折れているのですから安静にしといた方がいいと思います」
「良くしゃべるね」
「貴方が話しかけてきたのでしょ!」
彼女は激しく言葉を発するとそっぽを向いた。
僕は彼女に話しかける言葉を考える。
このまま白く美しい彼女を眺めているのもいいけれど、それだと彼女は楽しくないだろう。
「なあ、手を握ってくれないか?」
彼女はそっぽを向いたまま問いかけに答える。
「何でですか」
「こんなヘラヘラとしているようで少し寂しんだ、特に仲の良い友達とかもいないからさきっと誰もお見舞いには来ないだろうし。何だろうな、温もりが欲しい。温もりを感じたいのかもしれない」
勿論、嘘である。誰も見舞いに来ないのは連絡していないからだ。連絡すれば見舞いに来てくれる人は二桁までとはいかないがいる。
彼女は「嫌です」と言った後に俺の手を握ってくれた。
まるで生きている人のような温かみが掌に伝わってきて驚いた。
その驚きを、少しばかりの嬉しさを隠すために目をつぶった。
次に目を開けた時に、つないでいる彼女の手は仄暗い色になっていた。




